hiro75

本業の合間に、小説を書いています。主に、歴史・時代小説が得意です。たまに、現代・恋愛小…

hiro75

本業の合間に、小説を書いています。主に、歴史・時代小説が得意です。たまに、現代・恋愛小説など書きます。 こちらにも投稿をはじめました ⇒ アルファポリス 電網浮遊都市 ⇒ https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/265934815

マガジン

  • 【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」

    「敵は本能寺にあり!」 天下取り目前の男、それを支える男、それを阻もうとする男、次の天下取りを狙う男、その流れに乗ろうとする男たち、そしてただ無邪気に男たちを弄ぶ少年………………その中で、ひとりの男を愛する少年は、その愛を昇華していく………………『本能寺燃ゆ』はついに佳境へ!!

  • 【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第四章「偏愛の城」

    愛する男のために、他の男の胸に抱かれる少年。その前に、現れた美少年。無邪気な彼の行動が、彼らの人生を狂わせていく………………。武士の野望と、少年の純愛、そして男たちの欲望が、渦を巻いて絡み合う。「燃える」三部作『本能寺燃ゆ』第四章「偏愛の城」、いま幕を開ける!!

  • 【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第三章「寵愛の帳」

    御山が燃える……、愛しい男に再開するための代償は、多くの命であった。それでも少年は、全てのものを犠牲にして、男に仕えようとする。心に晴れない何かがありながらも………………。男の野望と、少年の愛、そして武将たちの欲望が渦を巻いて絡み合う。「燃える」三部作『本能寺燃ゆ』第三章「寵愛の帳」、いま幕を開ける!!

  • 【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」

    男は村を去った、「天下を取りに……」という言葉を残して。少年は、男のあとを追って、村を出る、男への愛を求めて。だが、彼の前に、幾多の困難が………………。武士の野望と、少年の純愛、そして男たちの欲望が、渦を巻いて絡み合う。「燃える」三部作『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」、いま幕を開ける!!

  • 【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第一章「純愛の村」

    権太の村にひとりの男がやって来た。男は、干からびた田畑に水をひき、病に苦しむ人に薬を与え、襲ってくる野武士たちを打ち払ってくれた。村人から敬われ、権太も男に憧れていたが、ある日男は村を去った、「天下を取るため」と言い残し……男の名を十兵衛といった。 ーー 『法隆寺燃ゆ』に続く「燃ゆる」三部作のひとつ『本能寺燃ゆ』 男たちの欲望と愛憎の幕が遂に開ける!

記事一覧

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 85

 太若丸は、早速これを殿に見せた。 「家中軍法とな? 十兵衛が?」  殿は、興味津々でそれに目を通した。   ひとつ、戦場において、武士は役を与えられたもの以外…

hiro75
5日前
10

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 84

 翌朝登城すると、近習や小姓らが慌ただしく走り回っていた。  近習の長谷川秀一をつかまえ、何事かと訊ねると、 「殿が、昨夜にお帰りになられたのですが…………………

hiro75
7日前
4

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 83

 殿は、乱を筆頭に小姓五、六名を連れて長浜へ、そこから舟で淡海の竹生島に向かった。  太若丸は、留守番である。  片道十五里(約六十キロメートル)だから、今夜は…

hiro75
12日前
9

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 82

 三月十二日に、越中にあった佐々成政と神保長住らが、その様子を報せるためにと、献上品の馬九匹を引き連れて安土にやってきた。  柴田勝家率いる越前衆は、いまだ京に…

hiro75
2週間前
12

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 81

 十日に安土に戻ると、馬揃えに招待いただい礼にと、再ヴァリニャーノらが訪れた。  此度は、安土にできた南蛮の寺とセミナリヨという就学の場所を見学し、 「上様には…

hiro75
3週間前
13

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 80

 二月二十八日、快晴である。  当然だ、この日のために祈祷させたのだから ―― 太若丸も、殿から当日雨が降らないようにしろと、また無理難題を課せられ、見よう見ま…

hiro75
1か月前
3

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 79

 それから坂本は、上へ下への大騒ぎである。  すぐさま使いが京都所司代村井貞成(さだなり)もとに遣わされた。  貞成は貞勝の嫡男であるが、貞勝が歳明けて出家し春…

hiro75
1か月前
8

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 78

「……とはいうものの、あいつは当面、東を見ることになろう、伊予だけでは不安じゃからのう」 「徳川殿は?」 「ん? んん……」、殿は盤上を見つめながら、「伊予だけ…

