フラスコ堂

散文、自由詩、あるいはそれらがいっしょくたになったようなもの書いてます。

フラスコ堂

散文、自由詩、あるいはそれらがいっしょくたになったようなもの書いてます。

記事一覧

雨ヶ森 |詩

雨のなかの ひとしずく 針葉樹の枝が ゆれれば ひとひらの 霧の子がうまれる ざわめく鳥は 恋のお年頃 残響にも似て 近く 遠く  きのうの夢も 伝言も も少しで …

20

DOUBLE BLUE |詩

届きたての贈り物 白くて円い 掛け時計 真ん中に「DOUBLE BLUE」 とだけ書いてある 岩戸を開く呪文みたいに 何だか唱えてみたくなる 「DOUBLE BLUE」 ふいに、文字盤…

フラスコ堂
2週間前
15

シルビアのいる街で

陽光、風、音、石畳、雑踏・・・ フランスの古都・ストラスブールの街並みの質感そのままに。 『シルビアのいる街で』――。 いつだったか、仏語友達から教えてもらった映…

フラスコ堂
1か月前
54

イリスの庭 |詩

雨上がり 早春の庭 北側の窓辺に立てば 山すそにかかる虹を 見つけられるかな 君の指は 鍵盤の海を泳ぐ 七色の音階の波間を ゆらりゆらりと 育ち始めた願いの種は 掘り…

フラスコ堂
1か月前
25

夜空にうかぶ |詩

バスを降りたら 大きな、まるい月 昇ったばかりの月は 大気のレンズ効果とやらで ひどく巨きく見えたけれど それは、黄じろい飛行船 重力の全く感じられない月 ぽっかり…

フラスコ堂
1か月前
26

「描くという祈り」~画家と巨樹  

昨年 10月に放送された、 NHK 日曜美術館「“描く”という祈り 日本画家・西田俊英」。 まさに神回で、NHKプラスでも何度か観てしまいました。 先週の日曜の朝、思いがけ…

フラスコ堂
2か月前
30

檸檬

以前、「りんご」について投稿したのですが、 今回は「レモン」への私見を書いてみたいと思います。 なお、「果物シリーズ・その 2 」 的な シリーズ化ではありません ・・…

フラスコ堂
2か月前
15

二月の旋律 |詩

いつだったろう、君が拾ってきた 猫の名前は、シュレーディンガー それは時々、波になるから 僕らも時々、波となって 猫じゃらしで遊んだ 陽光が差し込む 二月の部屋 そこ…

フラスコ堂
2か月前
21

ことばのしずく |詩

明け方の夢に 降りてきた いくつかの言葉 詩のようなフレーズ 目覚めたら もう思い出せない 朝露の珠のように つるるんと 落ちてきたけれど 閉じたまぶたの裏側で 蒸発し…

フラスコ堂
3か月前
16

水辺の光景 |詩

水郷でもなんでもない所で 思いがけず 豊かな水路と出会った 果樹園のイチジクが 午睡のさなか 水底に透けていた秋天 針の目に通された 無数のタイムラインは この橋の上…

フラスコ堂
3か月前
26

筆跡は語る

「にんげんだもの」で、有名な相田みつをさん。 その詩や書は、どこでともなくお見かけする。 そんな感じでしょうか? 特にファンというわけでもなかったけど、 「こんな…

フラスコ堂
3か月前
35

冬のデッサン|詩

ミロのヴィーナスと 向きあう 斜め36度の椅子 描ききれない しずけさ あかるさ 安寧 そのうちに 私の眉間は広がって やがてギリシャの孤島に 辿り着いてしまう ときお…

フラスコ堂
4か月前
24

Crystal Gate |詩

くねくねカーブ  物語から抜けて、もっと高みへ お社があるのは、あの下弦の月の下 ツバメのように心すべらせる 暗闇に浮かび上がる クリスタルの鳥居 鼓動のままに、越…

フラスコ堂
4か月前
14

サガンの言葉

フランソワーズ・サガンの「悲しみよ、こんにちは」は、 学生の頃、そんなに好きだとも思わなかったけれど、 いつしか、いいなと思えるようになった作品。 一人称の語りに…

フラスコ堂
4か月前
37

流れ星群|詩

いつか願いをかけた夜空が ふたたび巡ってくる あの人が好きだった星座をさがそう アルセフィーナ観測所から 流星の数をかぞえる人は 波のオペラをききながら ホットチョ…

フラスコ堂
5か月前
18

きよしこの夜

あなたは、そりに乗ってやってきた トナカイではなく、七面鳥に引かれて 着くやいなや プレゼント用のヒモを取り出すと あなたは、あやとりを始めた と思ったら あっと言…

