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フランスの話

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フランスの都市で見たもの食べたもの感じたことなどをまとめています。
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分岐点といえるほど大それたものではないけれど、人生の選択肢の話。

分岐点といえるほど大それたものではないけれど、人生の選択肢の話。

冬が近づくと街もスーパーマーケットもクリスマス装飾に飾られて、あっという間に年の終わりを感じさせる冬。

あの人生の分岐点で、タイミングで、電車に乗って、あるいは飛行機に乗って、または徒歩であの場所まで行って、あの人たちに会いに行って、もしくは偶然会って。たくさんの選択肢を選び決め覚悟を取ってきたじぶんの、現在の立っている場所をいま振り返って考える。



例えば、「ヴァンショVin chaud

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どれだけ行きたい方向があっても風に乗らなければその場所に向かうことはできないという話

どれだけ行きたい方向があっても風に乗らなければその場所に向かうことはできないという話

フランス生活にもだいたい慣れて友だちもでき、なおかつ仕事もある程度落ち着き始め、ふと「新しいことを全然していないな」「なんだかルーティンだな」と感じるようになったので、がつんと壁を破るようなことを実践してみようと申し込んだウィンドサーフィンのスタージュ(集中レッスン)。

ウィンドサーフィンはフランス語ではPlanche à Voile という。帆のあるボード、という意味だ。日本だと湘南とか逗子・

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たいしたことある日々のこと230628

たいしたことある日々のこと230628

弁護士訪問の日のことである。

その事務所の廊下はまったく電気がついていなかった。探している部屋の扉に書いてある名前すらも携帯電話の光をつけなければわからないくらいだ。わたしたちはもしかすると騙されてしまったのだろうか、そんな不安が頭をよぎる。三階のそのフロアの端から端までを探しても見当たらず、一度地上階に戻る。そして住人だろうか、あるいはその質問をよく受けるのか、学生のような若い男の子が言った。

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たいしたことない日々のこと211116

たいしたことない日々のこと211116

5年以上も前に買って、大事していたカップが今日割れた。

2017年、1度目のフランス留学のときも2020年秋からの2度目の滞在も(長期間で捉えれば2度目といっても差し支えないだろう)ずっとこのひとつだけはスーツケースの中に入れて、必ず毎朝のコーヒーかミントティーを入れて飲んでいた愛用品。

手捻りのような手持ちのやわらかさと、口元にかけてひろがってゆくゆるやかな曲線と、手にもつたびに安心感があっ

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近くにいれば漠然、離れれば輪郭が浮かび上がる。印象派の魔法、モリゾの絵。

近くにいれば漠然、離れれば輪郭が浮かび上がる。印象派の魔法、モリゾの絵。

フランスに来てから「いろんなことがありすぎて」と各方面に言っている。例えば詐欺まがいのトラブルに巻き込まれたり、コロナウィルスの感染者は1日5万人を超えたり、人生で初めて経験する出来事があったり、外出制限が発令されたり、3年前の思い出の延長線をなぞったり。具体的に「いろんなこと」とは一体何なのか、noteでも日記でもいいからどこかできちんと整理をしたい。いったい何に悩んで何に困って、何に苦しんでい

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時を越えた瞬間の記録【アヌシーⅡ】

時を越えた瞬間の記録【アヌシーⅡ】

2017.6.8 France, Annecy

芝生の上にじっと座って、デスペラードというテキーラ風味のビールを飲みながら甘ったるいピスタチオのジェラートを食べ、友人と水色の湖をぼうっと眺めた。手前の道には自転車がさっと通り過ぎた。その次に散歩と途中の高齢男性がゆっくり視界にあらわれた。かとおもえば観光で浮かれている欧米人数名がにぎやかに歩いて、いなくなった後には犬を連れた散歩途中の夫婦がさわや

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時を越えた瞬間の記録【パリ】

時を越えた瞬間の記録【パリ】

2019.10.25 France, Paris

すべての運命は既に決められていて、そこに書かれた内容をひとはなぞるだけ。アラブの世界に「Maktub(マクトゥーブ)=書かれている」という言葉があるように、つまりは覚悟を決める前から物語は始まっていた。2015年に初めて訪れたパリ、右も左もわからない複雑な街でたまたま予約したアパートは、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステラへと向かう経路、レヴ

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なつやすみ旅行のパリから帰ってきました。

なつやすみ旅行のパリから帰ってきました。

遅めのなつやすみで10月下旬のフランスに11日間。その間6人の友人と会い、5種のレストランに行き5箇所のカフェでコーヒーを飲んで、4本の映画を鑑賞、2つの美術館に訪れた。1回目、すなわちはじめてのことは書ききれないほどたくさん。パリ自体は3度目の滞在だった。

滞在先のアパートでは昼食と夕食を3回、友人に作ってもらった。

何もかもが美しい瞬間の連続だった。ふだん日本で、料理も洗濯も出かけるお店を

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巡礼のおもいでとこれから①旅が始まる印。

巡礼のおもいでとこれから①旅が始まる印。

フランス・サンジャンピエドポーからスペイン・サンティアゴデコンポステラの約800kmを歩いたのが2017年8-9月のこと。当時のリアルタイムでは生存報告を兼ねて毎日instagramを更新していた。でも改めてその時に撮影した写真、感じたことなどの記録をせっかくだから残しておきたいとブログに整理していてはや数年が経過...。

書くのに時間がかかるのよねと言い訳もしつつ、それではきちんと思い出を消化

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ワインにあうキッシュはパン屋で【パリ②】

ワインにあうキッシュはパン屋で【パリ②】

パリには沢山のパン屋さんが街中の至るところにあって、バケットひとつにしてもふんわり、もっちり、かりかり、あとは小麦の味がしっかり、なんて多種多様だから、好みの味を見つけるためのパン屋巡りをするのは、(パン好きな人にとっては)とても楽しい。

どこに行っていいかわからない、という人はまずは滞在先のホテルのすぐそばにあるパン屋でもいいし、年に1度発表されるパリで最も美味しいバゲットランキング「La m

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ほろ酔い気分とがっかり感が同時に味わえる【リヨン②】

ほろ酔い気分とがっかり感が同時に味わえる【リヨン②】

徹底的に贅沢をするときは、心地よい空間と体験を満喫するために入念な下調べが必要である。それは海外に限ったはなしではなくて、日本にいても同じ。職場近くでランチをする時も友人とのディナーも納得のいく食事時間を楽しみたいし、食事体験を粗末にするとその代償は自分自身に跳ね返ってくる。もちろん下調べしても、がっかりすることはあるのだが。

いつも利用するフランスのリヨン・サン=テグジュペリ空港。ここでの贅沢

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偉大なるアルプスの恩恵と故郷【アヌシー】

偉大なるアルプスの恩恵と故郷【アヌシー】

「フランスのどの街がおすすめ?やっぱりパリ?」

フランスに行ったことのない友人に尋ねられるたびに、待ってましたといわんばかりに、フランス国内で訪れた都市の記憶を総動員させ、どの情報から伝えようなんて思いつつも一呼吸おいてやっぱり、わたしはこの街を勧めてしまう。オーヴェルニュ・ローヌアルプ地域圏、オートサヴォワ県のアヌシー(Annecy)である。

最初にアヌシーという名前を耳にしたのは、同じロー

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はじまりのマルゼルブとお肉屋さん【パリ】

はじまりのマルゼルブとお肉屋さん【パリ】

パリのマルゼルブ通りは8区と17区をななめに渡っている大きな通りで、高級住宅街や、わりとおしゃれなお店の多いパリの中でも比較的治安の良い(とされる)エリアである。

マルゼルブ駅を出れば目の前にソルボンヌ大学があり、すぐそばにはEcole Normale de Musique de Paris、音楽院があるので建物の前を通りがかるとピアノや楽器の音が、かすかに心地よく聞こえてくる。

近くにはモン

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訪れたことのない街に賭けてみる【リヨン】

訪れたことのない街に賭けてみる【リヨン】

20代後半、ある程度充実した生活は送ったけれどフランスに語学留学をしようと思い立ったのが27歳。社会人としてある程度やりたい仕事ができて、東京のど真ん中に住んで、好きなものを食べたり映画や演劇を見たりとわりと豊かに暮らしていた頃だった。

それでも。

日常生活で、満たされない、何かが足りないと感じる瞬間が度々あった。

当時のわたしはカナダのケベック出身映画監督グザヴィエ・ドランの映画に陶酔し(

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