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【3500字無料】 カテゴリー・ミステイク (ビジネス×哲学 試論 #1)

*注意:この内容はすでに販売されている、「哲学者には世界がこう見えている! ビジネスで使える究極の哲学ツール【1】次元のちがい」の動画内容を一部変更したものです。

*動画でご覧になりたい方は以下のリンクから。

*Youtubeでも冒頭5分程度をご視聴いただけます。


はじめに

今回紹介するのは、「次元の違い」についてです。次元の違いについて全4回で紹介していきます。

第1回となる、この記事では、「カテゴリー・ミステイク」という考え方について紹介します。

前もって3つのポイントを先取りしておきます。

1、哲学の中でいろいろなものを「カテゴリー」に分けるという考え方がある。
2、ちがう「カテゴリー」同士は次元が違う。
3、違うカテゴリーどうしは混ぜてはいけない、つまりちがう次元は混ぜてはいけない。

「カテゴリー・ミステイク」の3つのポイント

カテゴリーとは何か?

そもそも「カテゴリー」とは何でしょうか。

「カテゴリー」というのは、古代から現代まで続く哲学の問題です。

古い時代では、アリストテレスのカテゴリーが有名です。

ちなみにアリストテレスは紀元前の哲学者です。そんなに大昔からある発想なんですね。

アリストテレスは、色々なものが10個のカテゴリーに分かれると考えました。

実体・分量・性質・関係・場所・時間・状態・付属・能動・受動

アリストテレスの10個のカテゴリー

例えば、「りんご」は実体に、「赤い」は性質に、「逆さになっている」は状態に、というようにどれかに当てはまる。

そして、重要なことは、「違うカテゴリー同士はタイプが違うものである」ということです。

ちなみに、このアリストテレスのカテゴリー論からスタートして、それ以降、様々な哲学者が、「自分の思うカテゴリーはこれだ!!」という分類表を作ります。

この分類表1つ1つを見ていくこともとても面白いんですが、ここで言いたいことは何かというと、

まず、①「哲学の中で「カテゴリー」に分けるという考え方がある」ということ。

次に、②「違う「カテゴリー」同士は別のタイプのものだ」ということです。

例えば「りんご」「トマト」が属するカテゴリーと、「赤い」「丸い」が属するカテゴリーは違います。

このことを「次元が違う」と呼んでもいいでしょう。

最後に、③「違うカテゴリーどうしは混ぜてはいけない」ということ。

「『りんご』と『トマト』どちらが美味しい?」ならわかるけれど、「『りんご』と『丸い』どちらが美味しい?」というのは変。

別のカテゴリーは「次元が違う」ので、並べて比べられないわけです。

カテゴリーを間違えてしまうと、話がおかしなことになってしまいます。

今回は、この「カテゴリーを間違える」ことをうまく説明するものとして、「カテゴリー・ミステイク」という考え方について説明します。

カテゴリー・ミステイクとは何か?

「カテゴリー・ミステイク」という概念は、イギリスの哲学者ギルバート・ライル(1900〜1976)が広めた言葉です。

「カテゴリー・ミステイクとは何か?」ということを理解するには、ライル自身が出している具体例がわかりやすいと思います。

それはこんな例です……。

①オックスフォード大学の例

あなたは英国人です。

ある日、1人の外国人が、オックスフォード大学を訪れました。

現地に住むあなたが、外国人に大学内を案内します。

「あれが図書館です。あれが研究棟です。あれが事務所です……」

ひと通り、案内が終わりましたが、外国から来たその人は、釈然としない顔をして、あなたにこんなこと尋ねてきました。

「それで、結局、オックスフォード大学はどこにあるんです?」 

ポイントはわかりますね。

つまり、この外国人は、「図書館」や「研究棟」が紹介されるのと同じ仕方で、「オックスフォード大学」も紹介してもらえるものだと思い込んでいるのです。

しかし、もちろん、その建物の全体がオックスフォード大学なのであって、オックスフォード大学が「図書館」や「研究棟」と並んで(例えば、1つの建物として)あるわけではありませんね。

これがカテゴリー・ミステイクの例です。

この例に即して言えば、「オックスフォード大学」は、「図書館」や「研究棟」とは異なるカテゴリーに属するにも関わらず、同じカテゴリーであると勘違いしてしまった

これがカテゴリーの錯誤、「カテゴリー・ミステイク」だ、というわけです。

②チーム・スピリットの例

ライルは、「クリケット」というスポーツの例も挙げています。

(ここでは細かいルールを知らなくても問題ありません。野球のようなスポーツをイメージしながら読んでください。)