hiro75
1か月前
6

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 77

 明けて天正九(一五八一)年、武将らの新年の挨拶は免除となり、近々のものだけで正月を過ごした。  殿は、酷く陽気で、 「よし、馬駆けをするぞ、仕度をさせろ」  …

hiro75
1か月前
12

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 76

 同じ頃、花隈では動きがあった。  荒木村重らが立て籠る最後の砦 ―― 花隈を取り囲んでいた池田恒興・元助・照政(輝政)親子であったが、照政の先兵が偵察として進…

hiro75
1か月前
8

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 75

 七月二日、大坂和睦の勅使である近衛前久、勧修寺晴豊、庭田重保が、本願寺の前門跡顕如の使いとして藤井藤左衛門(ふじい・ふじざえもん)、矢木駿河守(やぎ・するがの…

hiro75
2か月前
17

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 74

 元親の〝四国切り取り〟の件は、十兵衛が何度も登城し、説得を試みた。  はじめは首を横に振っていた殿であったが、十兵衛の説得が効いてきたのか、徐々に考え直すよう…

hiro75
2か月前
7

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 73

 ただ、ただ時が過ぎ、夜が明けていくのではないかと思ったが、ようやく目を開き、 「庄兵衛、武器や兵糧は如何ほどに?」  と、十兵衛が問うた。  庄兵衛は慌てて十…

hiro75
2か月前
5

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 72

「そんな馬鹿げた話があるか!」と、内蔵助は己の膝を怒気を含んでどんと叩く、「あれほど〝四国切り取り〟を約しておきながら、それを反故にするだけなく、三好や河野に肩…

hiro75
2か月前
8

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 71

 内蔵助がすっきりとした顔で戻ってくると、また酒を飲み飲み、赤子の自慢が始まった。  そこに、伝五や左馬助がちゃちゃを入れたりしている。  終始和やかな雰囲気で…

hiro75
2か月前
6

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 70

 六月の終わりになって、刑部の屋敷から赤子の泣き声と、男の野太い声が聞こえてきた。 「おお、よしよし、どれどれ襁褓かな? お乳かな? 襁褓は大丈夫、おお、これは…

hiro75
2か月前
6
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 85

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 85

 太若丸は、早速これを殿に見せた。

「家中軍法とな? 十兵衛が?」

 殿は、興味津々でそれに目を通した。

  ひとつ、戦場において、武士は役を与えられたもの以外は大きな声をださず、雑談をしてはならない。
      戦が始まった場合は、陣容や鯨波(威嚇として大声を出す)は下知に従うこと。

  ひとつ、先鋒は、旗本侍の到着を待って、その下知に従うこと。
      ただし、先鋒のみで行動する

もっとみる
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 84

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 84

 翌朝登城すると、近習や小姓らが慌ただしく走り回っていた。

 近習の長谷川秀一をつかまえ、何事かと訊ねると、

「殿が、昨夜にお帰りになられたのですが………………」

 やはり、帰ってきたか。

 それで、無事にお迎えできたのですか?

 秀一は首を振った。

「殿のことだから、必ず夜にはお帰りになると、女房衆にはきつく申しておったのですが………………」

 鷹がいなくなって、大空を舞う雀のよう

もっとみる
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 83

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 83

 殿は、乱を筆頭に小姓五、六名を連れて長浜へ、そこから舟で淡海の竹生島に向かった。

 太若丸は、留守番である。

 片道十五里(約六十キロメートル)だから、今夜は泊まりか?

