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映画鑑賞とデザインとZINEについて書いてる。

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    CERCLE CINEMANEという映画のZINEを発行しています。主に高崎のZINPHONYに出展しています。よろしくです。https://twitter.com/nyantora_03_09

記事一覧

抗うものへの賛歌 映画『マルリナの明日』によせて

遥かな先には青く輝く海が広がり、誰もいない一本道をひとりの女性が馬にまたがりゆるりと進んで行く。しかし女はその背中に鉈を背負い、左手には男の生首をぶら下げている…

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5年前
3

喪失の予兆 映画『ジュリアン』によせて

先進国のなかでも、人権や性のあり方といった問題を考える上で、常にそのモデルとして参照されてきたフランスですら、現実ではいまだ家父長制という伝統的な価値観が大きく…

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5年前
1

燃え尽きたアイデンティティ 映画「バーニング 劇場版」によせて

STAFF 監督:イ・チャンドン 脚本:オ・ジョンミ、イ・チャンドン 撮影:ホン・ギョンピョ 照明:キム・チャンホ 衣装:イ・チュンヨン 音楽:Mowg CAST ユ・アイン(イ・…

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5年前
3

歴史は夜つくられる 映画「サンセット」によせて

多文化共生がうたわれながら、その反発とも向き合わなければならない時代に、20世紀初頭のブタペストを参照するというのは、意味深く現代的な視点だと言える。『サウルの息…

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5年前
1

熱海での祝祭。映画『小さな声で囁いて』に寄せて

言葉にならないような感情を、心の内からそっと引き出し、はじめからそれを思い出したかったのだと、そう膝を打つような作品が良い映画の条件だと勝手ながらに思っている。…

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5年前
2

北緯17度線を越境する、ベトナム映画の優雅な誘惑 『漂うがごとく』に寄せて

無知を承知で告白するが、ベトナム映画はどうやらニューウェーブ期を迎えているらしい。既存の体制を解体し、新たなる運動のもとに先鋭的な映画をつくる流れは、先進国を顕…

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5年前
2

過食と痛風、愛玩と淫行 | 映画『女王陛下のお気に入り』に寄せて

まずは予告編をご覧くださいませ。 STAFF監督:ヨルゴス・ランティモス脚本:デボラ・デイヴィス、トニー・マクナマラ製作:セシ・デンプシー他撮影:ロビー・ライアン…

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5年前
8

ルメットの密室劇と懺悔の箱庭 | 映画『ザ・ギルティ』に寄せて

『DEN SKYLDIGE』というデンマーク語で「有罪」を意味するタイトルが暗闇に浮かび上がり、次に画面に映し出されるのは白人の男の横顔と彼が耳にしている青いヘッドセットで…

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5年前
2

死に魅入られた男の月世界旅行 映画『ファーストマン』によせて

皆が当たり前のように持ち歩き、普段の生活にはなくてはならいほどの必需品と化したスマートフォンに、一体どれだけ高性能なコンピュータが組み込まれているか、もはや想像…

