内藤 奈美

詩人・ダンサー。踊ったり、詩を書いたり朗読したり。KOTOBA Slam Japan …

内藤 奈美

詩人・ダンサー。踊ったり、詩を書いたり朗読したり。KOTOBA Slam Japan 2020/21 ツイキャス大会優勝・全国大会ベスト4。翻訳勉強中。

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  • エッセイのようなもの

    雑記からはみ出た、やや長めのもの。テーマを決めて書いているもの。

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    ちょっとした雑記、日記的ななにか。短めのもの。

  • 言の葉【詩】

記事一覧

街の本屋さん

用事のついでに家から一番近い商店街に足を運んだ。商店街、と言えるほどの規模があるかというとそうでもなくて、控えめなスーパー、最近オープンしたマツキヨ、その周囲に…

内藤 奈美
11か月前
21

雑記20230321

通り過ぎたものとは、しっかりと決別するべきだ、と思った。幻想を回顧するのは、個人の中でおこなう分には構わない。ただ、自らが積み上げたものは、もうそこにはないと見…

内藤 奈美
1年前
3

詩 『可視光線』 (2022)

可視光線 その空は青いのか。 半年ぶりに休みが取れた日曜日 地球はどこまでも平らかで、 球体、ということを忘れさせる。 公園のベンチできみを見ていた、 それは一種の…

内藤 奈美
1年前
5

わかってほしいがわからない

ど直球に書くと、察するという文化が苦手だ。 正確には「言わなくてもわかるでしょ」という空気に対応することが。 幼い頃、というよりもわたしは根本的に、今はステージ…

内藤 奈美
1年前
8

夜と負の妄想と、かつてのマウントみたいなもの

何にも満たされない夜っていうのがある。 決して満たされない状況とは言いきれない、恵まれたところもきちんとあるという自覚はあるのに、足りないものにばかり目を向けて…

内藤 奈美
1年前
6

詩 『星の街』 (2023) 【朗読あり】

星の街 繁華街のぎらぎらしたネオンも昼間は身を隠しているから、雑踏の只中でもどこか心許なく、そうして星を待つのがわたしたちだ。地上に生えた、めらめらした揺らぎは…

内藤 奈美
1年前
2

詩 『雨の降る部屋』 (2020)

雨の降る部屋 猥雑なテレビも部屋の明かりも消すと、冷蔵庫の低い唸りと時計の針だけが音を支配する、誰かを傷つけてしまった夕暮れ、嘲笑うように雨は降り出し、傘を持た…

内藤 奈美
1年前
7

詩 『夜間高速、疾るうたかた (リーディングver.)』 (2017) 【動画あり】

夜間高速、疾るうたかた 葉脈に水を通すように 侵食、這いつづけ 温度を運ぶ (或いは運ばない) ひかりの流線は 都市の青い血管 つめたさが肌を刺し 神経は撫でつけられ …

内藤 奈美
1年前
4

さよなら、2022。

これを書き終わる頃には2022が終わっているんじゃないかと思う。 そんなぎりぎりをやってしまうのがわたしらしく、2022らしかったりする。 たとえ終わりと始まりを迎えて…

内藤 奈美
1年前
2

詩 『浮く耳』 (2022)

浮く耳 なんでもないからここにいたんです。 痛いのは耳 冷たい夜気 スピーカーから流れる 電子音のノイズ 電流が乱れると音量が振れるの まるで心霊現象 みたいに。 驚か…

内藤 奈美
1年前

詩 『巡、』 (2022)

巡、 それだから眠れなくて書き記す、ぼやけた思考が巡回している、きみはここにいた、その確らしさを求める数式には出会えなくて、「これは証明の問題ではありません」 …

内藤 奈美
1年前
6

雑記20221223

選ぶこと、選ばれること。 「誰かと争うことを運命づけられた場所を持てなかったから、わたしたちは呼吸困難だ」 以前、作品の中でこう書いたことがある。けれどそういう…

内藤 奈美
1年前
3

詩 『カウント零』 (2017)

カウント零 はたはたと 風を鳴らして鳥は去る 窓枠の形に切り取られた空 いくつかの影を追う、 二秒 ひらひらと 手を振り別れる 視界から消えたわたしが あの子の手元の…

内藤 奈美
1年前
1

雑記20221213

気のおけない友人と話をする。テキストが伝えるものより多くが伝わる、声というものの力を信じられる瞬間。見えなくても表情が乗る。トーンがある。躊躇いがある。間がある…

内藤 奈美
1年前
1

やるせないという言葉がとてもきれいに思えるほどの、どろりとした質感の澱が溜まっていく。あなたがわたしを知らなくて良かったと思うよ、きみがわたしを知っていてくれてごめん、汚れていたってもう構わない、白い夜、が、侵入して擽る、床下の古びた骨は、いつまでも軋んでいる。

内藤 奈美
1年前
1

雑記20221207

日付は越えているけれどまだ寝ていないからきっとセーフだ、なんて思っている。 夜はわたしに、わたしの言葉を連れてくる。渦巻く思考の内側で行き場をなくすのはいつも、…

内藤 奈美
1年前
3
街の本屋さん

街の本屋さん

用事のついでに家から一番近い商店街に足を運んだ。商店街、と言えるほどの規模があるかというとそうでもなくて、控えめなスーパー、最近オープンしたマツキヨ、その周囲にぽつぽつと点在する、美容室、和菓子屋、精肉店、小さな食堂、メインの通りを少し逸れたら、時代を生き残った銭湯、などなど。

その中にいかにも「街の本屋さん」という構えの本屋さんを見つけて、ああそう言えばここに本屋さんがあったなと、久しぶりにそ

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雑記20230321

通り過ぎたものとは、しっかりと決別するべきだ、と思った。幻想を回顧するのは、個人の中でおこなう分には構わない。ただ、自らが積み上げたものは、もうそこにはないと見るべきだ。何においても一生勉強で、やってきたことは過ぎ去った瞬間に、もう存在しないものと思い、また次の学びへ向かう。そうしなければ、老害となるんだろう。年を重ねるということは、経験を積むということは、そういうことになりかねない。

踊りにお

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詩 『可視光線』 (2022)

可視光線

その空は青いのか。

半年ぶりに休みが取れた日曜日
地球はどこまでも平らかで、
球体、ということを忘れさせる。
公園のベンチできみを見ていた、
それは一種のメロウな呪いで
錯覚という幻影の中で
眠らない夢を抱いている、
体はいつも正直だから
きみに嘘は吐けなかった、
 真摯で陳腐な文字が遠くで
       私を否定している、
きみはいつも柔和に笑って
足元の土を指先で突く、
凸凹なの

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わかってほしいがわからない

わかってほしいがわからない

ど直球に書くと、察するという文化が苦手だ。

正確には「言わなくてもわかるでしょ」という空気に対応することが。

幼い頃、というよりもわたしは根本的に、今はステージに立っているだなんて一体どういうことですか、と自分に問いたいくらい引っ込み思案だった。

もはやどの口が言っているのかとも思うが、目立ちたくないし、人前で無駄に緊張するし(それは今でも変わらない)、人の顔色ばかり伺っているような子供だっ

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夜と負の妄想と、かつてのマウントみたいなもの

夜と負の妄想と、かつてのマウントみたいなもの

何にも満たされない夜っていうのがある。

決して満たされない状況とは言いきれない、恵まれたところもきちんとあるという自覚はあるのに、足りないものにばかり目を向けてしまう不毛な一日がある。

やることをしっかりやって、明るい明日と未来のために踏み出して、過去なんてなかったことにするみたいに駆け出そうよ、という自分で肥大化させた概念に責められて、勝手にもやもやする。

そう。誰のせいでもなく、勝手にだ

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詩 『星の街』 (2023) 【朗読あり】

星の街

繁華街のぎらぎらしたネオンも昼間は身を隠しているから、雑踏の只中でもどこか心許なく、そうして星を待つのがわたしたちだ。地上に生えた、めらめらした揺らぎは太陽の下で皮膚の内側に宿ります、浸潤して、血管を巡って、排気ガスを吐くようにやがては人から人へ循環する、触れ合った肩だって冷たい、かもしれないので、不純物を箱に詰めた祝福の、呪い、それが、てらてらとかがやいて見えるのは色眼鏡のお陰でした、

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詩 『雨の降る部屋』 (2020)

雨の降る部屋

猥雑なテレビも部屋の明かりも消すと、冷蔵庫の低い唸りと時計の針だけが音を支配する、誰かを傷つけてしまった夕暮れ、嘲笑うように雨は降り出し、傘を持たないぼくの上着に浸水する準備をさせた、数刻前のあの水滴が滲み出して、今さらのように足下には水溜りができている。
長い長いセンテンスを振り返れば、なぜ、も、どうして、もそこにあるのに、知らない振りをするから日々に自分が溶けていく、ぼくにはも

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詩 『夜間高速、疾るうたかた (リーディングver.)』 (2017) 【動画あり】

