てすり屋のひとりごと 橋本 洋一郎(合同会社 湘南改造家)

湘南地域で住まいを身体に合わせる仕事をしています。 これまで20年、2500件の仕事を…

てすり屋のひとりごと 橋本 洋一郎(合同会社 湘南改造家)

湘南地域で住まいを身体に合わせる仕事をしています。 これまで20年、2500件の仕事を通して学んだこと、感じたことをアウトプットしていきます。 皆様が住みたい場所に住み続けるための、暮らしのヒントを転がすことができたなら幸いです。 mail@shonan-kaizoya.com

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記事一覧

死刑台のボタンと人々のしごと 〜責任の希薄化のくふう

たまには毒のあるタイトルと、毒のある内容で。 命を奪う責任の分散 先日のニュースで、大阪拘置所の死刑執行ボタンが5つあることを知った。てっきりそれは3つだと思って…

低きスロープの悩み 〜使いどころと介護保険の扱いについて

前回、支持基底面が最大になる歩行こそ摺り足歩行であるというテーマで、それをあえて増やす方向性をお勧めしてみたのだが、それには、そのための環境を整えることが前提と…

摺り足はやめてをやめてみる 〜支持基底面と重心位置のはなし ⑤

「摺り足は転ぶからやめましょうね〜」 介護に携わる皆様、利用者さんにそうお伝えしたことはないだろうか。 だってつまづいて転ぶから、というご意見、もっともなのだ。…

すべての人の移動を楽しくスマートにする ~近距離モビリティWHILLのはなし

出会いは、2015年の国際福祉機器展(HCR)だったか。 WHILL Model A https://whill.inc/jp/wp-content/themes/whill-jp/pdf/whill_model_a_catalog.pdf 明らかに…

柔らかくて硬い床、「ころやわ」 〜新しいモノ、試します ①

この高齢・障害者向け住環境整備の世界、いろいろな新製品が出ては消えていったりしているわけですが、さりとて中には見逃すには惜しい、これはウチの知識の引き出しに入れ…

原因を掘らない、良い結果の欠片を探す 〜解決志向アプローチ(SFA)の話

自分が介護の学校で話すときには、医療出身の人と、介護畑の人の価値観の違いについて話すようにしている。 これは、自分が利用者さんの家屋調査の際に、理学療法士さんな…

ヤブからヘビ呼ぶ養生グッズ 〜やらかしの記録 ④

我が社では手すり付けの際に大活躍するポリマスカーをはじめ、最近は台風の時など、建築業界の外側でも当たり前に使われるようになった養生一族。こう書くと剣豪みたいで格…

炬燵を埋めたらまだやれる ~掘りごたつ改修とベッドまわりのレイアウト

この仕事をしていると、訪問先でちょっとしたミラクルに出会うことが時折あるが、このケースもそれかもしれない。 ただ、その奇跡が結果的にその後の展開を難しくしていた…

ココロに効く見守りカメラ 〜ねこ様と人間教育 ②

元子猫が見つかった。そして確保された。 読んでいただいている皆様、ご心配をおかけ致しました。 実はこちらも待つことをしながらも、打てる手は打ってきた。 これを導…

フリーハンド図の救いの神 ~改造家ツール ピックアップ ①

こちらが請け負う手すりの工事は、ほとんどが介護保険を利用するものである。 そのための介護保険担当課への申請手続きには、必要な書類が多々あるのだが、その中でも、手…

スキマじゃないのよ遊びは 〜材料の公差と施工のくふう

実は、日本における室内用の木製手すりの材料は、各社ある程度サイズ感が揃っている。太さは直径35mmを中心に、あとは32mmの選択肢があるかどうか。 これは、一般社団法人…

教授の矜持、山本理顕 〜突撃、例の建築家の手すり ②

教授について まずは、「教授」について書く。 坂本龍一が、神宮外苑の開発に対して立ち止まれという、遺言を残して旅立たれた時、ああこの方はやはり清志郎の友達だなあ…

踏み込む前にアゲる 〜車いす転回部と敷居段差の話

こなれた技術として確立しているかに見える、車いすというデバイスだが、実はいまだに克服できない弱点がある。キャスター、すなわち前輪の操舵である。 これは車軸の前に…

寂しいシンクロニシティ 〜推しシャワーキャリー話の顛末

半世紀とすこしも生きていれば、大なり小なり、シンクロニシティと呼ばれるものを体験することはある。 もっとも、そのほとんどは赤い糸に関連した、人生の派手なイベント…

第一回 【K林製薬記念】 福祉用具ネーミングセンス杯

先日たまたま福祉用具デモに同席した際、「その名前、分かりやすいわね」という利用者さんの声から思い付きましたるこの企画。 ダジャレはおっさんの心を震わせるだけでは…

アイってなんだ? ~IADL(手段的日常生活動作)のはなし

先のお風呂のフタの話を書いていたときに気づき、本文に無理くり伏線を入れておいたのだ。自分の備忘を兼ねて。 ADLに対してのIADLの違いについて、である。 この…

