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『痛みと悼み』 あとがき
最後に、お礼を述べたいと思います。
・作家檀一雄氏とご家族
・NHK ETV特集「“孤独死”を越えて」(初回放送日: 2021年6月19日)
・NHK ハートネットTV「“生きる”ことを教わった~ホームレス支援の若者たち~」(初回放送 2021年9月7日)
あなたの誠実さが、どの宗教にも属さない私に、この物語を書く何かを与えて下さいました。
つらいこと、なっとくできないこと、いきにくいことのある
『痛みと悼み』 四十四
死者には、何をしてあげることもできない。
生きている者の、偽りに満ちた身勝手な自己満足かも知れない。
でも、と初めて思う。
たとえ自己満足でも、それが偽りだとしても、死者は自分を弔うことができないように、弔いと悼みは、生きている者のためなのかもしれない。
そして、めぐむの仕事も、そんな弔いと悼みなのかも知れない。
生きている残された者の、死者への捧げ物と死者を死者として終わらせないため
『痛みと悼み』 四十三
この苦しみを終わりにしたい。
母に先を越された今、めぐむの願いは叶えられない。
復讐。
知られないまま、完全に世の中から姿を消して、それを悟られないように一人暗い世界で暗く微笑む自分を夢見ていた。
もう叶えられない。
終わりにしたい。
のたうち回りながら白い腹を見せる何十ものヘビから、降り続く雨で薄く光る堤防に空ろな視線をやる。
誰もいない。
頭に過ぎる甘美な誘惑を感じる。
こ
『痛みと悼み』 四十二
木箱の中で動かないようにきっちりと中心に陶器の壺が入っている。ようやく暑さが緩み始めた夏とは別の冷たい死の世界。季節を無視する木箱の中立的な温度と手触りに、母の死との奇妙な違和感を感じて混乱する。
鶴見の警察署で、太田さんが、優しくめぐむに言う。
「埋葬許可証はここに入っているから、埋葬するときはこの書類を一緒に渡してね。」
大田さんが小さな封筒に入った薄い書類を骨壷と一緒に木箱に入れてくれる。