夜間高速、疾るうたかた

葉脈に水を通すように
侵食、這いつづけ
温度を運ぶ
(或いは運ばない)
ひかりの流線は
都市の青い血管
つめたさが肌を刺し
神経は撫でつけられ
絶え間なく 伝達を繰り返す

埋まらない隙間
記憶の距離に数値はなく
(交通情報をお伝えいたします)
抑制を効かせた感情
誰でもない何かに向かい
車体は、無機質に滑る

手をのばした
指先の 沸騰した黒い
深いアスファルト、
駆け

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さよなら、2022。

さよなら、2022。

これを書き終わる頃には2022が終わっているんじゃないかと思う。

そんなぎりぎりをやってしまうのがわたしらしく、2022らしかったりする。

たとえ終わりと始まりを迎えていたとしても、ありなんじゃないかなってタイトルだよねと自分をほんのりと誤魔化しつつ、励ましつつ。

冒頭いきなりですが、2022は本当にたくさんのことが起こりました。印象的なものをざっと列挙するとこんな感じ。

・配信、配信、ま

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詩 『浮く耳』 (2022)

浮く耳

なんでもないからここにいたんです。
痛いのは耳
冷たい夜気
スピーカーから流れる
電子音のノイズ
電流が乱れると音量が振れるの
まるで心霊現象
みたいに。
驚かないでください
調光器が不安定なんです
少し不安なだけなんです
安定を切り離したら
定まらなくなっただけなんです
あなた、
どこに
いたんですか。

だからね、
なんでもないからここにいたんです
意味が必要だったんですか
意義が求

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詩 『巡、』 (2022)

巡、

それだから眠れなくて書き記す、ぼやけた思考が巡回している、きみはここにいた、その確らしさを求める数式には出会えなくて、「これは証明の問題ではありません」 言葉という記号すらも解体してしまいたい、表音の、裏側に、表意、憑依、されてしまった意図が、この文字列の表皮に爪を立てて、掻きむしる、快感と自責は隣り合わせだ、いつだって四隅を埋められなくて、ぱたぱたと真っ黒に染まってゆく盤面、ただ、こうし

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雑記20221223

選ぶこと、選ばれること。

「誰かと争うことを運命づけられた場所を持てなかったから、わたしたちは呼吸困難だ」

以前、作品の中でこう書いたことがある。けれどそういう場所を持てても持てなくても、ときにわたしたちは呼吸困難に陥りそうになる。呼吸を忘れそうになって酸素不足でくらくらしているのが今だとしたら、どちらに行っても右往左往、どうしようもない〝ないものねだり〟だ。葛藤のすえに導く答えがわたしの存在

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詩 『カウント零』 (2017)

カウント零

はたはたと
風を鳴らして鳥は去る
窓枠の形に切り取られた空
いくつかの影を追う、

二秒

ひらひらと
手を振り別れる
視界から消えたわたしが
あの子の手元のスマホ画面に
存在を忘れられるまで、

一秒

古いレコードの針が
刻まれた溝を撫でなかった
黒い刻印に封じ込められたままの、

零秒。

塗り替えられていく
再開発の駅前に
横たわっていたあのひとは
今はもう、
いない

消え

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雑記20221213

気のおけない友人と話をする。テキストが伝えるものより多くが伝わる、声というものの力を信じられる瞬間。見えなくても表情が乗る。トーンがある。躊躇いがある。間がある。スピード、感情、即興的な言葉の強さ、弱さ。そこにひとがある、ひとがいる。

テキストとしての詩の役割はまた別にあると思っている。伝えない選択だってあるから。いわゆるメッセージ性のようなものを、わたしは本来それほど入れたいと思っていなくて、

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やるせないという言葉がとてもきれいに思えるほどの、どろりとした質感の澱が溜まっていく。あなたがわたしを知らなくて良かったと思うよ、きみがわたしを知っていてくれてごめん、汚れていたってもう構わない、白い夜、が、侵入して擽る、床下の古びた骨は、いつまでも軋んでいる。

雑記20221207

日付は越えているけれどまだ寝ていないからきっとセーフだ、なんて思っている。

夜はわたしに、わたしの言葉を連れてくる。渦巻く思考の内側で行き場をなくすのはいつも、文字になって表出するものとしての言葉ではなくて、きっと心のうちに横たわるどうしても変えられないもの、それは多くのとき怒りや悲しみ、どうしようもない思いだ。

時おり詩として変換されるものは、まっすぐな思いを描かない。性格なのかもしれないし

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