みずぶくれ

趣味で書いた小説を不定期に置きます。※一部小説を諸事情により別の場所へ移します

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記事一覧

5月16日に見た落ちのない夢の話

妻と小説家の展示にやってきた男。 変わった展示で、壁に小説家が直筆で半紙に書いた短編小説が所狭しと並べられており、その一つ一つの作品の前に感想ノートが置かれてい…

みずぶくれ
11か月前
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カチューシャ カルピス コーラ

2023/2/9 カチューシャカルピスコーラの3つのお題で作文を書いてみてください 診断メーカー、三題噺お題作成様より  ーーーーーーー  カフェの窓際の席。向かい合っ…

へそまがりと当然のこと

夜、四畳半の部屋で家事を一通り終え、畳に寝転がった俺の頭にふと浮かんだ。 生まれてこの方母親以外の女と触れ合ったことがないな。 幼い頃に感じた母は暖かかった。 母…

4

地球のようで地球でない地球にて

世の中の決まり事に沿って、俺の幼馴染の女の子が明日死ぬらしい。らしいって俺は言ってしまうけど、それは絶対だ。俺の幼馴染の女の子は明日死ぬ。あまりに唐突すぎて、彼…

5

いただくお皿

私達姉妹は、揃って雑誌を読む習慣があった。 ある時、お互いの買う雑誌が、偶然お互いの読みたい内容を掲載していた事が始まりだった。 妹は少女漫画雑誌購入担当。私はフ…

4

ひこうしょうねん(非行少年/飛行少年)

「お父さんなんて嫌いだ!」 その日の晩ごはんが全部ひっくり返るような大ゲンカをした。お母さんはどちらかといえばお父さんの味方をしていた。 ええい、グレてやる。 …

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見ることと見えないもの

去年のクリスマスに、ずっと欲しかったプラモデルをサンタさんに頼んだ。「高すぎるので駄目です」とクリスマスの1週間前にお手紙が届いた。 代わりに僕の枕元に届いたのは…

4

無彩色について

「赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫」 私とミカコちゃんは昼休みに、教室でファッション雑誌を見ていた。今年の流行色の話から自分の好きな色の話になって、私が黄色…

1

首が回らなくなる時まで

「私もう死んじゃいたい」 妹のヨーコが漫画本を手渡しながらそう言ってきた。その漫画本は私達姉妹が好きな漫画で、一昨日本屋へ行った時に最後の一冊だった最新刊。2人で…

5

事無しに抱かれて眠りたい

彼女に振られた。 まだ1月の寒い時期だった。 だから今日は誰かに抱かれて眠りたいと思った。きっと今日は眠るのが下手くそになってしまうから。 街のネオンに照らされな…

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お母さんの口から青虫が出てきた。

お母さんの口から青虫が出てきた。 お母さんは息が止まったように床に倒れこんでいたけど、上半身だけ起こしてゲホゲホと咳き込みはじめた。床にお母さんの唾液が散らばっ…

2

魔女を看取る(2011年)

「雨が降ってるのね」 女はゆっくりと言葉を選ぶようにそう呟いた。 女は細く、長い指でその頬に垂れた髪の毛を耳にかける。 私は黙って丸イスに座っていた。 雨の雫が屋…

1

あの濃淡を知りたい

あの濃淡を知りたい。 声の濃淡は知れる。 言葉の濃淡も知れる。 表情の濃淡も知れる。 あの濃淡は語られなければ知る事ができない。 キミが喋りながらメモ書きに走り書…

海と金木犀

なんだかさいきんなんだかなあ。 こんな時は海に行こう。 そうして海に着くと、海辺に全身ずぶ濡れの女が立っていた。 今は4月なのに寒くないのだろうか。 私は驚いて、け…

3

ウサギ紳士と自分アレルギー

ある日、お日様がぴかぴかでお空も澄んだ海のような日のことです。 上品なリンゴが沢山実った木の下で、これまた上品なウサギの紳士が胸を押さえてうずくまっていました。 …

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いつも寝てるてる子

俺のクラスにはてる子と呼ばれてる女子がいる。 本名は花山陽菜。てる子ではない。 こいつは授業中も休み時間もずっと寝ている。 体育の授業とか、お昼ご飯とか、掃除の時…