フラスコ堂
5か月前
4
雨ヶ森 |詩

雨ヶ森 |詩

雨のなかの ひとしずく
針葉樹の枝が ゆれれば
ひとひらの 霧の子がうまれる

ざわめく鳥は 恋のお年頃
残響にも似て 近く 遠く 
きのうの夢も 伝言も
も少しで 思い出せそうなのに

この現は いつから
小雨のように 途切れては 
また ふいに降りかかる

清らかな水を呼びこむ
ここは 夏を待つ森

木々は伸び 雲は切れ 
ヒスイ色の蛾たちが ふわり
裏庭へと落下する

DOUBLE BLUE |詩

DOUBLE BLUE |詩

届きたての贈り物
白くて円い 掛け時計
真ん中に「DOUBLE BLUE」
とだけ書いてある

岩戸を開く呪文みたいに
何だか唱えてみたくなる
「DOUBLE BLUE」

ふいに、文字盤から流れ出す
青のバイブレーション

澄みわたる空のブルー
見渡すかぎりの海のブルー

わたくしの睫毛や
指のさきを
蒼く染め

そこいら中を
浄めるように
ゆっくり ゆっくり
拡がっていく

すべてが
青色

もっとみる
シルビアのいる街で

シルビアのいる街で

陽光、風、音、石畳、雑踏・・・
フランスの古都・ストラスブールの街並みの質感そのままに。

『シルビアのいる街で』――。
いつだったか、仏語友達から教えてもらった映画。
その不思議さたるや、仏映画の中でもダントツ(私比)。
それゆえ、何度も観たくなる作品。

『ミツバチのささやき』『エル・スール』の巨匠ビクトル・エリセが
「現代スペインで最も優れた映画作家」と評する
ホセ・ルイス・ゲリンが監督。

もっとみる
イリスの庭 |詩

イリスの庭 |詩

雨上がり 早春の庭
北側の窓辺に立てば
山すそにかかる虹を
見つけられるかな

君の指は
鍵盤の海を泳ぐ
七色の音階の波間を
ゆらりゆらりと

育ち始めた願いの種は
掘り返さないよう
納屋の精霊たちに
気づかれないよう
そっと守っていくよ

僕らはあの花のように
いのちの力で咲くけれど
此処は大きな鳥かごの中
隠された鍵を探し出すまで

果てしなく続く学びの徒で
モラトリアムで
永遠の淡い
春の虹

もっとみる
夜空にうかぶ |詩

夜空にうかぶ |詩

バスを降りたら
大きな、まるい月

昇ったばかりの月は
大気のレンズ効果とやらで
ひどく巨きく見えたけれど

それは、黄じろい飛行船
重力の全く感じられない月

ぽっかり

ぽっかり

そこにいるのは、誰ですか?

高台まで上りきったら
風は冷ややか 

月の位置も高くなり
いつもの大きさになったけれど

ほんの少し欠けている14日目の月は
満月ほどに、おめでたくはないのです

それは
見知らぬ虚

もっとみる
 「描くという祈り」~画家と巨樹  

「描くという祈り」~画家と巨樹  

昨年 10月に放送された、
NHK 日曜美術館「“描く”という祈り 日本画家・西田俊英」。
まさに神回で、NHKプラスでも何度か観てしまいました。
先週の日曜の朝、思いがけず、アンコール放送をしていて、
4ヶ月ぶりに視聴。

屋久島の森林。鹿と子鹿。三穂野杉の巨樹。夜の闇。
西田さんの言葉。声。素描。制作風景。
武蔵野美術大学美術館に飾られた、壮大な絵巻のような、
何十メートルもの絵・・・

屋久

もっとみる
檸檬

檸檬

以前、「りんご」について投稿したのですが、
今回は「レモン」への私見を書いてみたいと思います。
なお、「果物シリーズ・その 2 」 的な
シリーズ化ではありません ・・笑