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5年前
1

いずれ心が晴れるまで。 映画『夜明け』に寄せて

 人は誰かを「助ける」ことはできても、果たして「救う」ことはできるのだろうか。誰かを助けようとして、自分の心中に、その人を助けることで満たされる自身のエゴを見る…

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5年前
3

目に染みる青と、眩い陽光 『きみの鳥はうたえる』 短評

 映画は主人公の「僕」と同居人の静雄、そして、彼らの前に現れる佐知子というヒロインを軸に、揺らいでいく人間関係の模様を、ひと夏の出来事のなかで丹念に描き出してい…

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5年前
3

LA地下世界へと潜水する6日間 - 映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』に寄せて

 物語の舞台がハリウッドであり、その粗筋が失踪した美女の行方を追う探偵ものであり、さらに奇妙でオカルティックな陰謀論めいた事象が重なり合うということで、先行作品…

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5年前
8

奇妙に循環するフォックストロット 映画『運命は踊る』に寄せて

 「人生は不条理だ」という、そんな圧倒的な現実が目の前に立ち現れたときこそ、人間は皮肉にも運命というものを実感するのかもしれない。特に現代はそうだ。幸福なときに…

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5年前
4

その悲鳴だけが、沈黙を突き破る - 映画『クワイエット・プレイス』 短評

 ホラー映画の歴史は、映画という表現方法そのものの、発展と革新の歴史でもある。近年の傾向でいえばファウンド・フッテージものの映画などは、ビデオならではの映像表現…

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5年前
5

耳を澄まして - 映画『寝ても覚めても』短評

 ヒロインの朝子は、どちらかといえば内向的で、口数も多くはない女性である。しかし、彼女は常に周囲の空気を感じ取り、周りの人々の話す言葉にも耳を澄ましている。監督…

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5年前
3

母と娘の、母性をめぐる生存競争 - 映画「母という名の女」

 ミシェル・フランコの映画は、大それた事件や直接的な暴力が描かれるわけでもないのに、心をひやりとさせ、一瞬呼吸を止めさせられるような恐ろしさを秘めている。長編二…

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5年前
3
抗うものへの賛歌 映画『マルリナの明日』によせて

抗うものへの賛歌 映画『マルリナの明日』によせて

遥かな先には青く輝く海が広がり、誰もいない一本道をひとりの女性が馬にまたがりゆるりと進んで行く。しかし女はその背中に鉈を背負い、左手には男の生首をぶら下げている。

この画面の大半を静謐さが覆い尽くすイメージとは裏腹に、相反する暴力的で死の匂いが立ち込めるモティーフが混在しているビジュアルは、『マルリナの明日』という映画をあらわす象徴的なショットだと言えるだろう。

STAFF監督:モーリー・

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喪失の予兆 映画『ジュリアン』によせて

喪失の予兆 映画『ジュリアン』によせて

先進国のなかでも、人権や性のあり方といった問題を考える上で、常にそのモデルとして参照されてきたフランスですら、現実ではいまだ家父長制という伝統的な価値観が大きく、男性の支配力は女性に比べて圧倒的に強いということを『ジュリアン』という映画は示してみせた。しかも、子どもの親権をめぐる離婚訴訟や、夫からの家庭内暴力という陰湿にならざるをえない題材にもかかわらず、全編を通して緊迫感を保ったサスペンス調の演

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燃え尽きたアイデンティティ 映画「バーニング 劇場版」によせて

燃え尽きたアイデンティティ 映画「バーニング 劇場版」によせて

STAFF
監督:イ・チャンドン
脚本:オ・ジョンミ、イ・チャンドン
撮影:ホン・ギョンピョ
照明:キム・チャンホ
衣装:イ・チュンヨン
音楽:Mowg

CAST
ユ・アイン(イ・ジョンス)
スティーブン・ユァン(ベン)
チョン・ジョンソ(シン・ヘミ)

いまにも眠りに落ちそうな表情を浮かべながら、半分だけ開いた眼でこの世の不条理や不可解というものをどこまでも見つめようとする強い眼差し。不運な境

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歴史は夜つくられる 映画「サンセット」によせて

歴史は夜つくられる 映画「サンセット」によせて

多文化共生がうたわれながら、その反発とも向き合わなければならない時代に、20世紀初頭のブタペストを参照するというのは、意味深く現代的な視点だと言える。『サウルの息子』(2015)でアウシュビッツ強制収容所の過酷な現実をひとりの男の視点から、その独特な映像スタイルとともに描き出したネメシュ・ラースロー監督の長編第二作目である『サンセット』は、まさにその時代、第一次世界大戦の開戦前夜のオーストリア=ハ

