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新月の檳榔子空

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『長めの日記』 新月の夜、この街はどれくらい深いだろう。住む場所が変わるたび、星の数に目を凝らす。藍を下染めにした、紋付の最高級の黒染め。檳榔子黒。青みを含んだ上品な黒に、高く伸… もっと読む
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記事一覧

蝉

蝉の声を聞いてはっきりと落ち着くようになったのは、この夏のことだ。
山にかこまれた故郷では、騒がしいほどそろって鳴き続ける声と、ジリジリとした暑さの到来は、当たり前にセットでやって来た。
蝉が鳴き出すと無意識のうちに、あぁ梅雨が明けるんだ、と本格的な暑さに身構えたものだ。
これが、東京にきてからなくなっていた。だから夏が来た実感が湧いていなかったのだ。

谷中霊園の並木道。
陽と蔭とのコントラスト

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新幹線に乗ると、きまって途中で Google Maps を開いて、ものすごく速くすすむ私の青いまるを眺める。

母のチョコレート

和紙に、万年筆で、縦書きの日本語をさらさらと書いているときの心地良いこと。ひらがな、カタカナ、漢字、豊かな日本語を身につけられて幸せ。

バレンタインの贈り物に添える一筆箋を書いている。贈り物を届けられる良い機会なので、毎年家族や大切なほんの周りの人にだけ贈っていて、チョコレートとは限らないのだが、今年は美味しいものを見つけたので全員チョコレートだ。

自分チョコは買わない主義なのだが、美味しいチ

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自分の名前を刻んだ物差しを使って、自分の欲しいものを掴め

45分間だけ、地元に帰ってきた。
移動時間は滞在時間の8倍だけれど、それでも帰ってきてよかった。

田舎町。空が広くて、静かな冬の空気を川の音が流れていて、心が洗われる。
空気が美味しくて、吸い込むたびに身体のすみずみまで研ぎ澄まされる。

母がよく連れて来てくれた図書館、その隣の、砂場やブランコで遊んだ公園、何度も駆けた川沿いの道。
今日帰る場所はここではなく、3時間も離れたビルの中だけれど、私

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『桜の森の満開の下』坂口安吾

おぞましくも、それ以上に言葉の選択が美しい。
読んでいる間ずっと、映像の幻を見ているような気分だった。

総てのはじまりと終わりを含み総ての涯となっている、それゆえに、まるで止まっているかのような時を思わせる桜の森の満開の下。
その象徴的な白い花の散るさまのほかは、野蛮で、卑しく、残忍で、世俗に塗れた様子を見ているはずなのに、スクリーンに投影された世界の姿は最期まで綺麗だった。

▼電子図書館 青

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「頑張る」のハードル

自転車に乗って風を切ってみたくて、
来る日も来る日も日が暮れるまで練習していた。
歳を重ねるにつれ、
自電車に乗るって本当に私のやりたいこと?
乗れると誰のためになるの?
自転車に乗ってどこに行くのが目的だっけ?
それって手段として自転車が最適なの?
と考えるようになって、がむしゃらに頑張ることが難しくなった。

選択を正解にするシンプルなプロセス

選択を正解にするシンプルなプロセス

どこに行っても、決めた後は選んだ道を正解にする。その連続。それはその道を歩き続けることのみを指すのではない。そこに滞在した時間を正解にするということ。

同じ場所に居つづけるにしろ、場所を変えるにしろ、方法を変えるにしろ、やるべきことは変わらない。
考えつづける、学びつづける、内外ともにコミュニケーションをとりつづける、全方位にアンテナを張りつづける、これができていれば、ガッツ次第でたいていのこと

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詩

世界共通語は、英語でもエスペラント語でもなく Science だ。
Science の美しさは、最もミクロな現象から巨視的な摂理までを、精妙に顕にするところにある。一方で言詞の美しさは、想像を掻き立て、情緒を彫りおこすところにある。そして、理(ことわり)も詩(うた)も、真実を綴るもの。ともに満ちてこそ渾然となる。

だから、真摯に理と向き合うほど詩を求めて、今度は理の内に脳を凝らし、やっぱりま

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生きたまへ五月は青き風の色

今もなお人類に影響を与え続けている思想家、孔子は『論語』の中で「ものごとを楽しむ人には誰も勝てない」という法則を、2500 年も前に説いている。

という文章、違和感がありませんか?

数々の法則を示し、そして多くの問いを後世に遺した物理学者のアインシュタインは、100 年前に重力波の存在を予言していたのだ。

この文章には違和感はない。

思想や哲学というのは「人類が積み重ねてきた叡智の上に

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