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【介護保険制度】区分支給限度基準額とは【仕組みを図解】

この記事は3,827文字あります。
今回は、「区分支給限度基準額」を誰にでもわかるように説明する試みです。
区分支給限度基準額とは、介護保険制度における、1ヶ月あたりの保険が適用できる利用上限額のことを指します。
この限度額の範囲内であれば、介護保険から給付を受けられ、利用者の自己負担額は所得に応じて1~3割で済むことになります。


区分支給限度基準額

「区分支給限度基準額」は、要支援・要介護の各区分ごとに設定されています

区分支給限度基準額は、介護度(区分)が上がるほど高くなる。
下になるほど介護度が高い重度な状態=必要とする介護サービスが多い。
要支援1 : 5,032単位
要支援2 : 10,531単位
要介護1 : 16,765単位
要介護2 : 19,705単位
要介護3 : 27,048単位
要介護4 : 30,938単位
要介護5 : 36,217単位

区分支給限度基準額(2024年1月29日現在)

なお、区分支給限度基準額は、あくまでも介護保険が適用できる利用上限額であり、利用者が必要なサービスは、区分支給限度額を超えて算定することができます。
もちろん超過分は全額実費です。
以下がイメージ図です。

介護保険サービスを水に例えると
©MinoruMatsuoka

基準値を「円」ではなく、「単位」で設定する理由は過去の記事で詳しく説明しています。

区分支給限度基準額に含まれるサービスは、似たような要素をもっています。
例えば、訪問介護、訪問入浴介護、通所介護、通所リハビリテーションは、いずれも利用者の日常生活上の介護や機能訓練を行うサービスであり、相互に代替性があると考えられるため、同一の区分に分類され、区分支給限度基準額が適用されます。

しかし、支給限度基準額が設定されないサービスというのもあります。
他の代替する介護サービスが無いため、他のサービスとの組み合わせは前提としておらず、上限なく利用できるものでもないので支給限度基準額を定める必要がありません。
それには次のようなものがあります。

  • 居宅介護支援

  • 居宅療養管理指導

  • 施設サービス(短期利用を除く)

  • 居住系サービス(短期利用を除く)

  • 加算

居宅介護支援

居宅介護支援は、介護支援専門員(通称:ケアマネジャー)が利用者の状況やニーズに応じて、必要な介護サービスの種類や内容を検討し、利用計画(通称:ケアプラン)を作成するサービスです。
また、利用者が適切に介護サービスを利用できるよう、サービス利用の調整や情報提供等を行うサービスでもあります。
このように、居宅介護支援は、他の介護サービスと相互に代替性がないサービスです。
そのため、区分支給限度基準額に含めることが適切ではないと考えられています。
具体的には以下のような業務が含まれます。

  • 利用者の心身の状況や生活状況等の把握

  • 介護サービスの利用計画の作成

  • 介護サービスの利用調整

  • 介護サービスの利用状況の確認

  • 介護サービスの利用に関する情報提供

また、居宅介護支援は、利用者の自立を支援する重要な役割を担っているため、報酬の全額が介護給付で支給され、利用者の自己負担割合はありません。
利用者に負担を課すことが利用の抑制に繋がり、利用者の自立支援を阻害する可能性があると考えられているのがその理由です。

居宅療養管理指導

居宅療養管理指導は、利用者の療養上の管理及び指導を行うサービスであり、訪問介護や通所介護等とは目的や提供内容が異なるため、区分支給限度基準額とは別の区分に分類されています。
医師、歯科医師、薬剤師、看護職員、歯科衛生士又は管理栄養士が、通院が困難な利用者に対し、居宅を訪問して心身の状況や置かれている環境等を把握し、療養上の管理及び指導を行うことにより、その人に合った介護プランの作成や見直しを支援する介護給付のサービスです。
具体的な内容としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 利用者の心身の状況や置かれている環境等の把握

  • 療養上の管理及び指導

  • 利用者や家族等への情報提供及び相談支援

職種などによって1か月の提供回数の上限と1回あたりの単位数が定められているので、1か月の最大単位数が自動的に決まってきます。

施設系サービス(短期利用を除く)

施設系サービスは、利用者の居宅ではなく、施設内で24時間365日、生活介護や看護を提供するサービスです。
そのため、利用者の状況やニーズに応じて、柔軟な提供が求められる区分支給限度基準額対象の介護サービスとは、目的や提供内容が大きく異なります。
以下のようなものがあります。

  • 介護老人福祉施設(通称:特別養護老人ホーム、特養)

  • 介護老人保健施設(通称:老健)