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熱海での祝祭。映画『小さな声で囁いて』に寄せて

熱海での祝祭。映画『小さな声で囁いて』に寄せて

言葉にならないような感情を、心の内からそっと引き出し、はじめからそれを思い出したかったのだと、そう膝を打つような作品が良い映画の条件だと勝手ながらに思っている。名も知れぬ感情を発見する喜びだ。

それはメロドラマでもサスペンスでも起こり得る。
若き映画作家である山本英は、それを観光というモチーフのなかで見事に描き出した。
山本英は東京藝術大学大学院の映像研究科映画専攻にて、黒沢清や諏訪敦彦など作

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北緯17度線を越境する、ベトナム映画の優雅な誘惑 『漂うがごとく』に寄せて

北緯17度線を越境する、ベトナム映画の優雅な誘惑 『漂うがごとく』に寄せて

無知を承知で告白するが、ベトナム映画はどうやらニューウェーブ期を迎えているらしい。既存の体制を解体し、新たなる運動のもとに先鋭的な映画をつくる流れは、先進国を顕著にはるか昔からあるわけだが、それが近年ベトナムでも起きているのだという。では、その新しき潮流とは何か。

STAFF
監督:ブイ・タク・チュエン
脚本:ファン・ダン・ジー
撮影:リー・タイ・ズン
音楽:ホアン・ゴク・ダイ

CAST

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過食と痛風、愛玩と淫行 | 映画『女王陛下のお気に入り』に寄せて

過食と痛風、愛玩と淫行 | 映画『女王陛下のお気に入り』に寄せて

まずは予告編をご覧くださいませ。

STAFF監督:ヨルゴス・ランティモス脚本:デボラ・デイヴィス、トニー・マクナマラ製作:セシ・デンプシー他撮影:ロビー・ライアン衣装:サンディ・パウエル美術:フィオナ・クロムビー編集:ヨルゴス・モヴロブサリディス音楽:オスカー・スクライバーン

CASTオリヴィア・コールマンエマ・ストーンレイチェル・ワイズニコラス・ホルトジョー・アルウィンジェームズ・ス

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ルメットの密室劇と懺悔の箱庭 | 映画『ザ・ギルティ』に寄せて

ルメットの密室劇と懺悔の箱庭 | 映画『ザ・ギルティ』に寄せて

『DEN SKYLDIGE』というデンマーク語で「有罪」を意味するタイトルが暗闇に浮かび上がり、次に画面に映し出されるのは白人の男の横顔と彼が耳にしている青いヘッドセットである。その装いから警官であることが察せられるアスガーという男は「東部緊急」と名付けられた緊急ダイヤル司令室でオペレーターを務めている。
カメラはアスガーの横顔を捉えるが、彼の背後にいる同僚の姿はぼんやりとしてピントが合わず、彼が

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死に魅入られた男の月世界旅行 映画『ファーストマン』によせて

死に魅入られた男の月世界旅行 映画『ファーストマン』によせて

皆が当たり前のように持ち歩き、普段の生活にはなくてはならいほどの必需品と化したスマートフォンに、一体どれだけ高性能なコンピュータが組み込まれているか、もはや想像する人もいないだろう。科学技術の進歩は日進月歩どころではない速さで進んで行く。NASAが1960年代に進めていたアポロ計画で利用されたコンピュータより、ぼくたちが手にしているスマートフォンに内蔵されたコンピュータの方が遥かに優れているという

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いずれ心が晴れるまで。 映画『夜明け』に寄せて

いずれ心が晴れるまで。 映画『夜明け』に寄せて

 人は誰かを「助ける」ことはできても、果たして「救う」ことはできるのだろうか。誰かを助けようとして、自分の心中に、その人を助けることで満たされる自身のエゴを見ることはないだろうか。人を救うことで逆に救われるという共依存の関係は、一見豊かなものとして見えるが、両者を支えているその関係性の差異を読み違えると、現代を取り巻く人間関係の不毛なコミュニケーションの様相が浮かび上がってくるだろう。
この『夜明

