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短編小説『永遠よ、こんにちは。』
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「お化粧もお洒落もしなくてよくなりました。おかげで、その時間を有効に使えています」
深夜のラジオ番組で、丸の内のОLさんがそんなことを言っていた。コロナ禍で在宅勤務になって、お出かけするのも近所で買い物するくらいだから、そんな必要はなくなったということだ。なんだか、悲しいきもちになった。
わたしにとって、お化粧もお洒落もやらなければならないことではない。やりたくてしている、きもちを上
短編小説『ガラスの航海』
The Glass Voyage/ A Short Story
1、
その冬、ジェイクは、リトル・イタリーの小さなカフェ・ショップを8万ドルの現金で買い取った。
店の名前は、フラ・アンジェリコ。ルネサンスの画家の名前だった。
地元の若者たちが、エスプレッソやカプチーノ、パニーニ、ジェラートを楽しんでいる。
ある朝、ジェイクは、楽屋にいるあたしに会いにきて、あの仕事から足を洗っ
短編小説『或る魔女の告白』
その1、
深夜、ぼくの美しい女優の妻はCMの撮影から帰ってきて、スタジオでなにも食べなかったの、なにか作ってくれるかしら、と言った。
そういえば、グリュエールがあったな。賞味期限の短いシュレッドしたものが。
ぼくは風呂から出たばかりだったので、吸水性にすぐれた薄手のタオルで頭髪を拭きながら、チーズオムレツでも食べるかい?カボチャのスープもあるけど、と聞いた。
妻が食べたいと答え