 いや、殿のことだから、日帰りだろうな。

 その間は殿から解放されて、羽を伸ばせるか………………というわけにもいかず、殿が〝神〟になるための方法を探るために、セミナリヨまで出向いた。

 院長となったニェッキ・ソルド・オ

もっとみる
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 82

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 82

 三月十二日に、越中にあった佐々成政と神保長住らが、その様子を報せるためにと、献上品の馬九匹を引き連れて安土にやってきた。

 柴田勝家率いる越前衆は、いまだ京にあり、久々の都を楽しんでいた。

 その隙をつかれた ―― 上杉景勝が越中に侵攻し、小井手を囲んだ。

 報せを聞いた殿は、すぐさま勝家らに出陣を促し、勝家と越前衆、成政、長住らはすぐさま北上。

 織田勢の引き返しがあまりに早かったので

もっとみる
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 81

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 81

 十日に安土に戻ると、馬揃えに招待いただい礼にと、再ヴァリニャーノらが訪れた。

 此度は、安土にできた南蛮の寺とセミナリヨという就学の場所を見学し、

「上様には、過分のご高配を賜り、まことにありがとうござりまする」

 と、ヴァリニャーノらは礼を述べた。

「うむ、あれで少しは教えを広げやすくなるかな。なんぞ不便なことがあれば、遠慮なく申されい。ばりの(ヴァリニャーノ)殿らとは、末永く仲良くや

もっとみる
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 80

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 80

 二月二十八日、快晴である。

 当然だ、この日のために祈祷させたのだから ―― 太若丸も、殿から当日雨が降らないようにしろと、また無理難題を課せられ、見よう見まねで祈祷してみたが、まあ、それが効いたのか、はたまた他の僧侶や陰陽師たちの祈祷に効果があったのか、とりあえず、晴れてよかった ―― 晴れなければ、今頃全員三途の川を渡っていただろう。

 内裏の東に、南北八町(約八百八十メートル)ほどの馬

もっとみる
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 79

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 79

 それから坂本は、上へ下への大騒ぎである。

 すぐさま使いが京都所司代村井貞成(さだなり)もとに遣わされた。

 貞成は貞勝の嫡男であるが、貞勝が歳明けて出家し春長軒(しゅんちょうけん)となり、当主の座を貞成に譲った。

 まあ、貞勝も、信盛や秀貞らの追放を見て、色々と考えるところがあったのだろう、息子に席を譲ったのだが、仕事自体はまだまだ彼の手にあり、公家衆らの折衝は彼にしかできない。

 公

もっとみる
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 78

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 78

「……とはいうものの、あいつは当面、東を見ることになろう、伊予だけでは不安じゃからのう」

「徳川殿は?」

「ん? んん……」、殿は盤上を見つめながら、「伊予だけでは……、まだまだ不安じゃからのう」

 徳川家康は、昨年末に高天神城を囲んでいた。

 高天神城は、遠江と駿河の国境近くにあり、遠州灘の港を抑える要所である。

 海のない武田にとっては、喉から手が出るほど欲しい城である。

 天正二

もっとみる
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 77

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 77

 明けて天正九(一五八一)年、武将らの新年の挨拶は免除となり、近々のものだけで正月を過ごした。

 殿は、酷く陽気で、

「よし、馬駆けをするぞ、仕度をさせろ」

 と、唐突に言い出し、馬廻りの連中が慌てていたが、結局雨が降り出してこれは取り止めとなり、

「うむ、仕方がない、酒でも飲むか」

 と、宴会になった。

「久右衛門(菅屋長頼)、久太郎(堀秀政)、竹(長谷川秀一)、飲め飲め! 無礼講じ

もっとみる
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 76

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 76

 同じ頃、花隈では動きがあった。

 荒木村重らが立て籠る最後の砦 ―― 花隈を取り囲んでいた池田恒興・元助・照政(輝政)親子であったが、照政の先兵が偵察として進み出ると、これを城方が追い払い、そこに元助、恒興が助力に入り、最後の一戦と火ぶたが切られた。