死刑台のボタンと人々のしごと 〜責任の希薄化のくふう

死刑台のボタンと人々のしごと 〜責任の希薄化のくふう

たまには毒のあるタイトルと、毒のある内容で。

命を奪う責任の分散

先日のニュースで、大阪拘置所の死刑執行ボタンが5つあることを知った。てっきりそれは3つだと思っていたので調べたら、新しい拘置所だと3つ、古いと5つなのだという。
それ以前は、刑場の横にあるレバー(誰ひとりボタンを押せない状況に備え、今も残されているそうだが)を倒す仕組みだったそうで、その責任の重さから少しでも刑務官を解放するため

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低きスロープの悩み 〜使いどころと介護保険の扱いについて

低きスロープの悩み 〜使いどころと介護保険の扱いについて

前回、支持基底面が最大になる歩行こそ摺り足歩行であるというテーマで、それをあえて増やす方向性をお勧めしてみたのだが、それには、そのための環境を整えることが前提となる。

そんな時によく使われているのが、我々が敷居スロープとか段差スロープとか呼ぶ製品である。要するに斜めの板だ。
それを、段差となる敷居の手前にくっつければ、つま先は引っかからないから転ぶことも減るだろう、そういう思惑である。めでたし、

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摺り足はやめてをやめてみる 〜支持基底面と重心位置のはなし ⑤

摺り足はやめてをやめてみる 〜支持基底面と重心位置のはなし ⑤

「摺り足は転ぶからやめましょうね〜」

介護に携わる皆様、利用者さんにそうお伝えしたことはないだろうか。
だってつまづいて転ぶから、というご意見、もっともなのだ。なのだ、が。

支持基底面と重心位置の概念を知っている勢としては、そこでどう考えるかをやはり大切にしたいのである。

そう、「摺り足の支持基底面」を考えることが必要だと思うのだ。

こちらの利用者さんで、膝関節症の手術の結果がいまいちで痛

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すべての人の移動を楽しくスマートにする ~近距離モビリティWHILLのはなし

すべての人の移動を楽しくスマートにする ~近距離モビリティWHILLのはなし

出会いは、2015年の国際福祉機器展(HCR)だったか。

WHILL Model A

https://whill.inc/jp/wp-content/themes/whill-jp/pdf/whill_model_a_catalog.pdf

明らかに他の電動車いすと異なる、ガチのデザイナーが手掛けていることがひと目見てわかるそれを見た時、またデザイン優先のカッコイイ系のものが出来たかな、と一

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柔らかくて硬い床、「ころやわ」  〜新しいモノ、試します ①

柔らかくて硬い床、「ころやわ」 〜新しいモノ、試します ①

この高齢・障害者向け住環境整備の世界、いろいろな新製品が出ては消えていったりしているわけですが、さりとて中には見逃すには惜しい、これはウチの知識の引き出しに入れる可能性あるぞ?みたいなモノも出てきます。
そんな、

キラッと光るものをお取り寄せしてレビューしてみよう!

のコーナーです。

記念すべき第一回はこちら。先日介護用の通信機器マガジンをご紹介させていただいた、やおらじボラちゃんさんピック

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原因を掘らない、良い結果の欠片を探す 〜解決志向アプローチ(SFA)の話

原因を掘らない、良い結果の欠片を探す 〜解決志向アプローチ(SFA)の話

自分が介護の学校で話すときには、医療出身の人と、介護畑の人の価値観の違いについて話すようにしている。

これは、自分が利用者さんの家屋調査の際に、理学療法士さんなどの医療職と異なる意見となることがあるが、その理由がわかっていると、その意見に対する理解度も上がるし、その後の判断にも奥行きが出るよな、と思っているからだ。

そして、彼らが介護職としてプロになったときに同じような経験をしても、この見解の

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ヤブからヘビ呼ぶ養生グッズ 〜やらかしの記録 ④

ヤブからヘビ呼ぶ養生グッズ 〜やらかしの記録 ④

我が社では手すり付けの際に大活躍するポリマスカーをはじめ、最近は台風の時など、建築業界の外側でも当たり前に使われるようになった養生一族。こう書くと剣豪みたいで格好いい。

パイオランテープ(緑のやつ)やポリマスカー(テープ付きのポリエチレンシート)、ここには写ってないが床養生板などを主戦力とする彼らのおかげで、現場をきれいに保つことが容易になり、施工時間、特に片付けタイムの大幅な短縮につながってい

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炬燵を埋めたらまだやれる ~掘りごたつ改修とベッドまわりのレイアウト

炬燵を埋めたらまだやれる ~掘りごたつ改修とベッドまわりのレイアウト

この仕事をしていると、訪問先でちょっとしたミラクルに出会うことが時折あるが、このケースもそれかもしれない。
ただ、その奇跡が結果的にその後の展開を難しくしていた、そんなときに外からの人間がどう関わるか、という話でもある。

トップ画像、パッと見はベッドとその横の四角いテーブルであり、ベッドの端に座った端座位からの立ち上がりにも良いんじゃないかなこれ、程度の認識だった。しかしよく見ると、

