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独身者と余暇

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東京にあてた恋文

東京にあてた恋文

最近、『追憶の東京~異国の時を旅する』(早川書房)という本を手にした。

著者のアンナ・シャーマンは2000年代のはじめ、10年あまりを東京で暮らした経験をもつアメリカの作家。

この『追憶の東京~異国の時を旅する』は、そんな著者による異色の日本滞在記である。

かつて江戸の市中には、町民に時刻を知らせるための鐘、いわゆる「時の鐘」が点在していた。

その響きに魅入られた著者は、すでに存在しないも

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「シュルレアリスムと日本」覚え書き

「シュルレアリスムと日本」覚え書き

シュルレアリスムはむずかしい

シュルレアリスムはむずかしい。

東京の板橋区立美術館で開催中の展覧会「シュルレアリスムと日本」をみての感想です。

むずかしいと言っても、それはかならずしも難解といった意味ではありません。そうではなく、意識をもって無意識の領域を描こうとすることに本来つきまとう困難さ、とでも言えばよいでしょうか。

シュルレアリスムは、アンドレ・ブルトンの《シュルレアリスム宣言 溶

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どうにも気になってしまい映画『異人たちとの夏』をみた

どうにも気になってしまい映画『異人たちとの夏』をみた

前回、ん? 前々回の浅草の話からの、これは続きである。



けっきょく小説だけでは飽き足らず、山田太一の小説を市川森一が脚色し大林宣彦が監督した映画版『異人たちとの夏』まで観てしまった。

主演を風間杜夫が、両親役をそれぞれ片岡鶴太郎と秋吉久美子が演じている。

この映画はすいぶんむかし、たしか十数年前にいちど観た記憶がある。

なんだかへんちくりんな映画だなあと思ったきり忘れていたのだが、今

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「橋63」で行く

「橋63」で行く

しいたけ氏いわく

ひさびさに「橋63」に乗ろう。そう思い立ったのは、しいたけ占いに

今週は自分なりの「逃げる時間」や「逃避行タイム」を計画してみてください

と書かれているのを見たからだった。

とりわけ占いを信じるほうではないが、「いま○○な状態ならこんなことしてみるのもいいですよ」スタイルのしいたけ占いは、つい毎週チェックしてしまう。

占いというよりは、一回立ち止まって現在地をたしかめる

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これは雑文です

これは雑文です

これは雑文です。



ひとはなぜサッカーをする、あるいは観るのか?

一昔前なら頭を抱えてしまうような難題もAIがサクッと解決してくれるこの現代にあって、22人もの人間が2時間ちかくたった1個のボールをひたすら追いかけまわしている。

場合によっては、その様子を映像を通じて何十万、あるいはそれ以上?の人びとが固唾をのんで見守っている。

どうかんがえたってタイパ最悪ではないか。

ここで誤解の

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わたしは地下鉄です

わたしは地下鉄です

物心ついたときから、家のある街にはいつも地下鉄が走っていた。

引っ越しも何回かしているし、べつに地下鉄にこだわって住む場所を選んだおぼえもない。

なのに、気づけばずっと生活のかたわらには地下鉄がある。



地下鉄を利用しているひとはきっとみなそうだと思うのだが、僕もまた隣町の風景をよく知らない。そもそも見えないのだ。どうしようもない。

ある日思い立って途中下車でもしないかぎり、隣町は永遠

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PERFECT DAYS

PERFECT DAYS

――ああ、この世界はなんて素晴らしいんだろう

柄にもなく、そんな感情に見舞われる瞬間がたまにある。

けれど、惜しいことにそんな感情は長続きすることはない。

あまりにあっけなく消えてしまうので、せめて口のなかでトローチを溶かすほどの時間であればなどと思ったりする。

それでも、そのときおぼえた感情は自分のうちにたくわえられ、人生をすこしだけ前へと押し出す推進力となる。

――つい先だっての話。

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倉俣史朗のデザイン 記憶のなかの小宇宙@世田谷美術館

倉俣史朗のデザイン 記憶のなかの小宇宙@世田谷美術館

ものごとを、興味のある/なしで判断するのはとんだおっちょこちょいのすることだ。

この世の中には、ただ、興味のあることとまだ興味の糸口を見つけられずにいることがあるにすぎない。

亡くなったじいちゃんの遺言である。うそです。

というわけで、興味の糸口を探すべく、冬にしては暖かな午後に世田谷美術館を訪れた。

世田谷美術館ではいま、約10年ぶりという倉俣史朗の大規模な回顧展がひらかれている。

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年越し本あれこれ

年越し本あれこれ

子どもの頃、大晦日には父と連れだって街のおもちゃ屋へとプラモデルを買いに出かけた。

自動車とか戦車とかお城とか、じっくり考えた末にひとつだけ買ってもらう。父もまた、自分用にひとつプラモデルを買った。

買ったプラモデルはすぐにでも組み立てたい気持ちを抑え、一晩寝かせて年が明けてからから開封するのが “しきたり”だった。

そもそも、大晦日にプラモデルを買うという我が家の行事はいつから始まったのだ

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2:21.8の“絶対”

2:21.8の“絶対”

日曜日。雨のなか銀座に出る。

ひとくちに銀座に出るといっても、その時々で理由はさまざまだ。その日銀座に行ったのは、場外馬券売り場でジャパンカップの馬券を買うためだった。

大きなレースがつづく秋は、春と並んで競馬の“シーズン”である。とはいえ、ここのところ仕事が忙しく、週末に出勤することも多かったためSNSで結果をチェックするくらいでまったくといってよいほど追えていない。思えば、馬券を買うのすら

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【読書感想文】イ・ドウ『私書箱110号の郵便物』

【読書感想文】イ・ドウ『私書箱110号の郵便物』

どうも人間というのは忘れっぽい生きものらしい。朝晩ちょっと肌寒くなっただけで、もう今年の夏のいつまでもだらだら暑かった日々のことを忘れそうになる。

ここ日本には四季というものがありまして、なんて言っていたのもいまはむかし。ここ最近は一年の半分近くを夏が占め、そこに春と秋とが申し訳程度にこびりついているといった印象だ。

じっさいこの夏をふりかえると、やたら猛暑とゲリラ豪雨ばかりが思い出される。長

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ごはんをちゃんと食べるってもしかしたらすごいことなのでは?

ごはんをちゃんと食べるってもしかしたらすごいことなのでは?

毎日ちゃんとごはんを食べる。もう、それだけでじゅうぶんえらい! そう思わせてくれるのが、韓国の人気バラエティ番組『三食ごはん』だ。

数年前、コロナ禍のさなかにうっかりK-POP沼にハマり、ちょうど音楽以外の文化にも興味が湧きはじめたタイミングで出会ったのがこの番組だった。

おなじみの俳優やアイドルが山深い農村や離島の漁村で自給自足の生活をくりひろげるときくと、あるいはTOKIOのメンバーが田舎

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適度の気品と慎ましやかさ ポール・オデットを晩秋の喫茶店で聴きたい

適度の気品と慎ましやかさ ポール・オデットを晩秋の喫茶店で聴きたい

ポール・オデットについて何か書こうと思ったのだが、じつはポール・オデットという音楽家について何も知らないのだった。

ある日アップルミュージックがおすすめしてきたアルバムを聴いてみたところすっかり気に入ってしまい、ここ最近BGMのように部屋ではずっとその音楽が流れている。それがポール・オデットだ。

解説によれば、ポール・オデットはアメリカ出身のリュート奏者で、とりわけエリザベス朝時代の作品を多く

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Duolingoで学ぶ韓国語

Duolingoで学ぶ韓国語

とうとう後へは引きさがれなくなった。語学学習アプリ「Duolingo」に課金(しかも年間プラン)してしまったのだ。

この春、いくつかのアプリやテキストを試した末にDuolingoを使って韓国語の学習をはじめた。そのときは無料プランで3カ月ほど、つまり100日以上続いた。

Duolingoのよいところは、1日15分ほどゲーム感覚で勉強ができるという手軽さ、敷居の低さにある。「継続は力なり」という

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