読了したのは1年半ほど前なのだが、何度も読み返していながら書評を残していなかった。
あまりにも有名な松田聖子«Sweet Memories»(作曲編曲)、八神純子『みずいろの雨』、山口百恵『謝肉祭』、岸田智史『きみの朝』、渡辺美里«My Revolution»、大沢誉志幸『そして僕は途方に暮れる』、小泉今日子『水のルージュ』(以上編曲)など数多くのヒット曲に携わり、我が国にプロデューサシステムが確立されるよりはるか前に実質プロデューサを務めてきたといえ、我が国の音楽シーンに多大な影響を及ぼしているにも関わらず、その存在が大きくは知られていない大村の足跡を、関係者のインタビューを軸に丹念に追う。
筆者たちは、大村が平成8年(1996)に亡くなって時間も経っていることから、通史的な本にならざるを得ないと考えており、高校時代~ネム音楽院(現在のヤマハ音楽院)~上京してすぐさまヒットメーカーになってゆく過程が描かれてはいる。
が、ゆかりのある人たちに取材を申し入れてみたところ「大村さんのためなら」とインタビュー受諾の返事がドシドシ舞い込み、関係者の思い出から故人の人柄や仕事を追える一冊になっている。
松田聖子作品を通じて、いわば黄金時代を築いた松本隆には、筆者がダメモトで取材を打診したとあるが、全面協力でロング・インタビューに応じてくれ、大村との合作«Sweet Memories»の詞の直筆原稿(英語パートの元となった日本語詞入り!)の写真までもが収録されている。
そして肝心の松田聖子自身のインタビューは、書面での回答であったらしく、関わり合いの深さに較べてあっさりとした内容になっているが、故人との思い出は人前でひけらかすものではないという彼女なりの美学なのかも知れないと思えた。
本書には出てこないが、親と夜中に喧嘩して家を出た聖子が当てもなく向かった先が大村のアパートだったとか、深夜のレコーディング中に煮詰まった聖子を見てとった大村がドライブに連れ出して、ふたりでマクドナルドを食べに行ったなどといった挿話はとっても微笑ましいし、アイドルというお化粧をせずに話の出来る、同じ福岡出身の兄貴分の存在が、彼女にとってどれほどの支えになっていただろうか、と思ってしまう。
1990年代半ば、小室哲哉・小林武史のダブルTKがいわゆるプロデューサとして名を上げてきた時に、フリーランスからレコード会社専属のプロデューサに転身して新たな一歩を踏み出そうとしていた頃、大村は病に倒れる…… あまり世間に馴染みのない病気であったらしく、ある種の大人の事情があるのか最晩年の様子は本書でもあまり詳らかにされてはいないのだが、それは大村の残した音楽とは無関係といえばその通りでもある。
それにしても、享年46……
大村は松任谷正隆と同年なので、もっともっと、活躍しつづけるはずだった……
おしまいに、僕の世代にガッツリ関わってくる以下2名のインタビューの一部を引用しておきたい: