野洲たか

東京在住。 実現のあてもなく、いつか映像化したい映画原作を投稿します。いつの日か、その…

野洲たか

東京在住。 実現のあてもなく、いつか映像化したい映画原作を投稿します。いつの日か、その映画が劇場公開されるまでは、縦横無尽な脳内上映をお楽しみいただけますと幸いです。エブリスタでも活動中。

記事一覧

短編小説『永遠よ、こんにちは。』

* 「お化粧もお洒落もしなくてよくなりました。おかげで、その時間を有効に使えています」 深夜のラジオ番組で、丸の内のОLさんがそんなことを言っていた。コロナ禍…

野洲たか
1か月前
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短編小説『エスパー茉莉の秘密の職業』

* 「茉莉さん、殺人課より依頼があった。土曜の朝に申し訳ないね」  とレナード・マリエンバート博士から携帯に電話があった。モスクワの学会へ出張中のはずだから、向…

野洲たか
1か月前
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短編小説『ガラスの航海』

The Glass Voyage/ A Short Story 1、 その冬、ジェイクは、リトル・イタリーの小さなカフェ・ショップを8万ドルの現金で買い取った。 店の名前は、フラ・アンジェ…

野洲たか
11か月前
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短編小説『天使の愛人』

1、宇宙なのか深海なのか判らない 人気俳優の窪田拓斗(30)が自殺した。 クリスマスの夜、ニューヨークのブルックリン橋から飛び降りたのだ。 衝撃的な出来事だったから…

野洲たか
1年前
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短編小説『変身するカフカくん』

  *  その城塞の形をした職業安定所には、くたびれた灰色の背広の老人がひとりで働いていた。  太陽が傾きかけた頃、背広の老人のいる窓口へ、やけに耳の大きな青年…

野洲たか
1年前
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短編小説『もう一度、温めればいい』

*  昼すぎ、ノルマの原稿を書き終え、キッチンでカレーライスを食べていたら、ぼくの携帯が鳴った。知らない番号だったので、セールスかと思ったが、とんでもない用件だ…

野洲たか
1年前
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短編小説『或る魔女の告白』

その1、 深夜、ぼくの美しい女優の妻はCMの撮影から帰ってきて、スタジオでなにも食べなかったの、なにか作ってくれるかしら、と言った。 そういえば、グリュエー…

野洲たか
1年前
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短編小説『彼の宇宙船、彼女の惑星』

*  田中コボルの本当の名前は、ナヤ・サガラ・ハラヤカタサァハナルという。誰も、そのことを知らない。なぜならば、彼は、ほかの渦巻き銀河からこっそりと訪れた調査員…

野洲たか
2年前
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短編小説『永遠よ、こんにちは。』

短編小説『永遠よ、こんにちは。』




「お化粧もお洒落もしなくてよくなりました。おかげで、その時間を有効に使えています」

深夜のラジオ番組で、丸の内のОLさんがそんなことを言っていた。コロナ禍で在宅勤務になって、お出かけするのも近所で買い物するくらいだから、そんな必要はなくなったということだ。なんだか、悲しいきもちになった。

わたしにとって、お化粧もお洒落もやらなければならないことではない。やりたくてしている、きもちを上

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短編小説『エスパー茉莉の秘密の職業』

短編小説『エスパー茉莉の秘密の職業』



「茉莉さん、殺人課より依頼があった。土曜の朝に申し訳ないね」
 とレナード・マリエンバート博士から携帯に電話があった。モスクワの学会へ出張中のはずだから、向こうは朝の五時頃だろう。
 わたしはがっかりした。駅前に新しくオープンしたケーキ屋の長い行列へ一時間も並んで、ようやく次に呼ばれる順番だったのだ。そこの和栗のモンブランはイートインのみで、お昼には完売してしまう。事前予約もネット販売もや

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短編小説『ガラスの航海』

短編小説『ガラスの航海』

The Glass Voyage/ A Short Story

1、



その冬、ジェイクは、リトル・イタリーの小さなカフェ・ショップを8万ドルの現金で買い取った。

店の名前は、フラ・アンジェリコ。ルネサンスの画家の名前だった。

地元の若者たちが、エスプレッソやカプチーノ、パニーニ、ジェラートを楽しんでいる。



ある朝、ジェイクは、楽屋にいるあたしに会いにきて、あの仕事から足を洗っ

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短編小説『天使の愛人』

短編小説『天使の愛人』


1、宇宙なのか深海なのか判らない

人気俳優の窪田拓斗(30)が自殺した。
クリスマスの夜、ニューヨークのブルックリン橋から飛び降りたのだ。
衝撃的な出来事だったから、二ヶ月くらいはテレビや新聞で騒がれた。海外のニュースでも取り上げられた。
彼の死は、人びとの記憶にしっかりと刻みこまれた。
そういう意味では、予言通り……サンデー湯河の願いは叶ったわけである。
予言通り……?
いや、もしかしたら、

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短編小説『変身するカフカくん』

短編小説『変身するカフカくん』

 


 その城塞の形をした職業安定所には、くたびれた灰色の背広の老人がひとりで働いていた。

 太陽が傾きかけた頃、背広の老人のいる窓口へ、やけに耳の大きな青年カフカくんが訪ねてきて、

「なにか仕事がしたいのです」

 とお願いした。

 老人は逆に質問した。

「どんな仕事ができるのかね?」

 考えてみたら、カフカくんはなにもできない。

 それも仕方のないことだった。

 これまでに働

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短編小説『もう一度、温めればいい』

短編小説『もう一度、温めればいい』



 昼すぎ、ノルマの原稿を書き終え、キッチンでカレーライスを食べていたら、ぼくの携帯が鳴った。知らない番号だったので、セールスかと思ったが、とんでもない用件だった。

 結果、その悲劇的ともいえる会話を交わしているあいだ、せっかくのカレーライスはすっかり冷めてしまったけれど、もう一度、温めればいいだけのことだった。

 それは、こんなふうに始まった。

「高梨真守さんですか?」

 電話の向こ

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短編小説『或る魔女の告白』

短編小説『或る魔女の告白』

その1、


深夜、ぼくの美しい女優の妻はCMの撮影から帰ってきて、スタジオでなにも食べなかったの、なにか作ってくれるかしら、と言った。

そういえば、グリュエールがあったな。賞味期限の短いシュレッドしたものが。

ぼくは風呂から出たばかりだったので、吸水性にすぐれた薄手のタオルで頭髪を拭きながら、チーズオムレツでも食べるかい?カボチャのスープもあるけど、と聞いた。

妻が食べたいと答え

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短編小説『彼の宇宙船、彼女の惑星』

短編小説『彼の宇宙船、彼女の惑星』



 田中コボルの本当の名前は、ナヤ・サガラ・ハラヤカタサァハナルという。誰も、そのことを知らない。なぜならば、彼は、ほかの渦巻き銀河からこっそりと訪れた調査員だから。

 この惑星に赴任して、はや三年。人類のフリをして、中央区荒獅子町に3LDKの高級マンションを借り、何不自由なく、ひとり気ままに優雅に暮らしている。その生活の様子はすべて、母星に四次元トランスミットされる。それ自体が、重要な任務

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