  • 介護医療院

  • 介護療養型医療施設

また、施設系サービスでは、要介護度別に1日あたりの単位数が定められています。
そのため、1か月間利用した場合、要介護度別に◯◯単位×30日といった計算によって利用額が決まるので、支給限度基準額を定める必要がありません。

居住系サービス(短期利用を除く)

居住系サービスも施設系サービスと同様の考え方になります。
以下のようなものがあります。

  • 認知症対応型共同生活介護(グループホーム)

  • 特定施設入居者生活介護(介護付有料老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホームなど)

施設系、居住系サービスのどちらを利用していても、区分支給限度基準額の対象となるサービスの算定ができないルールがあります。
つまり、施設に入居している時は、外部の介護サービスに対して介護給付を受ける事ができず、全額を自己負担する必要があります。
例を上げると、介護付き有料老人ホームに入居している時は、通所介護(デイサービス)に通う事や、福祉用具(介護ベッドや車いす等)のレンタルに介護保険は適用できず、どうしても利用したい場合は全額実費となります。

加算

厳密に言うと介護サービスの類ではありませんが、介護事業所のサービスの質の向上に対する取り組みや、利用者の状況に合わせて介護事業所が適正な報酬が得られるように、通常の介護報酬に上乗せされる報酬として各種の加算が設けられています。
加算は、大きく分けて以下の2種類に分けられます。

  • サービス内容に応じた加算

  • 利用者の状況に応じた加算

サービス内容に応じた加算とは、介護サービスの内容が通常よりも充実している場合に、上乗せされる報酬のことです。
例えば、国家資格(介護福祉士)保有者や、経験年数が長い職員の比率が多い事業者に対する「サービス体制強化加算」や、認知症の利用者が規定の比率以上利用していることに対する「認知症対応型加算」などがこれに該当します。

利用者の状況に応じた加算とは、利用者の状況が通常よりも困難である場合に、上乗せされる報酬のことです。
例えば、重度の要介護者に対する「重度要介護者加算」や、夜間帯の介護を必要とする利用者に対する「夜間帯加算」、体格の大きな利用者に介護職員を増やして対応する「2人体制加算」などがこれに該当します。

加算を飲料に例えると
©MinoruMatsuoka

加算は区分支給限度基準額には含めませんが、算定するとそれに応じて利用者の自己負担額もアップします。
例えば、20%の加算を算定している事業所の介護サービスを利用すると次のようになります。

【モデルケース】
要介護5の区分支給限度基準額 : 36,217単位
 (1ヶ月間に限度まで利用したと仮定)
自己負担割合:1割
利用する介護サービス事業者の加算体制:20%
※利用する介護サービス単価は1単位10円とする
※加算は端数を四捨五入、単位×単価は端数を切り捨て

((36,217単位 )+(36,217単位 × 20%)) × 10円
=事業所の介護サービス報酬の総額:434,600円
=利用者負担額は上記の1割:43,460円

まとめ

介護保険の被保険者が利用できる介護サービスの単位数と単位単価を組み合わせて算定される、1ヶ月あたりの利用上限額が区分支給限度基準額であり、介護サービスの種類ごとの相互の代替性等の観点から、複数のサービスを一定に区分し、その区分ごとに厚生労働大臣が定めています。

介護サービス利用者は、それぞれの介護度ごとにコップの総量(区分支給限度基準額)が決まっており、各介護事業所はコップに注いだ飲料(介護サービス)の量によって売上(介護報酬)が決まります。
「介護施設」に入居している方は関係ありませんが、見方によっては要介護者のコップを巡って介護サービス事業所が熾烈な争奪戦を繰り広げているといえます。

区分支給限度基準額を巡る介護サービス事業者のイメージ

余談ですが、個人的には居宅介護支援(ケアプラン)が全額介護給付費で賄われている事について、デメリットの方が大きいと考えています。
通常の介護サービスは利用者負担があるため、利用者は「お金を払うのであれば良いサービスを適正価格で受けたい」という心理が働きますが、ケアプランは無料のためケアマネジャー間の競争原理が働きません。
さらに、給付額が決まっており、担当できる利用者数にも限界があるため、ケアプラン事業のみの個人事業主や零細企業は、売上を伸ばすことが物理的に出来ず、介護事業はビジネスであるという当たり前の感覚が養われにくいので、顧客に寄り過ぎた考えを持つケアマネジャーが多いのも事実です。
ケアプランが有料化された場合、相乗効果として、社会問題化している介護給付そのものの抑制にも繋がるのではないでしょうか。

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