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文芸学習

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文学や芸術について学べる記事を集めました。
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このマガジンについて

このマガジンについて

 こんにちは。山田星彦と申します。

 私は本を読んだり絵を見たり、また、じぶんでもそのようなものを創作するのが好きで、noteでもたくさん、文学や美術にまつわる記事を公開してきました。

 その中で、みなさまの芸術鑑賞や創作に役立ちそうな記事をまとめていくマガジンがこちらの「文芸学習」です。

 主な内容と表紙画像は以下のとおりです。

【鑑賞記録】

 文学作品や絵画などの作品を取り上げ、感想

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【文芸センス】太宰治『走れメロス』④太宰らしくない作品なのか

【文芸センス】太宰治『走れメロス』④太宰らしくない作品なのか

 今回は『走れメロス』の最終回です。この記事では、『走れメロス』の内容ではなく、これを書いた太宰治の性格について、考えをめぐらせてみます。

 個人的な見解ですが、作品と作者の関係を理解するうえで、ひとつの観点を提示することはできると思います。ぜひ、参考にしてください。

太宰治『走れメロス』④太宰らしくない作品なのか

道徳教材のような物語

 前回、『走れメロス』のテーマについて考察しました。

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【文芸センス】太宰治『走れメロス』③暴君ディオニスは悪者か

【文芸センス】太宰治『走れメロス』③暴君ディオニスは悪者か

 前回、作品の主人公であるメロスの心情を取りあげました。

 もちろん、それだけ読んでもこの作品は美しく、また読者に信念を貫く勇気を与えてくれますが、それだけでこの作品を名作とは呼べません。

 この記事では、『走れメロス』の深いテーマを探るとともに、そのテーマを体現するもう一人の重要人物ディオニスについて、掘り下げて考察します。

太宰治『走れメロス』③暴君ディオニスは悪者か

太宰の意図

 

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【文芸センス】太宰治『走れメロス』②メロスの心境の変化

【文芸センス】太宰治『走れメロス』②メロスの心境の変化

 この小説は、主人公のメロスが友との約束を守るため、その命をかけて、迫る刻限や悪魔の誘惑と闘う物語です。その中で、メロスとて常に誠実だったわけではなく、ときとして諦念に心を支配されることさえありました。

 今回は、メロスの心境の変化が感じられる文章を集めました。七変化とまではいきませんが、メロスの乱高下する精神を、太宰がどのように描きわけているのか、ぜひ注目してください。

太宰治『走れメロス』

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【文芸センス】太宰治『走れメロス』①あらすじと表現

【文芸センス】太宰治『走れメロス』①あらすじと表現

 今回から数回にわたり、太宰治の代表作『走れメロス』を取りあげます。

 有名な作品で、内容も分かりやすく感動的な物語ですが、この小説が持つテーマは深く、たんなる綺麗事や美談ではない、文学としての魅力があります。そのテーマを数回に分けて追究していきます。

 今回の記事では、特徴的な表現を取りあげながら、作品のあらすじを追いかけます。ぜひ内容を思い出しながらお読みください。

太宰治『走れメロス』

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文芸学習を再開します

文芸学習を再開します

 こんにちは、山田星彦です。

 新年度を機に、しばらく中断しておりました文芸学習の記事を再び投稿していくことにしましたので、お知らせいたします。

 文芸学習は、文学や芸術などについて、みなさまの鑑賞や創作に役立つ知識をお伝えするものです。過去に様々な活動をしてきましたが、これからは特に【鑑賞記録】と【文芸センス】の記事を中心に投稿していきます。

〈↑〉こちらはカフカ『変身』の鑑賞記録。主人公

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【文芸センス】芥川龍之介『トロッコ』⑤文学とは何か?

【文芸センス】芥川龍之介『トロッコ』⑤文学とは何か?

