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【読書ノート】57 「情報生産者になる」 上野千鶴子(著)

著者は社会学者で東京大学名誉教授。フェミニズムの第一人者で多くの著書がある。本書は大学・大学院における論文の書き方を指南したもので、情報生産技術、知的生産の教科書とも言えるもので内容は濃い。「問いを立てる」「研究計画」「収集」「分析」「アウトプット」までの一連の過程を順を追って説明しており、どのように研究を進め「情報生産者」になるかを理解することが出来る良書。彼女の大学での講義が質の高いものであるかが窺い知れる内容。文系の大学生大学院生だけでなくアウトプットを行う全ての人にお勧め。

【目次】
1 情報生産の前に
2 海図となる計画をつくる
3 理論も方法も使い方次第
4 情報を収集し分析する
5 アウトプットする
6 読者に届ける


以下、気になった個所をいくつか抜粋:

アウトプットには魔力があります。一度アウトプットもしたものを再び書き直すことは極めて難しく、早めに自分の研究成果をアウトプットすることには、正熟を待たずに果実を収穫するようなリスクが伴います。刊行のチャンスさえあればあるほど、逆に成果物は未熟なまま産み落とされがちになります。概念をconceptと呼ぶのは最もなこと。conceptの語言はconceive(孕む)から来ていますし、conceptionとは、ずばり受胎を指します。なぜならアイディアというものはふところに抱いて温めながら、熟すの待つものだからです。私は出版の機会に恵まれましたが、今から振り返って見ても悔いが残るのは、大きく育つはずだったアイディアのいくつかを、未熟児のまま埋めようとしてしまったことでした。未熟児だって五臓六腑が揃った完成品。 一旦早産してしまえば、人間の子供とは違って、それ以上多くならないのが研究です。だからこそ、孕んで熟すのを待つ・・・ことも、研究には必要なのです。

348-349

この本には持ち札の8割程度を使って、あと残りは別の本に取っておこうとせこい考えを持ったり、あまり手のは内を見せると他の同僚にアイディアを盗まれるかもしれないと疑心暗記になったりする若い書き手もいます。 自分の力を出し切らないでセーブすれば、しょせんそこまでの作品にしかなりません。 出し惜しみしないで、その時の力量を全て注ぐことを 恐れてはなりません。そうすることで、さらに次のステップにバージョンアップしていけるんですから。 アイディアの盗まれることを恐れる必要もありません。 理系の研究と違って文系の研究ではどんなアイデアも個性的なもの。そう簡単に他人がまねることはできませんし、アイディアの値打ちが評価されて公共財になればそれこそ名誉というものではありませんか。どんな研究もその時その時の中間報告ですが、そのときそのときで全力を出し切ることが、次のステップへの推力になります。

362

若い器用な書き手に伝える警告はもうひとつ。刊行のチャンスがあればあるほど、才能が消費されて使い捨てられるようということ。出版業界にとって書き手は消耗品の1つ。 いくらでも変わりがいます。私は辣腕編集者を「ハイエナ」と呼んでいます。もちろん、これは私から彼に対する最上級の褒め言葉ですが、やわな書き手は彼らに食い尽くされるはめになります。

366

最新のテキストによれば、テキストは生産-流通-消費の過程を経て、完結します。読者があなたのテキストを消費する過程で、初めてテキストは再生産されます。読まれないテストはデッドストックになるだけです。

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(2024年2月21日)


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