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ぼくらは食べて生きていく

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食べ物、料理、お店……食事に関するなんでもかんでも、生活や人生と絡めてたり絡めてなかったりしつつ語ります。つまりなんでもあり。
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記事一覧

休日の朝は幸せにかじりつく

休日の朝は幸せにかじりつく

まだ重いまぶたを必死に見開きながら、両面にバターを塗った、ライ麦入りの食パン。それを、四角いホットサンドメーカーにセットする。

そこに塗るのは、ちょっと奮発したいつもよりお高めのクリームチーズ。もったいないから、長く楽しめるようにちょっとだけ……いやいや、せっかくだからむしろ、どーんとたっぷりと。それから、切ったアボカドを重ねて、更にはほぐした鮭をまんべんなく載せる。

白と、緑と、オレンジ色が

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辛くないスープカレーが辛くなった話

辛くないスープカレーが辛くなった話

「もうママ、怒ってないの?」
 冷めきったスープカレーを前に、子がにこにこしながら訊いてくる。怒ってないよ別に、と答えると、「良かったぁ」と嬉しそうだ。

 その笑顔に反してわたしの心は、重くどんよりと暗い。そのくせ、もっと奥底がじりじりと焼けるようで、口の端を持ち上げることも億劫で。

 ――家族内で、ちょっとしたいさかいがあった。ちょっとした、というには強いもので、まぁ、とにかく喧嘩になった。

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アンパンマンの不完全な正義に愛を込めて

アンパンマンの不完全な正義に愛を込めて

 パンの芳ばしい小麦の風味と、ほんのりとしたしょっぱさと、甘味が好きだ。特にハード系が大好きで、ごろりとしたチーズにとろりとシロップがかかっていたりすると、最高に幸せになれる。ベーグルも良い。弾力の強い生地に、スモークサーモンやシャキッとしたレタス、酸味のある人参のラペがはさまっているサンドは、ボリュームも見た目も申し分ない。

 ところが、まだ幼い我が家の子どもは、甘いソフトなパンが好きだ。特に

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手作りクッキーと自己肯定感

手作りクッキーと自己肯定感

「チョコレート、ぱきぱきしなきゃね」
 二歳の子が、楽しげに笑って言う。
「たまごと、こなと、ぐるぐるするのね」
 そうだね、と頷くと、子はますます嬉しそうだ。

 チョコがたっぷりとはいった、ザクザクっとした食感の、カントリークッキー。口の中でほろっと崩れて、甘味と幸福感がいっぱいに広がる。

 お店で買ったそれを一枚食べた子は、大変気に入ったようで。「たくさん食べたいのー!」と騒ぎはじめた。よ

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甘すぎるプリン

甘すぎるプリン

 固いプリン。柔らかいプリン。キャラメルソースの絡むプリン。ミルクの味が濃いプリン。
生クリームをのっけて。ぷっちんとお皿に出して。果物と一緒にパフェとして。餡こを添えて和洋折衷に。なにもせずにそのままでも。

 プリン。それは愛しさを形にした甘味。

※※※

 先日、二歳の子どもが風邪で熱を出した。もしかしたら、人生初の高熱だったかもしれない。
 病院に連れていったら喉がひどく赤いということで

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梅雨の日のパン作り

梅雨の日のパン作り

 焼きたてのそれは、触れるとふかりとして、まるで子どもの頃に夢想したような――雲をつかんだらこんなふうだろうか、というような感触で。つぶれないようにおそるおそるちぎってみると、思いの外に弾力のある手応えがかえってくる。
 さぁ、なにをつけて食べようか。苺のジャムか、こってりとしたピーナツバターか。それともミルクの風味がするシンプルなバター? ハムに、卵に、アボカドに……なんなら納豆なんて変わりダネ

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冷めない温もり~鍋~

冷めない温もり~鍋~

ぐつりぐつりと煮込まれまして。
人参、大根、白菜、きのこ、豚肉と、彩りきれいに湯気も立つ。
ほんのり色づくスープをこくんと飲めば、野菜と肉の旨味がぐっと感じられる。
忘れてはいけません、にんにくと生姜。味わいを更に深めます。
白い湯気を吸い込んで。さぁ、手を合わせていただきます。