_______________________

ご存知の方もいるかもしれませんが、
何年か前、「丸善・京都支店」の閉店が決まった時、
「置きレモン」が、どんどん増えていったそうです。

置きレモンとは、 
梶井基次郎の小説『

もっとみる
二月の旋律 |詩

二月の旋律 |詩

いつだったろう、君が拾ってきた
猫の名前は、シュレーディンガー
それは時々、波になるから
僕らも時々、波となって
猫じゃらしで遊んだ
陽光が差し込む
二月の部屋

そこ
かしこの
春の胎動に
寄り添うような
かろやかな足音に
福音はついてくるから
悲しみはぜんぶ風にあずけた 紙ヒコーキにして

立ち戻るのは、いつだってあの窓辺
コバルトブルーのガラスペンで
思いつくまま、ただ心のまま
書き連ねてい

もっとみる
ことばのしずく |詩

ことばのしずく |詩

明け方の夢に
降りてきた
いくつかの言葉
詩のようなフレーズ

目覚めたら
もう思い出せない

朝露の珠のように
つるるんと
落ちてきたけれど
閉じたまぶたの裏側で
蒸発してしまった

あたたかなさざ波だけ
この胸に残して

けど

それは
循環する水のように
空へ昇っていき

生まれたての
つやつやとした
新たな言葉のしずくとなって

いつか誰かの眠りのふち
祈りのように
春雨のように
またしづ

もっとみる
水辺の光景 |詩

水辺の光景 |詩

水郷でもなんでもない所で
思いがけず
豊かな水路と出会った

果樹園のイチジクが
午睡のさなか
水底に透けていた秋天

針の目に通された
無数のタイムラインは
この橋の上に
収束したらしい

振り向けば
たくさんの老若男女が
自転車に乗って
駆け抜けてゆく

右から左へ
左から右へ

ペンやカメラや絵筆や
愛するもろもろを
かかえて

水と
光と
自転車と


同じ座標上で交差して
それぞれの場

もっとみる
筆跡は語る

筆跡は語る

「にんげんだもの」で、有名な相田みつをさん。
その詩や書は、どこでともなくお見かけする。
そんな感じでしょうか?

特にファンというわけでもなかったけど、
「こんな風貌の方だったんだ~」と
ちょっと意外な感じがしたことを覚えています。

以前、NHKの新日曜美術館で
「自分のことば じぶんの書 ~書家で詩人・相田みつを」
という特集を観たときのこと。

痩せていて、やさしそうで、繊細そうなお顔立ち

もっとみる
冬のデッサン|詩

冬のデッサン|詩

ミロのヴィーナスと
向きあう
斜め36度の椅子

描ききれない
しずけさ
あかるさ
安寧

そのうちに
私の眉間は広がって
やがてギリシャの孤島に
辿り着いてしまう

ときおり
消え入りそうに
かすかな音色

そのやわらかく結ばれた
唇の端から
こぼれ落ちる

拾い集めたら
薄羽のようで
スケッチブックにはさんで
持って帰った

Crystal Gate  |詩

Crystal Gate |詩

くねくねカーブ 
物語から抜けて、もっと高みへ
お社があるのは、あの下弦の月の下
ツバメのように心すべらせる

暗闇に浮かび上がる
クリスタルの鳥居
鼓動のままに、越えたなら
点滅する光……光のつぶたち
すべてとつながる、聖なる空間

きらめきながら
涙ぐみながら
新しいみんなと、新春シャンソンショー
水鏡に揺らめく神さま

ゆるやかに、冬の大六角形が回転し
アップデートされてく世界線
いのちをつ

もっとみる
サガンの言葉

サガンの言葉

フランソワーズ・サガンの「悲しみよ、こんにちは」は、
学生の頃、そんなに好きだとも思わなかったけれど、
いつしか、いいなと思えるようになった作品。

一人称の語りに、冒頭から引き込まれてしまう。
流れるような、詩的な筆致が、心地いい。
どこか悲しげで、青みがかった柑橘の
すっぱくて、甘いかおりがする。
私にとっては、そんな文体。
(朝吹登水子さんの訳のうまさも大きいけれど)

デリケートさと残酷さ

もっとみる
流れ星群|詩

流れ星群|詩

いつか願いをかけた夜空が
ふたたび巡ってくる
あの人が好きだった星座をさがそう

アルセフィーナ観測所から
流星の数をかぞえる人は
波のオペラをききながら
ホットチョコレイトを用意する

新月の宵
丘の上の子供が天空を指さす
それが始まりの合図

そのさきっぽに
小さな螺旋がやどり
宝瓶宮からしたたり落ちる水で
透きとおるベクトルになった

流れゆく光
またひとつ
またひとつ

窓辺でひとり見上げ

もっとみる
きよしこの夜

きよしこの夜

あなたは、そりに乗ってやってきた
トナカイではなく、七面鳥に引かれて

着くやいなや
プレゼント用のヒモを取り出すと
あなたは、あやとりを始めた
と思ったら
あっと言う間に、“ホウキ” の完成
赤いヒモだからかわいい

あなたがそれで、サササと掃くと
私たちの罪が清められた
それでも、後から後からそれは出てくるから
掃いても掃いても、きりがない

私もあやとりをする
“さかずき” からの、“エプロ

もっとみる