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雑文

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主に読書感想文を載せています。ネタバレしない内容を心がけてますが、気にする人は避けてください。批評ではなく、感想文です。
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#読書感想文

カート・ヴォネガット&スザンヌ・マッコーネル 『読者に憐れみを――ヴォネガットが教える「書くことについて」』

カート・ヴォネガット&スザンヌ・マッコーネル 『読者に憐れみを――ヴォネガットが教える「書くことについて」』

★★★★☆

 2022年6月刊行。訳者は金原瑞人さんと石田文子さん。
ヴォネガットの作品といえば早川書房の文庫シリーズですが、短篇集やエッセイなどは各出版社から出ている気がします。その昔、ヴォネガットにハマって順番に読んでいき、読破したあとは短篇集やエッセイ集などを読んだので、訳されたものはほぼすべて読んだと思います。

 今作は、厳密にはヴォネガットの著作ではなく、ヴォネガットの講義を受講した

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ジョン・ケネディ・トゥール 『愚か者同盟』

ジョン・ケネディ・トゥール 『愚か者同盟』

★★★★★

 気がついたら読書感想を投稿するのは2年ぶりです。そのあいだもいろいろ読んではいたのですが、なかなか感想を書いてアップする余裕がありませんでした。
 べつに誰が読むわけでもないのだからいいじゃないか、と思っていたのですが、ときどき思い出したかのように「スキしました」の知らせが届き、読んでくれる人がいるのだなあ、と励まされました。今後はできればこまめに投稿していきたいです。
 そして、

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村上春樹 『一人称単数』

村上春樹 『一人称単数』



★★★★☆

 2020年7月に刊行された村上春樹の6年ぶりの短篇集。7作品が文學界に掲載され、表題作の『一人称単数』が書き下ろしです。

 なんとなく、発売後すぐに読みたい気にならなかったので先延ばしにしていたのですが、なんとなく最近読みました。期待値が高くなかったせいか、いろいろ感心してしまった一冊です。

 まず、何に感心したかというと、どの短篇も実に村上春樹らしい作品になっていることで

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リディア・デイヴィス 『ほとんど記憶のない女』

リディア・デイヴィス 『ほとんど記憶のない女』



★★★☆☆

 2005年刊行の本書は、リディア・デイヴィスの5冊目の短篇集だが、訳書としては初めてになるらしい。訳者は岸本佐知子。アメリカでは作家としてよりもフランス文学の翻訳家として名が知れていて、フーコー、ブランショ、サルトル、プルーストなどを手がけているそうだ。手がけた著者の名前を見るだけでも、かなりしっかりとした文芸翻訳家であることがうかがえる。

 僕はその名をポール・オースターの

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多和田葉子 『献灯使』

多和田葉子 『献灯使』



★★★★☆

 2014年に刊行され、2018年に英訳版が全米図書賞の翻訳部門を受賞した本作。僕は2017年に刊行された文庫本で読みました。

 なんとなく手に取って読んでみたのですが、数ページ読んだだけで衝撃を受けました。言葉の選択と紡ぎ方の独自性、つまりは文体のオリジナリティにガツンとやられてしまったわけです。僕があまり日本人作家の本を読んでいないせいかもしれませんが、こんな文体の小説は読

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カーソン・マッカラーズ 『心は孤独な狩人』

カーソン・マッカラーズ 『心は孤独な狩人』



★★★★☆

 2020年8月に新訳として刊行された本書。訳者は村上春樹。原書が出たのは1940年なので、約80年前です。
 訳者あとがきにも書いてありますが、これがマッカラーズの処女作というのだから驚きです。23歳の新人作家がこの重厚な物語を書いたというのは、なんというか、信じがたいです。とんでもない才能というのでしょうか、ただただ脱帽です。

