ともだち
育ちの良い友達がいる。
都内の一等地に生まれ、当然のように学校は私立で、就職先は大企業。
親から真っ当な愛情を存分に受けた彼は、騙されやすく素直な性格をしている。
ただその分、ピュアな残虐性も持ち合わせていて、学生時代は同じラグビー部の同級生を寄ってたかってイジメていたという。
彼としてはキツめのイジリだったらしいが、それも相手が傷ついているんだと分かれば、自分を省みてすぐに謝りにいった。
良くも悪くもまっすぐな彼は、傍から見て、至極真っ当な成長をしているな、と思う。
彼は身長も高く大柄で、花山薫みたいな見た目をしているが、僕は彼の顔が結構好きだ。
もちろんタイプという話ではない。
個人的に、妙に落ち着く顔の造形をしているのだ。
いるでしょ、まわりにそういう人。
おそらくそれは、彼の目の細さが関係している。
最近分かったことだが、僕は男女共に、細い目の人が落ち着くらしい。
目を合わせる面積が少なくて済むからだ。
僕は小さい頃から人と目を合わせることが非常に苦手なので、それがすごく安心する要素なのだと思う。
彼は体を鍛えていて上半身はボブサップのように分厚いが、下半身は華奢で女子高生のような足をしている。
尾田栄一郎の書く不格好な敵キャラみたいなフォルムで、いつもまわり(主に僕)からチキンレッグと馬鹿にされていた。
彼の実家と、当時の僕のアパートが徒歩圏内にあることが分かってから仲が良くなり、もう3年が経つ。
人間関係が続かない僕が「暴言」を吐ける、数少ない友達だ。
彼は僕のアパートに入るなり、「俺が人生で見た空間史上一番汚ねぇ」と吐き捨てた。
彼もまた、僕に暴言を吐く。
だから信頼できる。
彼とはとてもウマがあったし、酒を飲んで多くの事を話した。
家族のことも、イジめられていたことも、躁うつであることも。
そんなことも飄々と、しかし真剣に聞いてくれる。
なにか、文字にすると当たり前のことなんだけど、当たり前のことを当たり前に出来る人って言うのは意外といなくて、意外とその当たり前を評価しない人が多いように感じる。
「聞いて欲しい話」を「黙って聴けること」って実はすごい価値のあることだ。
それが当たり前に出来るところに、僕は「育ちの良さ」を感じた。
一度僕らが女の子達と4人で飲んでいたときもそうだ。
会計を終わって外に出たあと、片方の女がご馳走様も言わなければスマホを見ながら「あ、私彼氏いるんで~」とスマホを見ながら言ってきた。
「しっかりナンパされて奢られといて言うセリフか」と無性に腹が立ち、僕が路上で詰めていると
「おいやめろ、女だぞ。殴りたいなら俺を殴れ、な。」
と、慌てて間に割って入ってくれた。
(別に殴ろうとはしていなかったけど…)
(でもせっかくのご厚意なのでとりあえず殴っといた)
(効かなかった)
精神的にも物理的にも受け止めてくれる彼に、僕は多くのことを求めた。
「僕の暗い話を聴ける、明るくイケてる奴」は中々いなかったので、嬉しくなって無意識的に、僕は次のステップである「理解」を求めてしまったのだ。
誰もがそれを望み、そして、決して求めてはいけないことを。
しかも、男にだ。
僕は友達が出来てもいつも自分から離れていってしまうリセット癖があるので、当時「親友」というものに強い憧れがあった。
東京に出てきて、家族仲も悪くなり、恋人を信頼することもできず、本当に誰一人心を許せる人がいなかった僕は、「こいつにならなんでも話せるかもしれない」と希望を持った。
会話の9割がボケで構成されている僕らの会話に、繊細な話を織り込もうとしてみたが、結論から言うと、それが原因で関係は悪くなってしまった。
僕はとても大きな期待を寄せていた。
しかし、noteで書いているような心の機微には彼には通じなかった。
そりゃあ、そうだ。
健康に育った人は、自死遺族のブログを読み漁ったりしないし、そんなことを考えもしない。
共感などできるはずもなく、彼が発する相槌からは
「よくわかんねーけど、まぁわかる範囲で返しとくか、よくわかんねーけど」
という配慮しているんだかしていないんだかよくわからないニュアンスを感じた。
彼を責められるはずもない。
ただ、僕はひどくがっかりした。
ようやく、1が見つかると思ったのに、と。
変な言い方をしてしまえば、彼に冷めてしまった。
次第に彼の嫌なところが目につくようになり、そのすぐ後に大きな喧嘩をした。
(一応断っておくが我々はゲイのカップルではない)
彼はめちゃくちゃ時間にルーズで、基本的に自分の家の近くで遊びたがり、家から遠いと誘いを断る。
さらには僕との約束と、面白そうなイベントが被ったら、先に僕との約束をしていたのにも関わらずキャンセルしたりする。
(先に入れた女友達との予定より彼氏との予定を優先させて友達がいなくなる、女のよくあるアレ)
僕がカチンと来て「てめぇ人のことナメてんのか」と大説教した。
こればっかりは僕が正しいので後悔はないが、その時僕は鬱でネガティブになりすぎていたので、「もう会わねぇからな」などと啖呵を切った。
ただ、彼はどれだけ責められようとすぐに言い返したりせず、素直に「俺が悪かった。縁は切らないで欲しい」と言ってきた。
自分に非があると分かればすぐに謝るところは人として本当に尊敬するし、だからこそ憎めない。
東京で、「育ちの良い人」を何人か見てきたけど、どの人もコンプレックスはあれど、芯がしっかりしている。
「自分は大切にされるべき、価値のある存在なのだ」
という、眩しい価値観を持っているように思う。
他者から存在を脅かされるような不安を感じたことがないから、とても堂々としている。
そして自分と同じような目線で他人のことを見ているから、人間に対する恐怖心のようなものがとても薄い。
人として、何より大事な根底だ。
羨ましい限りである。
甘やかされた分、マイペースすぎるところも大体共通していて、強く言わなきゃわからないところはあるけど。
それ以降は何回か会ったが、なんとなく気まずくて以前のように頻繁には遊ばなくなってしまった。
彼が彼女と同棲を始めて、前みたいに気軽に家に凸できなくなったのもある。
一度、彼が引っ越したてのときホームパーティをやるので来いと言われて家に行ってそこで初めて彼女と会ったのだが、どこかで見たことがあると思ったら彼女の前職はセクシー女優だった。
あぁ・・どうりで・・・。
しかもこの日は、たまたまAV事務所で雑用を手伝っていた帰りで、そのことを彼女に言うと「あそこはドギツイ撮影の割に金払いが良くない」と言っていた。
ここの事務所知ってる?くらいのテンションで話したのに。
(↑ここの会社の、別日。)
彼も変な奴だが、その子も変人だったのですぐ好きになった。
僕に似ていて器が小さく、コンプレックスを強く抱えている子で、人は足りないものを補うように人と繋がっていくのだなぁとしみじみ思った。
それからさらにしばらく間が空いている。
久しぶりにそろそろ会いたい。
そう思ってこないだ誕生日だった彼にメッセージを送った。
ただ、彼もエリート街道を走っているので、仕事で忙しいかなぁと思っていると
「よう兄弟、元気か。またうちに来い」と返ってきた。
非常に嬉しくなったので、今度上等なパンツでもプレゼントしてやろうと思う。
最近、性欲が無くなったと大騒ぎしていたので、フロント部に凄十でも染み込ませておこう。
ついでに、デスソースも。
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