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記録室

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コンテストに参加した作品と、その後書きたちのまとめ。受賞作 ▷▷ 磨け感情解像度・芽生え賞受賞/また乾杯しよう・キリン特別賞受賞/教養のエチュード賞
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三十路、恥ずかしげもなく宝

三十路、恥ずかしげもなく宝

人生ではじめて、朝ドラを観ている。

「おちょやん」
大阪に生まれたコメディエンヌの生涯を描いた、杉咲花さんがヒロインの連続テレビ小説だ。

先週(2/22〜2/26)放送分のメインテーマとなったのが、金にも女にもだらしなくどうしようもない父・テルヲのせいで幼いうちから奉公に出された主人公・千代と、離ればなれで育った弟・ヨシヲとの10数年ぶりの再会を描いた一幕だった。

野垂れ死にそうになりながら

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秋刀魚、燃ゆ

秋刀魚、燃ゆ

秋刀魚が燃えた。落ちた油に引火したらしい。

と、話題の名作に乗っかったオマージュがしたい訳ではなく。これは中学2年生のわたしに「あの時よくがんばったよね」と握手がしたくて書こうと思う。そうしたらつい、浮かんでしまって。大変申し訳ありません。

さぁ、「おいしいはたのしい」の話をしよう。

がんばったわたしと、一緒にがんばってくれた大切な家族と、燃えた秋刀魚の話を。

それは、今から16年前。

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ふたつ、おそろい

ふたつ、おそろい

23時を過ぎた頃。

両手でひらくその箱の中には、今夜も色とりどりの愛が詰まっている。

ふたつ抱えていそいそと向かう先。

スマホでツムツムをしながらわたしを待つ、まぁるい父の背中だ。

52歳の父・29歳の娘。
親子ふたりぐらしの、我が家。

毎晩ふたりで晩ごはんを食べて、
毎晩ふたりで晩ごはんの後にアイスを食べる。

わたしのお腹の調子が悪い日は、お休み。
父は一年中風邪も引かないようなひと

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コンパスで刻んだ呪いと誓いのアイノカケラ

その日の夕食はカレーで、食後には藍色の器にこんもりと盛られたイチゴが出てきた。

ひとつひとつ丁寧にヘタが取られたその赤い宝石は、じゅわっとみずみずしい春の味がした。

口いっぱいにそれをほおばりながら、「家庭訪問のお知らせ」を渡し忘れていることに気がついて二階の自室へと取りに向かう。

階段を三段昇ったところで、母の声がした。

「あんな、大事な話あるねん。」

ーーー来た、と思った。

「家庭

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ひとは、こんなにも時が過ぎた後で (御礼/受賞に寄せて)

ひとは、こんなにも時が過ぎた後で (御礼/受賞に寄せて)


ドンドンドン〜〜〜!!!

💐💐💐

こちらのコンテストに応募した作品が

このたび、なんと、、

キリン特別賞を受賞しました!!!!!!!

くぅぅーーーーーーっ!!!!

( しばし、無の境地 )

はぁ。うれしい。うれしすぎる。

熱く語り散らした後書きにも記しましたが、

ここ数年のいろんな思い入れがあった分、入賞できることを願ってたので

堪らなく、すっごく、うれしいです。

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Gift  / また乾杯しよう後書き

Gift / また乾杯しよう後書き

2年前のちょうど今頃。

息苦しい夏の終わり。しずかな秋の始まり。

わたしは、ウェディングプランナーを辞めた。

大きな理由は、体調不良によるものだった。

もうすこし正式に言うと、この時点で体調を崩してしまったのでプランナーの職を卒業して同じ会社の別部署に異動したのだが、その1年後に、今度は完全に身体を壊してしまった。

会社が悪かった訳ではない。
わたしが、自分の限界に気付けなかったのだ。

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「 約束のエアハイタッチ 」

「 約束のエアハイタッチ 」

一面の窓ガラスに、たっぷりとした陽の光を浴びて木々の緑がきらきらと揺らめいている。

あぁ、夏だ。
そう思わせるには十分すぎるくらいの、こぼれそうなほど眩しい日差し。クーラーのよく効いた涼しい室内でそのきらめきを眺めるのは、この季節ならではのしあわせといえるだろう。

・・・

「………ということで結びに、逢うべき糸に出逢えることを人は仕合わせと呼びます、なんていう有名な歌がありますが、幸福のさち

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しあわせを、リツイート  (御礼/受賞に寄せて)

しあわせを、リツイート  (御礼/受賞に寄せて)

とにかく伝えたいことは #磨け感情解像度 で賞をいただいた御礼なのですが、なんだかいろいろ重なったことで気持ちが溢れてしまって長くなってしまいました・・・。

もし宜しければ、お付き合いくださいませ。

ーージャイアンツが、勝てない。

キャプテンはずっと不調だし、あれだけ良かった若大将も右肩下がりだし、おまけに今週関西に来てから雨でノーゲームばかり。こんなことなら東京ドームでやれば良かったじゃん

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原石がひかるとき

原石がひかるとき

いつ俺のことすきになったの、と言う。

ーー初めてふたりでカフェに入って、私が本日のタルトかスコーンで迷って迷ってようやくスコーンに決めたらあなたが注文するときに「ホットコーヒーと、カフェラテと、スコーンと、本日のタルトで。」って言ってくれたとき。俺もタルトひとくち食べたいんだよね、って笑った顔がたまらなかったなぁ。

私のことはいつすきになったの、と訊く。

ーー初めてふたりで出かける前に相談し

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今夜も白い壁じゃなくて、顔を見て眠りにつきたかった

今夜も白い壁じゃなくて、顔を見て眠りにつきたかった

この世でいちばん哀しい光景は、眠りにつく前に見る目の前の白い壁だ。

桜の季節に初めて一人暮らしをした部屋は、お世辞にも広いとは言えないワンルーム。バストイレ別ということだけが自慢な、けれどすきなものだけを集めた小さなそのお城は、雪の降る頃にいつしか二人暮らしに変わっていた。

狭い、ということは近い、ということで。
気配につつまれた濃密な8.5畳は、どこにいてもふたりがいて、どこにもいけないほど

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そして私はいつまでも、消えないキャンプファイヤーを眺めていた

そして私はいつまでも、消えないキャンプファイヤーを眺めていた

あれは、10年前のちょうど今頃。
高校最後の体育祭が終わった。

私の通っていた高校は直線で80メートルしか引けないような狭いグラウンドの、運動にはあまり優れていない文化系の少し変わった高校だった。
だから体育祭は、全校を4つの応援団に分けた応援合戦が最大の見どころで、リレーも綱引きもまぁ一応は盛り上がるけれど、有志が行うフィナーレの応援団の全体ダンスにとにかく全力を懸けている、というスタンスのも

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お父さんがすきだというと 「一緒にお風呂入れる?」 と聞いてくる人が心底嫌い (#キナリ杯参加作)

お父さんがすきだというと 「一緒にお風呂入れる?」 と聞いてくる人が心底嫌い (#キナリ杯参加作)

突然だが、私は、父がすきだ。

就活で「あなたが熱烈にすきなものやひとについて語ってください」と言われて迷うことなく父の話をしたくらいに、すきだ。

全日本・お父さんだいすきやねん!娘選手権(きっと放映はテレ東)があれば、まぁまぁな上位に組み込める自信があるほどに、すきだ。

異性として、とかそういう話をしている訳ではない。人として単純に、すごくものすごく父がすきなのだ。

こういう話をすると「お

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