あなたはクリケットに詳しい人で、クリケット初心者に、ルールを説明しています。

「この人はボウラー、この人はバッツマン、この人はウィケットキーパーという担当です」

クリケットの用語では、投げる人を「ボウラー」、打つ人を「バッツマン」、獲る人を「ウィケットキーパー」と呼ぶのです。

クリケット初心者は、こうした用語をひと通り理解したあと、こう尋ねました。

「なるほど。で、チーム・スピリットを担当するのはだれ?」

このエピソードも、ポイントはわかりますね。

このクリケット初心者は、「ボウラー」や「ウィケットキーパー」のような役割と並んで、「チーム・スピリット」という役割があると思い込んでいるのです。

もちろん、チーム・スピリット(チーム精神)というのは、チーム全体で発揮される団結心のようなものであって、「この人がチーム・スピリットを担当しています」と答えられるようなものではありません。

これも先ほどの「大学」の例と同じように、カテゴリー・ミステイクの例と考えられます。「チーム・スピリット」は、「ボウラー」や「ウィケットキーパー」とは異なるカテゴリーに属するにも関わらず、同じカテゴリーであると勘違いしてしまった

これがカテゴリー・ミステイクです。

「次元のちがい」で言うと?

これらのカテゴリー・ミステイクの例は、「次元のちがい」という表現を使うと、次のように言い換えることができます。

オックスフォード大学の例:
「大学」は、「図書館」「研究棟」とは次元がちがうのに、同じ次元だと勘違いしてしまった。

クリケットの例:
「チーム・スピリット」は、「ボウラー」「ウィケットキーパー」とは次元がちがうのに、同じ次元だと勘違いしてしまった。

総じて、「カテゴリー・ミステイク」は、「異なる次元にある2つ以上のものを、同じ次元にあると勘違いしてしまうこと」だと言えます。

【コーヒーブレイク】「カテゴリー・ミステイク」豆知識

少し小休憩として、豆知識を挟みましょう。

カテゴリー・ミステイクは『心の概念』(ギルバート・ライル(著)、坂本百大・井上治子・服部裕幸(訳)、みすず書房、1987)という本で提唱されたもので、現代では心の哲学という分野につながります。

心の哲学というのは、意識、痛み、恐怖など、「心の中」の問題を哲学的に扱う分野です。

「心」を扱う学問と言えば「心理学」が思い浮かぶと思いますが、この「心の哲学」は、心理学とはまた別の観点からアプローチする学問です。

ライルは、このような哲学的議論の文脈の中で、「心がモノみたいにあると考えるのはカテゴリー・ミステイクだよ!」と主張するために、「カテゴリー・ミステイク」という発想について本に書いたのです。

「心がモノみたいにあると考えるのはカテゴリー・ミステイク」……つまり、「みんな心がモノみたいにあると考えて、機械仕掛けの体に幽霊が乗っているみたいなイメージになってしまうけれど、そうではないのだ!」と。

ちなみにそのときにライルは、「ゴースト・イン・ザ・マシーン」=「機械の中の幽霊」という言葉で、人々のカテゴリー・ミステイクを皮肉ります。

この「ゴースト・イン・ザ・マシーン」という表現もインパクトがあるので、そこだけ使われたりして、そのあと非常に有名になりました。

日本に『攻殻機動隊』という有名な漫画がありますが(1995年に国内でアニメ化、2017年にアメリカで実写映画化もされました)、この漫画作品の英語版タイトルが、なんと「ゴースト・イン・ザ・シェル」なんですね。

この「ゴースト・イン・ザ・シェル」は、ギルバート・ライルの「ゴースト・イン・ザ・マシーン」が元ネタになっていると言われています。

ライルは、「心がモノみたいにあると考えるのはカテゴリー・ミステイクだよ」と主張したわけですが、このような主張をするにあたって、「カテゴリー・ミステイク」という表現は非常に便利な道具でした。

そういうわけで、今では多くの人が「カテゴリー・ミステイク」を自由に使うようになったのです。

意思決定は、能力ではない!?

ここからは応用編です。

「カテゴリー・ミステイク」の発想を、実際に使ってみましょう。

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