 これまでの①から④の記事で、「小説とは、臨場感や共感を与えることで、読者を物語の世界にいると錯覚させる文章である」という定義のもと、『トロッコ』の文章を詳しく分析しました。

 もちろんそれは、小説というものを読み解き、また自分で執筆する上で、非常に重要な知識であることは疑いようがありませんし、芥川龍之介が『トロッコ』の中で、臨場感と共感を、極めて高い次元で我々に与えてくれるのも事実です。

 

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【文芸センス】芥川龍之介『トロッコ』④共感を生む文章

【文芸センス】芥川龍之介『トロッコ』④共感を生む文章

 前回、『トロッコ』の中から、臨場感あふれる文章を紹介しました。今回は共感を呼ぶ文章を取り上げます。

 共感は心に訴えかけるものです。作品の中で、主人公である良平の心理がありありと伝わる箇所が多くあり、その度に、読者の心は良平の心と一体化していきます。そしていつの間にか、読者の心は物語の世界に引き込まれているのです。

芥川龍之介『トロッコ』④共感を生む文章

恐怖の共感

 これは作品の序盤で

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【文芸センス】芥川龍之介『トロッコ』③臨場感を生む文章

【文芸センス】芥川龍之介『トロッコ』③臨場感を生む文章

 前回、小説とは「臨場感や共感を与えることで、読者を物語の世界にいると錯覚させる文章」であると説明しました。

 しかし、同じ内容の出来事を扱っていても、書く人によってその出来映えは異なります。より強い臨場感や共感を生み出すために、作家は明に暗に、さまざまな工夫や仕掛けを施しています。

 この記事では、『トロッコ』の文章の中から、臨場感あふれる名文を集めて紹介します。臨場感とは、読者の体に訴えか

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【文芸センス】芥川龍之介『トロッコ』②小説とは何か?

【文芸センス】芥川龍之介『トロッコ』②小説とは何か?

 前回の記事で、『トロッコ』という作品が持つ、時代を越えたおもしろさを取り上げました。それは、トロッコに乗って山道を疾走する臨場感と、暗い道を一人で帰る良平への共感のふたつでした。

 この記事では、そのおもしろさを掘り下げて考えることで、「小説とは何か?」という問いに答えを導きます。

芥川龍之介『トロッコ』②小説とは何か?

臨場感と共感

 『トロッコ』の根幹をなしているふたつのおもしろさは

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【文芸センス】芥川龍之介『トロッコ』①どこがおもしろいのか?

【文芸センス】芥川龍之介『トロッコ』①どこがおもしろいのか?

 こんにちは、山田星彦です。

 今回からの文芸学習では、芥川龍之介の『トロッコ』を題材にして、みなさまの鑑賞や創作に役立つ知識をお伝えします。

 『トロッコ』は芥川龍之介の代表作なので、読んだことのある方も多いと思います。まだ読んでいない方は、下部のリンクから無料で読めますので、ぜひお読みください。本で10ページほどの短い作品です。

 この作品は内容も分かりやすく、また構成や構造もシンプルで

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文芸学習記事を再開します

文芸学習記事を再開します

 こんにちは、山田星彦です。

 自作の小説執筆のために更新が滞りぎみだった「文芸学習」の活動ですが、小説を書き終え、時間に余裕も生まれてきましたので、記事の公開を再開していこうと思います。

 内容は主に、

◯作品を深掘りする「鑑賞記録」
◯読者の文章力向上のための「文芸センス」
◯その他、文章や芸術にまつわる「文芸論」

 と、なっております。

 また、有料記事の販売にも、再び着手していく

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【文芸センス】岡本綺堂『雪達磨』④べらんめえ口調

【文芸センス】岡本綺堂『雪達磨』④べらんめえ口調

 言葉使いも、その作品の世界観を形成する大きな要素のひとつです。

 この作品は江戸を舞台にしているので、今では落語などでしか話されることがない、いわゆる「べらんめえ口調」が目白押しです。

 「べらんめえ」とは「べらぼうめ」が訛ったものだそうです。「べらぼうめ」でも十分、昔風な言葉使いですが、それに加えて短気で威勢のよい江戸っ子らしさが「べらんめえ」には宿っています。

岡本綺堂『雪達磨』④べら

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【文芸センス】岡本綺堂『雪達磨』③サスペンス

【文芸センス】岡本綺堂『雪達磨』③サスペンス

 サスペンスとは、読者の感情を揺さぶりながら先へ先へと読み進めさせる、「牽引力」のようなものです。

 ひとくちにミステリと言っても、ただ事件の概要を説明して、最後に謎解きを行うというだけの物語は、テストの出題と解答のようで味気なく、まさにサスペンスが欠落した物語と言えるでしょう。

 この『雪達磨』では、思わず読み進まないではおれなくなるような上質なサスペンスが、話の曲がり角ごとに塩梅よく配置さ

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