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5月16日に見た落ちのない夢の話

妻と小説家の展示にやってきた男。
変わった展示で、壁に小説家が直筆で半紙に書いた短編小説が所狭しと並べられており、その一つ一つの作品の前に感想ノートが置かれている。男は、小説家は字が汚いものだと思い込んでいたため、案外達筆な事に一目置き、そしてどの短編も案外落ちが効いていて面白いことに関心を抱いた。感想ノートには短いが心のこもった感想を書き綴る。
一方男の妻は「うーん」「わからない」など一言の感想

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カチューシャ カルピス コーラ

2023/2/9
カチューシャカルピスコーラの3つのお題で作文を書いてみてください

診断メーカー、三題噺お題作成様より 

ーーーーーーー

 カフェの窓際の席。向かい合って座る僕と彼女。その間にちょこんと置かれたカルピスとコーラ。こちらの様子を見て不思議そうにしている店員さんを、彼女はイライラとした様子で鋭く見つめた。言いたい事は大体分かる。
彼女が言葉を発するより前に、僕は店員さんに軽く頭を

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へそまがりと当然のこと

夜、四畳半の部屋で家事を一通り終え、畳に寝転がった俺の頭にふと浮かんだ。
生まれてこの方母親以外の女と触れ合ったことがないな。
幼い頃に感じた母は暖かかった。
母以外はどうだろう。まるきり想像がつかなかった。母を暖かいと感じたのは何故だろう。同じ血が通っているからではないのだろうか。自分の手を握りあわせてみる。温度を感じた。自分の血は暖かいのだ。

俺は瞼を閉じる。
女を触る想像をしてみた。でも俺

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地球のようで地球でない地球にて

世の中の決まり事に沿って、俺の幼馴染の女の子が明日死ぬらしい。らしいって俺は言ってしまうけど、それは絶対だ。俺の幼馴染の女の子は明日死ぬ。あまりに唐突すぎて、彼女が死んでしまうなんて実感は湧かなかった。

真っ白の部屋。真っ白のベット。真っ白のサイドテーブルには、白い百合が活けられた花瓶。
真っ白の窓枠の外に、どこまでも続く青空を背景にして、俺の幼馴染ーーーツバキは百合の花を一本、手に持って眺めて

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いただくお皿

私達姉妹は、揃って雑誌を読む習慣があった。
ある時、お互いの買う雑誌が、偶然お互いの読みたい内容を掲載していた事が始まりだった。
妹は少女漫画雑誌購入担当。私はファッション雑誌購入担当。

今日は私のファッション誌を二人揃って読んでいた。ケーキのように色も姿も鮮やかなモデル達が目に眩しい。写真越しなのに息遣いまで伝わってくるような可愛さだ。
私もこうなりたいな。こんなに可愛ければ好きな人も振り向い

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ひこうしょうねん(非行少年/飛行少年)

ひこうしょうねん(非行少年/飛行少年)

「お父さんなんて嫌いだ!」

その日の晩ごはんが全部ひっくり返るような大ゲンカをした。お母さんはどちらかといえばお父さんの味方をしていた。

ええい、グレてやる。
ぼくはお母さんのお気に入りの大きな白い毛布を手にとって、マントのように首に巻きつけた。そのまま一階のベランダからぴょんと飛び出る。

そうして、お父さんなんか嫌いだ!お母さんなんかもっと嫌いだ!という力をマントに込めてもう一度低く飛んだ

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見ることと見えないもの

去年のクリスマスに、ずっと欲しかったプラモデルをサンタさんに頼んだ。「高すぎるので駄目です」とクリスマスの1週間前にお手紙が届いた。
代わりに僕の枕元に届いたのはサッカーボールだった。僕は運動が嫌いなのに。
その日僕はサンタさんの正体がお父さんだと気づいた。小学生になってからずっとずっと僕にサッカークラブに入れと言ってきていたからだ。お父さんはバレていないと思っていたみたいだった。喧嘩になった。

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無彩色について

「赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫」

私とミカコちゃんは昼休みに、教室でファッション雑誌を見ていた。今年の流行色の話から自分の好きな色の話になって、私が黄色と答えるとミカコちゃんは俯いて腕を組んでいた。いつものミカコちゃん式考えるポーズだ。そうしてやっと彼女の口から返ってきた答えがそれだった。
赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫。