なんとい

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ココロに効く見守りカメラ 〜ねこ様と人間教育 ②

ココロに効く見守りカメラ 〜ねこ様と人間教育 ②

元子猫が見つかった。そして確保された。
読んでいただいている皆様、ご心配をおかけ致しました。

実はこちらも待つことをしながらも、打てる手は打ってきた。

これを導入したのだ。

何か動きがあると撮影してくれる、赤外線機能つきのカメラロボが密林からやってきたのだ。だいたい6000円くらい、通信機能はなくてマイクロSDカードに記録する、単三電池4本で稼働するタイプだ。

そして玄関横の台には、かつて

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フリーハンド図の救いの神 ~改造家ツール ピックアップ ①

フリーハンド図の救いの神 ~改造家ツール ピックアップ ①

こちらが請け負う手すりの工事は、ほとんどが介護保険を利用するものである。

そのための介護保険担当課への申請手続きには、必要な書類が多々あるのだが、その中でも、手間をかけるつもりならいくらでもかけられるのが、その手すり等の位置を示した図面である。

法律では添付を定められているわけではないが、手すり等をどのような理由で付けるかの理由を書かなくてはいけない以上、移動動線を明示するために、図面はほぼ必

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スキマじゃないのよ遊びは 〜材料の公差と施工のくふう

スキマじゃないのよ遊びは 〜材料の公差と施工のくふう

実は、日本における室内用の木製手すりの材料は、各社ある程度サイズ感が揃っている。太さは直径35mmを中心に、あとは32mmの選択肢があるかどうか。

これは、一般社団法人 ベターリビング協会が優良住宅部品認定基準の中に歩行・動作補助手すりの基準を定めていることと関連している、と聞いたことがある。

以前は直径45mmの丸棒の手すりが、階段にそっけなく付けてあったりしたのだが、あれは金具間の距離を飛

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教授の矜持、山本理顕 〜突撃、例の建築家の手すり ②

教授の矜持、山本理顕 〜突撃、例の建築家の手すり ②


教授について
まずは、「教授」について書く。

坂本龍一が、神宮外苑の開発に対して立ち止まれという、遺言を残して旅立たれた時、ああこの方はやはり清志郎の友達だなあ、と思った。

自分がリアルタイムで映像として知っている教授は、ダウンタウンのハマタに仏頂面でシャープペンシルの尻の消しゴムを投げつけたりしている、シニカルかつコミカルな姿なのだが。

彼らの共作である「いけないルージュマジック」は幼い

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踏み込む前にアゲる 〜車いす転回部と敷居段差の話

踏み込む前にアゲる 〜車いす転回部と敷居段差の話

こなれた技術として確立しているかに見える、車いすというデバイスだが、実はいまだに克服できない弱点がある。キャスター、すなわち前輪の操舵である。

これは車軸の前に縦の旋回軸を配置して、操作された方向にトレール(追従)するようになっている。主の行く方向に沿ってなすがままの、忠実な僕(しもべ)であり、普段は自己主張に欠けた奴でもある。

ただし、その性質は平地に限る。そして、勾配で奴は突然牙を剥く。奴

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寂しいシンクロニシティ 〜推しシャワーキャリー話の顛末

寂しいシンクロニシティ 〜推しシャワーキャリー話の顛末

半世紀とすこしも生きていれば、大なり小なり、シンクロニシティと呼ばれるものを体験することはある。
もっとも、そのほとんどは赤い糸に関連した、人生の派手なイベントとして起こるわけではない。残念ながら。

今回のそれは、ここの文章が引き寄せた。
準備期間も含め、文章を書き始めて約2ヶ月。この10年くらいお勧めすることがなかった福祉用具を、なぜかその記事をアップしたら、立て続けに2件使うことになりそうな

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第一回 【K林製薬記念】 福祉用具ネーミングセンス杯

第一回 【K林製薬記念】 福祉用具ネーミングセンス杯

先日たまたま福祉用具デモに同席した際、「その名前、分かりやすいわね」という利用者さんの声から思い付きましたるこの企画。

ダジャレはおっさんの心を震わせるだけではなかった、ちゃんと役に立つのだという学びに至り、手元の福祉用具カタログからイカしたネーミングセンスの用具を勝手に表彰してしまうのである。

評価基準はこちら。

1、一度聞いたら忘れなそう
2、名は体を表しているっぽい
3、オリジナリティ

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アイってなんだ? ~IADL(手段的日常生活動作)のはなし

アイってなんだ? ~IADL(手段的日常生活動作)のはなし

先のお風呂のフタの話を書いていたときに気づき、本文に無理くり伏線を入れておいたのだ。自分の備忘を兼ねて。

ADLに対してのIADLの違いについて、である。
この言葉、介護系の座学話ではよく出てくるのよね。

さりとて、知ったような風に書いたはいいが、IADL(Instrumental Activities of Daily Living)ってわかりにくくありません?そもそも、まず老眼には半角の「

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