※※※

寒さもぐぐっと深まりました。
部屋にいるだけで白い息。布団に潜ってもなかなか温まらない。
そんな日はやはり

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ふわとろの黄色い幸せ~オムライス~

ふわとろの黄色い幸せ~オムライス~

バターたっぷりのチキンライスに、とろりと黄色い卵を被せましょう。赤いケチャップで描くのはにっこり笑顔。スプーンですくって一口ぱくり。トマトの酸味と、卵の甘さが口のなかでほろりと解けて、顔もにっこり笑っちゃう。

※※※

上の子どもの語彙が増えてきたと同時に、大人の言動をすぐに真似るようになってきました。
前はイタズラしたときに「こら、おばか!」とついつい言ってしまっていた私ですが、これは良くない

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甘い誘惑魅惑の冷たき塔~パフェ~

甘い誘惑魅惑の冷たき塔~パフェ~

赤、白、黄、赤、白、黄。層になった器。そこに更に盛られたアイスクリームが、そっと自己主張している。だがそれを掻き消すように、ずんと重なった白い生クリーム。その頂点では、艶やかな苺が燦然と輝いている。可愛らしくも魅惑的なそれを、スプーンでそっとすくい、口にする。甘く、甘く、ほんのり酸っぱい。てっぺんに鎮座する瑞々しい苺は、もちろん後でのお楽しみだ。

※※※

クーポン万歳。
クーポンがあることで、

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もの悲しさに捕まらないように~ハンバーガー編~

もの悲しさに捕まらないように~ハンバーガー編~

薄い小麦色のバンズに、平たい肉のパテ。申し訳程度に挟まれたピクルスと、やけに存在感のあるトマトソース。それらを一気に頬張る。一つ一つは簡素でも、合わさったそれらは互いの味を引き立て、笑顔を作り出す。

※※※

口の中が絶賛口内炎中です。食べても飲んでもしみるし痛い。あれですかね。乳幼児を育てている人間にとって、顔面を中心にあちこちに生傷が絶えないのはもはや運命なんですかね。不意をついてくる予測不

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いにしえのケーキ

いにしえのケーキ

ふわっとした卵色のスポンジを、まったりとした白いクリームが包む。間にサンドされているのは、甘いクリームと色鮮やかな苺。円状の天辺は、絞って波立たせたクリームで周囲を飾られている。そして、ルビーのような魅力でこちらを誘うのは、間に挟まれたものよりも大振りな苺。チョコレートの丸太で作られた小屋のそばには、甘い笑顔のサンタクロースがちょこんと佇んでいる。

※※※

メリークリスマス!!!昨日はクリスマ

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みんな違ってみんないいんだよカレーは

みんな違ってみんないいんだよカレーは

どろりとしたスープのなかに、ごろりとした野菜。煮込まれ、とろけたじゃがいもを頬張ると、染み込んだスパイスの風味がじわっと口中に溢れる。
にんじんと玉ねぎの甘みと、ぴりっと舌を刺激する辛味とのギャップの味わい。肉の脂と旨味が味に深みを加え、米と食べれば後を引き、スプーンは次の一口をすくう。

なんの料理かお分かりですね。
題名に書いてあるしね。なんなら、写真も貼ってある。
そう、今回のテーマは「カレ

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恋したチーズ

恋したチーズ

カマンベールチーズが好きだ。
表面の白カビと、柔らかく、ねっとりした中心部分。その、層となった部分のギャップが好きだ。
もったりとして濃いその味が好きだ。
ごたくはいらない、とにかく好きだ。

けど、今日語りたいのは違うチーズ。

その名も「モンドールチーズ」。

知ってます? モンドール。
フランスやスイスで、九月から五月までの間にだけ販売される、期間限定のチーズ。
エピセアというもみの木の一種

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みかん

みかん

橙色の厚い皮に、軽く爪を立て裂く。
亀裂から途端に漂ってくる、甘酸っぱい香り。
丁寧に皮を剥き終わると、出てくるのは薄皮に包まれた果肉。白い筋は少し邪魔に感じるが、そこに栄養があると思えば、除いてしまうよりはそのままにするのが良い。
房から外した一粒を口にすれば、ほんの少しの弾力と、それを破ったと同時に口の中に広がる、ほんのりと酸味のある甘さ。

冬の味、みかん。

我が家では、冬に入った途端に大

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