 聾唖の男、十代の少女、カフェの店主、流れ者の

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吉本ばなな 『「違うこと」をしないこと』



★★☆☆☆

 2018年10月刊行の対談&エッセイ&お悩み相談本です。たまたまもらったので読んだ次第です。

 吉本ばななの小説は昔まとめて何冊か読みました。直近だと『キッチン』を再読した記憶があります。平易だけれど、フックのある文体、それを支える独自の価値観をしっかり感じさせます。それから、やさしい。これくらいやさしい小説を書く人ってそれほどいない気がします。

 小説のことはさておき本書

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内田樹 『そのうちなんとかなるだろう』



★★★★★

 今年の6月に出た内田樹氏の自叙伝です。

 共著も含めると、これまでに100冊(200冊?)以上の著書を出している内田樹さんですが、おそらく自伝的な本はこれが初めてでしょう。
 これまで僕も氏の著書を何十冊と読んできましたが——そして、ブログもたくさん拝読してますが——、時系列に沿ってご自身の人生について語っているものは寡聞にして知りません(各エピソードは色々なところで語られて

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橘玲 『働き方2.0 VS 4.0』



★★★★☆

 橘玲氏の本ばかり紹介しているような気がしますね。贔屓の引き倒しにならなければよいのですが。
 今年の4月に出版された本書では、「働き方」というテーマを軸にして、日本社会の特異性や世界の潮流についての話が展開されています。

 ところで、「働き方2.0とか4.0って何?」と思われる方も多いでしょう。本書では以下のように定義されています。

 働き方1.0:年功序列・終身雇用の日本

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安西徹雄 『英文翻訳術』



★★★★☆

 1995年にちくま学芸文庫から出た本書は2016年時点で第25刷発行とロングセラーです。前回の『英文の読み方』以上に長く読み継がれていますね(なんと20年以上!)。

 章ごとに英文を日本語に直す(つまり翻訳する)上で引っかかるところを挙げて、その対処法を指南するという構成になっている本書。一文からまとまった分量の文章まで、様々な長さの英文で演習ができます。その点では実にテクニ

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行方昭夫 『英文の読み方』



★★★★☆

 2007年に岩波新書から出版された本書は2017年8月の時点で10刷となっているので、10年以上読み継がれているということになります。これだけでも本書が名著であることがわかると思います。
 著者の行方氏は東大名誉教授で、サムセット・モームなどを訳されています。モームだけを教材に用いた翻訳本も何冊か出されているようです。

 本書では、英文和訳から翻訳へと至る筋道を、5つのステッ

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橘玲 『朝日ぎらい』

★★★☆☆

 書名とは裏腹に、朝日新書から今年出版された橘玲の新書です(もっとも、そこにこそ本書の意義があると書いてありますが)。
 日本の「リベラル」と世界基準のリベラリズムを比較することで、日本の思想的な問題点や特徴を洗い出しています。

 橘玲の著書はどれも基本にあるのが「エビデンス・ベースド」です。主観と客観(事実と意見)をごっちゃにしない、統計的・科学的な根拠を示す、といったシンプルな

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エルモア・レナード 『オンブレ』

★★★☆☆

 今年の2月に新訳として復刊されたレナードの初期西部劇作品。『三時十分発ユマ行き』も同時収録。訳者は村上春樹。
 いわゆる積ん読状態だったのですが、ようやく読みました。

 語り手の『私』は特にどうということもない人物で、中心となっているのは『オンブレ』の異名を持つジョン・ラッセルです(オンブレとはスペイン語で「男」という意味)。このクールで、独自の哲学を持つ男を中心にして話は進みま

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エドワード・ゴーリー 『失敬な招喚』

★★★★☆

 せっかくなので、先々週に引き続き、先日出たばかりのエドワード・ゴーリーの新刊をご紹介します。訳者はもちろん柴田元幸。

 原題は『THE Disrespectful Summons』。直訳すると「失礼な呼び出し」といった意味です。悪魔がやって来る話なので、上記のようなタイトルになったのでしょう。的確です。

 ちなみに、裁判などで証人を呼ぶのは『召喚』、悪魔を呼び出すのは『招喚』の

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