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知の学びを創造する者
2024年5月12日 15:15
これは旅先で会った女の話だ。その女は右手に饅頭を持ち、こちらを見ながら饅頭を一口齧った。まるまるとした白い饅頭であったが、小さい口を器用に動かし、運んでいく。それは頬張るというよりは齧るが適当であった。まるで私に見せつけるかのように饅頭を美味そうに食べた。女は饅頭を食べ終えると「ふー」と息を吐いた。もう腹が一杯になったに違いない。そう思った矢先、女は鞄から赤い饅頭を取り
2024年5月8日 00:00
夜の静けさが好きだ。真っ暗で何の音も聞こえない。でも、だんだんと空は青になっていく。わたしたちは笑った。声はガラガラで、すぐにでも眠りたい。「明日、声、出ないかも」「もう、今日だよ」とツッコまれながら、飲みすぎて、歌いすぎて。冷たい空気が身体を纏い、意識を保たせる。こんな日常が続けばいいのに。「じゃあね」と手を振ったら、「おやすみ」と返したようだった
2024年5月1日 10:23
人間はこれまで生きてきた中で経験したことを元に形成されていく。過去にしがみつき、そして、また新たなものを取り入れ、形成していく。そう、形成なくして生きていけぬ。それが私の生き方だった。積み上げたものを簡単には壊すことなど出来やしない。そういうジレンマの中にいる。私を形成するもの。それは一体、いつから芽生えたのか。それが私を蝕むようになったのはいつ頃の出来事なのか。
2024年4月24日 00:54
俺は横断歩道で車にはねられたはずだったが、「リセット」という女の声がした。気が付くと、いつもの交差点にいた。母さんは5年前に亡くなった。母子家庭だった俺は、母さんがある日、用事もないのにどこかに出掛けて行くことがあった。ご飯は用意してあり、「夕方には帰るから」と言ったきり、どこに行くのか何も教えてはくれなかった。母さんが亡くなって以後、不思議なことが起きた。それは不慮の
2024年4月14日 21:14
下降して、横に移動する。私を乗せた"それ"という物は目的なく、上下に動いては並行移動した。到達点は何もない。誰かの指示で動いているというより、その日の感覚を頼りにとりあえず動いているという印象である。乗せられている側からすればひどく迷惑な訳だが、アルファベットのLの字や片仮名のトに近い形で動いていることだけは分かった。私はそれを「エルト」と名付けた。エルトはどこ
2024年4月7日 22:58
「ウチらの記念。桜の前でジャンプしよう!」桜が舞い散る4月、入学式のあの日。同じ中学に入ったミナと校門にある桜の木の前で写真を撮った。写真はひどくブレていたが、そこには笑顔の二人が映っていた。3年後、卒業式。私は、桜の木の前にいた。ミナは生徒会長になり、クラスも2年生まで一緒だったが、なんとなく遠い存在になった。校門の前で桜を眺めていると、ミナがこっちにやって来た。
2024年3月28日 23:45
特急列車に乗っている人を視認できるほど、私の視力は良くない。凄まじいスピードで通り過ぎる列車の中から、たった1人の人間を判別するなんてことは到底できるはずもなかった。しかし、警察組織によって極秘に開発された「カメラ機能付き逃走対象者捜索用眼鏡(Glasses for Escape Target Search with camera function)通称:GETS(ゲッツ)」を用いれば、
2024年3月26日 00:00
「知りたいんだ、君のことが気になるから」そう言ったものの、僕は何ら分かってはいなかった。なぜなら、僕は君にはなれない。どんなに君のことを分かろうとしても、僕というフィルターを通してしか理解できないからだ。それは、”解釈”という言葉で表現されるものと等しかった。そう考えた時、僕は君のことを本当は理解できていないじゃないかと思った。知ったかぶりをして本質は見えていないのかも
2024年3月5日 23:34
「もしも透明人間になったら、何をしますか?」という質問に思春期の頃の俺なら、邪な考えがいくつも浮かんでいたはずだ。男子同士で盛り上がり、周りの女子からは《変態》と白い目で見られていたことだろう。それがどうだろう。30代半ばになった俺はそういうものにほとんど興味を示さなくなり、「透明人間になったら豪華客船に乗って、世界中を旅してみたい」というフリーライダーに成り下がった。そもそも
2024年2月27日 23:49
「悲しいこともあるわ、生きていたらね」母さんはそう言った。「だってそうでしょ。今日も誰かが誰かを思う。涙が溢れることも。どうすることも出来ないことも、仕方がないことも」「悔しいことも、不甲斐ないこともあるわ」「そうやって何かを感じながら、また明日が来るのを待つしかないのよ。すぐには消え去らないことでも、誰もがどうにかやり過ごしているのよ」「私はね、日常にあるそういう言い表せない
2024年2月25日 20:30
君が気付いた頃、僕は君の携帯に電話をかけるだろう。何度も着信音が鳴り、そして、静かに音が止まるだろう。そう、あの頃はまだ僕は君のことが好きだった。僕が君に電話をかけて、君はだいたい1分45秒後にかけ直す。その繰り返しだったし、それが楽しかった。若さゆえの幸福と甘酸っぱい想いに満ち溢れていた。でも、君はもうここにはいない。随分と理性ばかり働いてしまった僕は君と一緒には居ら
2024年2月9日 00:13
小生はただの凡人であった。物書きになろうと志し、早15年が過ぎた頃か。作品を書こうにも、直ぐには浮かばないもので仕方がない程、頭を使うのである。同期に言わせれば「そんなものはスルリと書けてしまう」とのことであったが、どのようにすれば、この難題に向き合えるのか猫の手も借りたい所であった。難解な問題を解こうにも、思考停止の頭では回るものも回るまい。考えようにも発想が浮かぶどころ
2024年2月7日 00:24
私はメロンパンが好き。それは、幼馴染のお母さんが経営しているパン屋で売っている。「いらっしゃい、今日も来てくれたのね」とおばさんは温かく出迎えてくれた。「メロンパン1つ」私がおばさんとやりとりをしていると、あいつが店の奥から出てきた。「また、メロンパン、買いに来たのかよ。うちのパンなんか買いに来んなよ」あいつは私にそう言うと、おばさんはすぐに咎めた。「コラ、お客さんに失
2024年2月1日 00:23
それは果てしない物語だった。終わりの見えない、小さな世界の中で憂鬱な日々を過ごしていた。僕らは哀しみに暮れていた。この街には歓喜すら無かったのだ。楽園という名の遊びは封じられ、街の人達はどこか暗い表情をしていた。救われないこの場所にはただ息苦しさだけが残った。彼女が僕の前に現れるまで・・・。彼女は突然、姿を現した。それが僕と彼女の二度目の再会であったことを僕はまだ知