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いなくなるな 椿姫

この世で最も愛している人が、病によって目の前で死にかけています。
さて、あなたはなんと声をかけますか?


…いや、


その人は、あなたになんて声をかけましたか?


その愛しの人は、最後の力を振り絞って、あなたにどんなことを囁きましたか。


今までの感謝と、お礼でしょうか

死にたくないと、もがいたでしょうか

それとも、あなたのこれからを案じたのでしょうか。






ヴェルディのオペラ「椿姫」のラストシーンは、その全てだった。
あますことなく、圧巻だった。

チケットが余っちゃったよ~いる~?とのほほんと言ってくる友達に

「オペラ行ったことなーいおもしろそーちょうだい」

と軽率に返事をしたが、それは最高峰の舞台だった。

ローマ歌劇場管弦楽団、ローマ歌劇場合唱団、ローマ歌劇場バレエ団が来日し、それだけでも豪華極まりないのに、

演出はソフィア・コッポラ、衣装はヴァレンティノ・カルヴァーニ。
やばい。

客を見渡すと、明らかに政府の要人と思われる人に、P活、オートクチュールであろうドレスを着た美女と、痰が絡まった死にかけのジジイが大量にいた。

昨日の記事で小泉元首相に横切られた、と書いたがこういう理由だ。

田原総一朗なんて8人くらいおったぞ。


そこにまさか無職が紛れ込んでるとは思うまい。





一応事前に「なんだかレベチな舞台」というのは聞いていたので、わけがわからんまま帰らないように、一応椿姫のストーリーの予習だけして行った。


高級娼婦ヴィオレッタが詩人と恋に落ちるも、詩人のパパに「息子の妹がこれから結婚すんねやんか、兄の嫁が娼婦と知られたら破断になるやろ。別れタモーレ」とコッソリ言われ、断腸の思いで詩人に別れの手紙を書き、詩人は「なんそれ急になんそれ!」と怒り、復讐しようとするもなんやかんやあって、事情を全て把握した詩人が「すまんかった!」と詫びに来た頃には既にヴィオレッタは結核で死ぬ直前で、最後に本当の別れを告げて、死んでしまうという悲劇である。


バッチリ予習したのに電光掲示板が上手と下手についていて字幕が出てた。
なんやねんな。


1幕,2幕前編,2幕後編,3幕とあって、休憩がなんと3回もあった。
しかも1幕30分、休憩は1回20分で、舞台装置をガラリと変える。贅沢すぎ。
オペラってみんなこうなの?



動画で他の椿姫も何個か見たけれど
舞台美術が比べ物にならないくらい良かった。

あと、ヴァレンティノのシックな衣装が恰好よすぎる。
近くで観たかった。

そして、主人公の高級娼婦ヴィオレッタ役のオペラ歌手の凄いこと。

3幕は死ぬ間際のヴィオレッタが愛する恋人に言葉を贈るシーンだが、僕は自分でもびっくりするくらい泣きっぱなしで、危うく静かなところで嗚咽するところだった。

隣の人は寝てた。
おいなんで寝てられる?





声楽ってやっぱりすごい。

昨日の記事にも書いた、僕が客演した劇団はほとんどミュージカル女優で構成されていて、その影響でミュージカルもとても好きなのだけど、やっぱり声って体に響きやすいんだろうな。


詩人の妹の為に別れを決意したときの強いビブラート
死の間際、恋人を想うときの切ないビブラート

どちらも違って、どちらも響く。
とても良い役者さんだった。




さて。

僕が漫画のような滝の涙を流しているとき、僕はこの世で最も敬愛している人が今にも死んでしまう姿を思い浮かべていた。


その人は「大丈夫だよ」と笑って、僕の頬っぺたに手を添えた。

僕は、ひたすら「死ぬな」と声をかけた。

その人が死んで、悲しみ切る準備が出来ている。
今までの恩を、もう一段深い心の底から感謝する準備が。

その後は、9回表に逆転された時のように「サッ、切り替えてこー!!!」と言える準備まで出来ている。

それでも、死ぬなと
強く願った。

あなたがいなければ僕はこの場所にいなかったし、こんなにも元気でいられなかった。

この世の誰よりも愛おしいあなたへ。


まだまだ、恩を返させてくれよ。
そして、返しきれない恩をもっと与えてくれよ。

いつでも死なれる覚悟はできている。

でも、いなくなるな。



隣のお前は寝るな。






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