 大手門前で、一進一退の戦闘が繰り広げられたが、池田の別動隊が搦手を突破し、城内に侵入、大手門を開いて城方を挟撃、ここに後詰めの織田方についた

もっとみる
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 75

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 75

 七月二日、大坂和睦の勅使である近衛前久、勧修寺晴豊、庭田重保が、本願寺の前門跡顕如の使いとして藤井藤左衛門(ふじい・ふじざえもん)、矢木駿河守(やぎ・するがのかみ)、平井越後守(ひらい・えちごのかみ)を連れてきた。

 雑賀へと無事下向できたことと、金子のお礼に、との挨拶らしい。

 取次ぎは、松井友閑と佐久間信盛である。

 信盛は、あいも変わらずむすっとしている。

 そんな顔で殿の前に出た

もっとみる
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 74

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 74

 元親の〝四国切り取り〟の件は、十兵衛が何度も登城し、説得を試みた。

 はじめは首を横に振っていた殿であったが、十兵衛の説得が効いてきたのか、徐々に考え直すようになって、

『分かった、十兵衛、おぬしがそれほどまでいうのならば、その方が良いのであろう。だが、いまの織田家の当主は勘九郎じゃ。明日、あれが登城してくるので、その意見も聞きつつ、最後の決裁は明日言い渡す』

 と、あと一歩のところまでき

もっとみる
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 73

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 73

 ただ、ただ時が過ぎ、夜が明けていくのではないかと思ったが、ようやく目を開き、

「庄兵衛、武器や兵糧は如何ほどに?」

 と、十兵衛が問うた。

 庄兵衛は慌てて十露盤を弾き、

「兵糧は、坂本と亀山に、それぞれ半年分ほど。だが、無理をすれば、さらに半年分を積める。刀や槍は三千、銃も三千ほど」

 と、口早に答えた。

「少ない、三年は戦えるほど積みあげてくれ」

 庄兵衛は驚いた顔をしていたが

もっとみる
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 72

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 72

「そんな馬鹿げた話があるか!」と、内蔵助は己の膝を怒気を含んでどんと叩く、「あれほど〝四国切り取り〟を約しておきながら、それを反故にするだけなく、三好や河野に肩入れするつもりか? あの〝うつけ〟が!」

 安土中に響き渡りそうな大声だ。

 刑部は、しっと人差し指を口元にもっていった。

「大殿のお膝元だ、あまりけったいなことを口にするな」

「これが黙っていられようか!」

「まこと内蔵助の申す

もっとみる
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 71

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 71

 内蔵助がすっきりとした顔で戻ってくると、また酒を飲み飲み、赤子の自慢が始まった。

 そこに、伝五や左馬助がちゃちゃを入れたりしている。

 終始和やかな雰囲気であったが、庄兵衛が徐に口を開いた。

「十兵衛殿、何事がありましたか?」

 庄兵衛だけ、沈んだような顔の十兵衛に気が付いていたようだ。

「ん? うむ……」

 と、深刻そうな顔をする。

「どうした十兵衛?」

 と、左馬助が訊ねる

もっとみる
【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 70

【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 70

 六月の終わりになって、刑部の屋敷から赤子の泣き声と、男の野太い声が聞こえてきた。

「おお、よしよし、どれどれ襁褓かな? お乳かな? 襁褓は大丈夫、おお、これはお乳か」

「何やってるんですか、あんたが胸を出してどうするんですか!」

 大騒ぎである。

 安に遅れて、内蔵助もやってきた。

 太若丸の屋敷では、刑部の妻らに用意させた肴で濁酒を飲みながら、騒ぎを聞いていた十兵衛らが笑っていた。

もっとみる