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ハッシュタグの、隙間ーー『#ハッシュタグストーリー』(双葉社)
ハッシュタグでつなげられた四つの短編。麻布競馬場「#ネットミームと私」、柿原朋哉「#いにしえーしょんず」、カツセマサヒコ「#ウルトラサッドアンドグレイトデストロイクラブ」、木爾チレン「#ファインダー越しの私の世界」が収録されている。麻布競馬場とカツセマサヒコ目当てで読み始めた。麻布競馬場もカツセマサヒコも期待通りに面白かったのだが、今回初めて読んだ柿原朋哉と木爾チレンの作品も面白く、アンソロジーな
もっとみる「文化」は誰のものかーーカロリーヌ・フレスト『「傷つきました」戦争』(堀茂樹訳、中央公論新社)
筆者はフランスのジャーナリスト、評論家、映画監督。『シャルリー・エブド』にコラムも寄せる。反レイシズム、反差別主義者であるが、反アイデンティティ至上主義者である。近年、主にアメリカの大学内で、今ではその外へ、そしてヨーロッパにも広がっているアイデンティティ至上主義者(と筆者が呼ぶ)による「反レイシズム」が、実はレイシズム(人種主義)に行きつき、左派の希望とは裏腹に保守主義・右派を利するだけではない
もっとみるイノベーションは個人が起こすのではなく集団脳の累積的文化進化の結果である--ジョセフ・ヘンリック『WEIRD 「現代人」の奇妙な心理 下巻』(白揚社)
面白い&分かりやすいので下巻もサクサク読めたぞ。分厚いが註がたくさんついているので、思ったほど厚くはない。下巻は各章ごとに要約した。
8章 人類の歴史において一夫多妻制が多かったが、一夫一婦制が導入された。そもそも一夫多妻制も文化進化の結果であり、男性のみならず女性にも遺伝的な動機はある。いかに自分の遺伝子を多く残すか、という。一夫一婦制が一夫多妻制に競合する文化として進化したのは、男性のテスト
小麦帝国の侵略--ジョージ・ソルト『ラーメンの語られざる歴史』(国書刊行会)
(2019年10月15日シミルボン掲載の再掲)
本書は今や日本の国民食となったラーメンが、どうやって日本に入ってきて定着したか、戦後、どのように広がっていったか、今どうなっているかを詳細に語る。
速水健朗『ラーメンと愛国』が類書だが、それよりももっとかっつり史料をあさっている。手つきは学者。文献も日本のものは十分におさえてあるのだが、英語圏のものもあり、視点が広がる。
特に、戦後のアメリカ占
人類のデバッグは可能か--ダミアン・トンプソン『すすんでダマされる人たち』(矢沢聖子訳、日経BP社) 評
ジャーナリストのダミアン・トンプソンはデマ、フェイクニュース、陰謀論をひとまとめに「カウンターナリッジ(反知識)」と呼ぶ。原著2008年、翻訳も2008年で、いまから15年以上前なので、フェイクニュースという語は使われていないが、現在の文脈であればフェイクニュース(やポストトゥルース)が入るだろう。筆者が取り上げるのは、具体的には次のようなカウンターナリッジだ。
・9・11は米国政府が仕組んだ陰
見えないものへの不安と透明化への欲望--日本SF作家クラブ編『ポストコロナのSF』(早川書房)評
(2021年7月13日シミルボン掲載の再録)
いまやすっかり古くなった感もある言葉「新しい生活様式」。
マスクの常時着用、他人との身体接触をさける社会的距離=ソーシャルディスタンス、いわゆる三密の回避、オンライン/リモート化。1年でここまで変わるかというほどに、人々の暮らしと社会の様相は変化した。「コロナが落ち着いたらさ」と枕詞に会話しているとき、「新しい生活様式」はテンポラル(一時的)なもの
読んでも読んでも啓発されない自己ってなーんだ-ー牧野智和『日常に侵入する自己啓発 生き方・手帳術・片づけ』(勁草書房)
(2022年3月13日シミルボン掲載の再録)
書店にいくと自己啓発コーナーを目にする。私自身は自己啓発書の熱心な読者ではなく、むしろほとんど読んだことはない。一種の麻薬のようなもので、読んでいる間はモチベーションが上がるものの、読み終わったあとには何も残らないのでは? とどちらかといえば批判的にとらえている。(実際に読んだことがないが、批判的なのは、なぜだろう…。)とはいえ、気になっているジャン
私たちがWEIRDである理由--ジョセフ・ヘンリック『ウィアード 上』(今西康子訳、白揚社)
上巻を読んだが、面白すぎるぞこの本。メモ的にわかったこと・考えたことを書いていく。
「ウィアード」とはWEIRD「風変わりな」を意味する単語だが、筆者はWestern(西洋), Educated(教育のある), Industrialized(産業化された), Rich(裕福な), Democratic(民主的な)の頭文字をとった人々のことを、指している。心理学などで、「人間の本性」として抽出され
人はコストではなく価値の源泉であるーー渋谷和宏『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(平凡社新書)
TBSラジオ森本毅郎スタンバイや、YouTubeポリタスTVでよく聞いている/見ている渋谷和宏が本を出したというので、読んでみた。ずばり『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』である。筆者はかつて『日経ビジネス』などのビジネス誌の編集に携わり、さまざまな企業の管理職や社員への取材経験が豊富である。
「なぜ?」には「なぜならば」という答えが用意されている。筆者によれば、バブル崩壊、金融危機と9