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「いつどこで役に立つか分からない」という言葉
「いつどこで役に立つか分からない」という常套句がある。教養やら学問の価値を説明する時によく使われる決まり文句だ。分野を問わず教育機関への助成金が削られる度にSNSで使われる言葉だが、いかんせん乱用気味の感が否めないので思ったことを手短に書き残しておく。
たとえば古代の哲学って「いつどう役に立つか分からないがいつか役に立つから大切にしよう」の価値観に支えられたものではなかったはず。その当時重要だっ
無数の物語へ──河瀬直美『東京2020オリンピック SIDE : A』
その映画は降りしきる雪の景色から始まる。
皇居の外濠と思しき景色を背景に、季節外れの大雪が咲いたばかりの桜に積み重なる。
古い家庭用ビデオカメラでもなければ、映像は「いつ撮られたものか」は明示しない。2020年3月末に降った「季節外れの雪」と推定されるが、これも数千年の尺度で見るなら、遠い昔から飽きるほど反復されてきた光景だろう。
日本の国花と言われる「桜」が雪の重みに潰されて、そこに日本の
『ブルシット・ジョブ』精読 / 銀行家は「社会的価値」を破壊しているか?
1.はじめに / 『ブルシット・ジョブ』に対する批判の少なさ
コロナ禍のまっただ中、2020年7月に日本の書店に現れたデヴィッド・グレーバー著『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』は、刊行されるやすぐにネットや新聞で続々と話題を呼び、瞬く間に時代を代表する一冊となった。私自身、ネットに溢れる絶賛の声に背中を押される形で本書を買うに至ったが、ネットのレビューを眺めていてその多くが大雑把な
「中流社会」の解体と、社会像の刷新――橋本健二『中流崩壊』書評
象のことを考えるな「象のことを考えるな」の一台詞だけ、クリストファー・ノーランの映画『インセプション』を見てから数年が経った今でも覚えている。言葉が認識を形作り、認識は行動のトリガーになるという心理学的理論の正しさは、この一言を聞いて以来、折々に思い出す。
その意味で、本書は社会や政治というより心理に関する書物なのだろう。
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