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目に染みる青と、眩い陽光 『きみの鳥はうたえる』 短評

目に染みる青と、眩い陽光 『きみの鳥はうたえる』 短評

 映画は主人公の「僕」と同居人の静雄、そして、彼らの前に現れる佐知子というヒロインを軸に、揺らいでいく人間関係の模様を、ひと夏の出来事のなかで丹念に描き出していく。しかし、物語のなかで、その関係性を歪めさせるような劇的な事件やトラブルが起こるわけではない。彼らは函館のクラブで気ままに踊り、夜通し飲み明かし、夜明け前の青みがかった通りを歩き、三人でビリヤードを楽しみながら、ただひたすらに笑いあう。

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LA地下世界へと潜水する6日間 - 映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』に寄せて

LA地下世界へと潜水する6日間 - 映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』に寄せて

 物語の舞台がハリウッドであり、その粗筋が失踪した美女の行方を追う探偵ものであり、さらに奇妙でオカルティックな陰謀論めいた事象が重なり合うということで、先行作品の筆頭に掲げられていたのが『マルホランド・ドライブ』だ。デヴィット・リンチが作りあげたこの傑作には、まさしくハリウッドという都市が抱え込んだ人間の欲望や羨望や嫉妬、憎悪のかたまりが、ものの見事にハリウッド・ロマンスの輝きのなかに包み込まれて

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奇妙に循環するフォックストロット 映画『運命は踊る』に寄せて

奇妙に循環するフォックストロット 映画『運命は踊る』に寄せて

 「人生は不条理だ」という、そんな圧倒的な現実が目の前に立ち現れたときこそ、人間は皮肉にも運命というものを実感するのかもしれない。特に現代はそうだ。幸福なときに感じる運命よりも、悲劇に見舞われたときに感じる運命の方が、人生のなんたるかを言い当て、妙な説得力を感じさせる。これも現代の皮肉だ。この映画の原題であるフォックストロットが、動き出したら必ず元の位置に戻ってきてしまうダンスのステップであるよう

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その悲鳴だけが、沈黙を突き破る - 映画『クワイエット・プレイス』 短評

その悲鳴だけが、沈黙を突き破る - 映画『クワイエット・プレイス』 短評

 ホラー映画の歴史は、映画という表現方法そのものの、発展と革新の歴史でもある。近年の傾向でいえばファウンド・フッテージものの映画などは、ビデオならではの映像表現を、演出としてのテクニックに応用した見事な例だ。撮影技術の進歩と、その技術を応用して斬新な演出方法を編み出してきた歴史は、古くは『カリガリ博士』(1920)などの古典的傑作からも読み取れる。俳優であるジョン・クラシンスキーが監督も兼任した『

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耳を澄まして - 映画『寝ても覚めても』短評

耳を澄まして - 映画『寝ても覚めても』短評

 ヒロインの朝子は、どちらかといえば内向的で、口数も多くはない女性である。しかし、彼女は常に周囲の空気を感じ取り、周りの人々の話す言葉にも耳を澄ましている。監督である濱口竜介は、撮影が始まる前の段階で、俳優同士が役になりきった状態でお互いにインタビューをし合うというワークショップを行っている。これは前作の『ハッピーアワー』の制作時にも同様に、人に話を聞きに行くというワークショップを行っているが、こ

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母と娘の、母性をめぐる生存競争 - 映画「母という名の女」

母と娘の、母性をめぐる生存競争 - 映画「母という名の女」

 ミシェル・フランコの映画は、大それた事件や直接的な暴力が描かれるわけでもないのに、心をひやりとさせ、一瞬呼吸を止めさせられるような恐ろしさを秘めている。長編二作目である『父の秘密』(2012)でカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でグランプリに輝き、それ以降カンヌの常連として非常に特異な作品を発表し続けている。
彼の新作『母という名の女』は、メキシコを舞台に二人の姉妹の生活を描きながら、若

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