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5月16日に見た落ちのない夢の話
妻と小説家の展示にやってきた男。
変わった展示で、壁に小説家が直筆で半紙に書いた短編小説が所狭しと並べられており、その一つ一つの作品の前に感想ノートが置かれている。男は、小説家は字が汚いものだと思い込んでいたため、案外達筆な事に一目置き、そしてどの短編も案外落ちが効いていて面白いことに関心を抱いた。感想ノートには短いが心のこもった感想を書き綴る。
一方男の妻は「うーん」「わからない」など一言の感想
ひこうしょうねん(非行少年/飛行少年)
「お父さんなんて嫌いだ!」
その日の晩ごはんが全部ひっくり返るような大ゲンカをした。お母さんはどちらかといえばお父さんの味方をしていた。
ええい、グレてやる。
ぼくはお母さんのお気に入りの大きな白い毛布を手にとって、マントのように首に巻きつけた。そのまま一階のベランダからぴょんと飛び出る。
そうして、お父さんなんか嫌いだ!お母さんなんかもっと嫌いだ!という力をマントに込めてもう一度低く飛んだ
魔女を看取る(2011年)
「雨が降ってるのね」
女はゆっくりと言葉を選ぶようにそう呟いた。
女は細く、長い指でその頬に垂れた髪の毛を耳にかける。
私は黙って丸イスに座っていた。
雨の雫が屋根に落ちる音だけが静かな部屋に響いていた。
「どうせなら、晴れがよかったのにね」
「そうね。でも雨も好きよ」
女は綺麗に笑う。
笑ってひざの上の皿に再び手をつけた。
「ケーキって、おいしいのね」
女は物思いにふけるように目を閉
ウサギ紳士と自分アレルギー
ある日、お日様がぴかぴかでお空も澄んだ海のような日のことです。
上品なリンゴが沢山実った木の下で、これまた上品なウサギの紳士が胸を押さえてうずくまっていました。
そこへ一匹のカメのお嬢さんが通りかかったので、ウサギの紳士はカメのお嬢さんを呼び止めました。
「すみません、もし、そこの人、僕、とても動けなくて、僕、大変申し訳ないのですが、僕のカバンから薬とお水を取り出してはくれませんか。アレルギーの