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【連載小説】CANCER QUEEN

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がん細胞のクイーンが、がん患者のキングに恋をしてしまい、なんとか彼の命を助けようと奮闘するSFファンタジー小説
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With  Cancer  をどう生きるか

With Cancer をどう生きるか

新型コロナウイルスによるパンデミックは、世界中に混乱と恐怖をもたらしましたが、この3年の間に、人類はパンデミックを乗り越え、コロナとともに生きる「ウィズコロナ」の時代へと新たな挑戦を始めています。

一方、がんは依然として人類にとって最大の脅威の病であり続けています。
いまや日本人の二人に一人が罹るというがんは、すでにいやが応にも私たちに ウィズがん(with cancer )の人生を強いている

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【連載小説】 CANCER  QUEEN    ステージⅠ   第1話「クイーン」

【連載小説】 CANCER QUEEN ステージⅠ 第1話「クイーン」

プロローグはこちら、
「With Cancer をどう生きるか」

わたしはキャンサー・クイーン。正真正銘のがん細胞なの。名前もちゃんとついているわ。なんたらかんたら大細胞がんって言うのよ。あんまり長いから、全部は覚えられないんだけど。
 生まれたのは、キングの肺の中。彼の左の肺の上の方に、3センチくらいの大きさで生まれたの。これ以上大きかったら、大変なことになったらしいわ。彼を診察し

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CANCER  QUEEN  ステージⅠ   第2話 「マリア」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第2話 「マリア」



翌日は東京に出張するため、彼は昼前にオフィスを出たわ。11月の東京の街は、どんよりとした雲に覆われていた。道往く人々の姿は普段と変わりがないのに、低く垂れこめた雲が、今の彼の気分を反映しているようだわ。まるで、世の中から自分だけが取り残されたような顔をして、足元を見つめながら、とぼとぼと歩いているの。

彼は、昨日のことはできるだけ考えないようにしているみたい。わたしに

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CANCER  QUEEN  ステージⅠ  第3話 「ドクター・エッグ」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第3話 「ドクター・エッグ」

 
今日は、再検査の日。病院までは自宅から歩いて15分。近くていいわね。早々と、朝9時には着いたの。
こんなに朝早いのに、一階のロビーは、もう人でいっぱいだわ。ここは地域の拠点病院というだけあって、患者さんが多いのね。それにしても、この多さにはびっくりだわ。

このあいだ、“近年、日本の医療関係予算は膨らみ続けている”というニュースをテレビでやっていたけど、無理もないわね。

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CANCER QUEEN ステージⅠ 第4話「幸運の女神」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第4話「幸運の女神」

 さすがに5泊6日も入院するのは時間と費用の無駄だと思ったのか、キングはドクター・エッグに頼んで、精密検査の日程を1泊2日に変更してもらった。
そうよね。いくら土日は入院手続きができないからといって、2日で終わる検査に6日も入院させるなんて、どう考えてもおかしいわ。そんな病院側の事務的な理由で患者に負担をかけるなんてとんでもない。
とまあ、わたしがむきになって怒ることではないけど、

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CANCER QUEEN ステージⅠ 第5話 「キングの望み」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第5話 「キングの望み」

 

この頃、キングは物忘れが多いようだ。今日は2度もあった。
1度目は、会社のパントリーにある湯沸かし器のつまみを元に戻すのを忘れたらしい。彼は大のコーヒー好きで、職場でも毎日欠かさず、自分でドリップコーヒーを淹れている。それで、できるだけ熱いお湯を注ぐために、湯沸かし器を高温にセットするのだ。いつもは低温に戻しているのに、今日は忘れてしまったらしい。女性社員から厳しく注意されて、

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CANCER  QUEEN  ステージⅠ 第6話「運命」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第6話「運命」


以前から、キングは人前で平然とタバコを吸っている人を見かけると不機嫌になっていたけど、肺がんと告知されてからは、それがいっそうあからさまになった。タバコを吸わない自分が肺がんになったのは、受動喫煙が原因に違いないと思っているの。

そう決めつける根拠は何もないのだけれど、そうとでも思わないと、肺がんになったことの理不尽さや悔しさをどこにも持っていきようがなかったのね。

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CANCER  QUEEN ステージⅠ  第7話「外科部長」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第7話「外科部長」

第7話 「外科部長」

 ドクター・エッグから精密検査の結果を聞いた翌朝、キングは元気に家を出た。透き通るような青空が、公園の黄色く色づいた銀杏の葉を際立たせている。

がんの告知を受けてからというもの、この先この景色を何回見られるだろうかなどと感傷的になることが多かった彼だけれど、今朝は晴れ晴れとした表情で、足取りも軽く歩いている。転移がなかったことにほっとしているのね。今という時間が

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CANCER  QUEEN ステージⅠ 第8話「手術の前に」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第8話「手術の前に」

いつも明るい奥さまだけれど、ほんとうは実家のお父さまの介護でたいへんなの。

お父さまは90歳を超えてもお元気で、毎日、カラオケ喫茶に通っては自慢の喉を披露していたけれど、最近は認知症が進んで、自分でできないことが多くなったせいか、ひどく怒りっぽくなった。
普段は優しいおじいさまなのに、症状が出ると途端に、とても怖い顔で怒鳴り散らすの。奥さまは毎日お父さまのお世話をしながら、

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CANCER  QUEEN  ステージⅠ 第9話 「ドクター・ジャック」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第9話 「ドクター・ジャック」




12月16日、予定通り入院。10日間の入院ともなると、いつも通勤で背負っているリュックサックだけでは足りずに、キングはもう一つ大きめの旅行バッグも提げていくことにした。

 病室は今度もまた窓側だった。窓からはラッキーなことに、ランドマークタワーや観覧車まで、横浜の街が一望できる。
これで個室だったら、高級ホテルのVIPルーム並み。4人部屋なのが残念。でも贅沢は

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CANCER  QUEEN  ステージⅠ 第10話「手術」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第10話「手術」



 手術は明日だけれど、土日は診察も検査もないので、キングは静かな病室でのんびりと過ごしている。窓の外を眺めたり、読書をしたり、音楽を聴いたりと、いつもの休日以上にリラックスした様子。唯一、バイオリンを弾けないことだけが心残りみたい。下手でも弾いていると、いやなことを忘れるから。
はたから見ると、この人が生死を分ける手術を目前に控えたがん患者だとは、だれも思わないでしょう。

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