「多いね」
「虹の色だからね。でも頑張って7色に絞ったん

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首が回らなくなる時まで

「私もう死んじゃいたい」
妹のヨーコが漫画本を手渡しながらそう言ってきた。その漫画本は私達姉妹が好きな漫画で、一昨日本屋へ行った時に最後の一冊だった最新刊。2人でじゃんけんして、私が負けたので妹が持つ事になった本だった。

「死んじゃいたいから、だから、その本お姉ちゃんにあげる」
「なんで?」

至極真っ当な疑問だった。妹はまだ小学3年生で、私は高校1年生。高校生にもなると周囲からの圧力とか酷くな

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事無しに抱かれて眠りたい

彼女に振られた。
まだ1月の寒い時期だった。
だから今日は誰かに抱かれて眠りたいと思った。きっと今日は眠るのが下手くそになってしまうから。

街のネオンに照らされながら、ひたすら当てもなく街を歩いていた。
コンビニで酒でも買おうか、安くて悪酔いできる酒。けれど悪酔いしてしまったら明日に支障が出てしまうな、酒に抱かれるのは今日はやめておこう。
この通りに遅くまで開いている雑貨屋があることを思い出した

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お母さんの口から青虫が出てきた。

お母さんの口から青虫が出てきた。
お母さんは息が止まったように床に倒れこんでいたけど、上半身だけ起こしてゲホゲホと咳き込みはじめた。床にお母さんの唾液が散らばっていく。
そんなお母さんの背中を見て、心配するより先に下着と膝まで届くベージュのシュミーズだけの格好が気になっていた。先月、お父さんが家に帰ってこなくなってからお母さんは家に帰るとずっとその格好をしていた。
大丈夫?って聞いたらこの方が楽だ

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魔女を看取る(2011年)

「雨が降ってるのね」

女はゆっくりと言葉を選ぶようにそう呟いた。
女は細く、長い指でその頬に垂れた髪の毛を耳にかける。
私は黙って丸イスに座っていた。
雨の雫が屋根に落ちる音だけが静かな部屋に響いていた。

「どうせなら、晴れがよかったのにね」

「そうね。でも雨も好きよ」

女は綺麗に笑う。
笑ってひざの上の皿に再び手をつけた。

「ケーキって、おいしいのね」

女は物思いにふけるように目を閉

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あの濃淡を知りたい

あの濃淡を知りたい。

声の濃淡は知れる。
言葉の濃淡も知れる。
表情の濃淡も知れる。

あの濃淡は語られなければ知る事ができない。

キミが喋りながらメモ書きに走り書いた、意味の無い「あ」の一文字の、ひらがなの濃淡を知りたいよ。

海と金木犀

なんだかさいきんなんだかなあ。
こんな時は海に行こう。
そうして海に着くと、海辺に全身ずぶ濡れの女が立っていた。
今は4月なのに寒くないのだろうか。

私は驚いて、けれどこの時期にこれだけずぶ濡れの女と関わり合いになりたくないなと思い、なるべく目が合わないように気を配りながら女の姿が目に入らないような位置の、手近なベンチに腰掛けた。

私は海辺で海の香りを感じたかったのに、とんだ邪魔が入ったなあと

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ウサギ紳士と自分アレルギー

ある日、お日様がぴかぴかでお空も澄んだ海のような日のことです。
上品なリンゴが沢山実った木の下で、これまた上品なウサギの紳士が胸を押さえてうずくまっていました。
そこへ一匹のカメのお嬢さんが通りかかったので、ウサギの紳士はカメのお嬢さんを呼び止めました。

「すみません、もし、そこの人、僕、とても動けなくて、僕、大変申し訳ないのですが、僕のカバンから薬とお水を取り出してはくれませんか。アレルギーの

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いつも寝てるてる子

俺のクラスにはてる子と呼ばれてる女子がいる。
本名は花山陽菜。てる子ではない。
こいつは授業中も休み時間もずっと寝ている。

体育の授業とか、お昼ご飯とか、掃除の時間なら寝ないだろうと思うが、いつだって船をこぐ様に頭をゆらゆらさせて参加している。

「いつも寝てる子」だから「てる子」。

ここまで話をすると、「その子、虐められてないの?大丈夫なの?」と普通心配するらしい。
近所のおばちゃんにてる子

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