山崎余市

・短編やエッセイを定期的に書いていこうと思います。少しでも面白いと思っていただけたら試…

山崎余市

・短編やエッセイを定期的に書いていこうと思います。少しでも面白いと思っていただけたら試しにまた覗いてみてください ・呪われた体質(下戸)のおっさんです

記事一覧

固定された記事

【エッセイ】呪われた体 ~下戸~

主は52歳のおっさん。呪われた体質(下戸)である 酒はビールをグラス一杯飲んだだけで顔が紅潮するほどの憐れな呪われっぷりであるため、主は酒とは無縁の人生を歩んで…

山崎余市
3か月前
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嗅覚補助具の悲劇

 猫宮氏は人工鼻の開発を進めている。  古来、人間は、目には望遠鏡や顕微鏡、口にはマイクや拡声器、耳は集音器などを使って、本来の能力では見えない世界を眺め、声を…

山崎余市
3週間前
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嘘の研究

「女百背(めひゃくせ)」という言葉がある。  江戸の昔、街道沿いに点在した宿場に荷を運ぶ行商の娘を指してこう呼んだ。  日に百軒もの商家を回るという、過酷な行商…

山崎余市
1か月前
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【短編】幽霊に会いたい

 真治は今夜も墓地を歩く。  最近は手当たり次第に墓地に出かけ、幽霊が出るという噂の場所にもわざわざ行く。  霊感があると自称する人や、霊媒師にも会いに行く。し…

山崎余市
1か月前
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【短編】ミュージカル好きの教授

 科学者たちは、有史以前の人類の様子を初めて見た。  最初に驚いたのは、彼らが歌うように話していることだ。それはもはや完全に「歌」と言っていいものだった。  勿…

山崎余市
1か月前
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【エッセイ】残業嫌いの役員

 私は残業が嫌いだ。もう大っ嫌い。  定時を過ぎたら1秒でも早く帰り、好きなことをしたいと思っているし、それが私の権利だと信じている。  私は2024年3月現在52歳。…

山崎余市
1か月前
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【超短編】広告代理店の星【短編】

 広告代理店に勤める塩崎は、妻とトルコ旅行に出かけた。  有名なエフェソスは聖書にも登場する街で、キリストの使徒であるルカや、ヨハネの墓もある、世界でも非常に古…

山崎余市
1か月前
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【エッセイ】さかなクンの驚き方について

 さかなクンはすごい。  確かに豊富な魚の知識を持ち、それを上手に、誰にでもわかりやすく説明する才能がある。  彼はTVチャンピオン出身で、私はその時の放送をリ…

山崎余市
1か月前
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【短編】地球担当SE・神と呼ばれちゃう

 彼が構築したシミュレーション。「地球」。  最近はずいぶん安定してきた。生態系も落ち着いている。  あまりにも強く貪欲な肉食獣や、有害すぎる菌。そういったもの…

山崎余市
2か月前
7

【短編】口内の乱

「大した被害はない。そう大袈裟に騒ぎ立てるな」  指揮官は冷たくそう言い放つと、再びモニタに向き直り、 「君の悪い癖だぞ」  と私に言った。  確かに戦況は悪く…

山崎余市
2か月前
18

【短編】埼玉生まれの死神

「まさかこんなんがきっかけで死ぬことになると思わんかったやろ。ええ気味や」  と言いながら、千葉は淡々と短いナイフを男の肌に刺していく。人を殺すときいつも関西弁…

山崎余市
2か月前
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【短編】我が王のサナギ

我が王は虫が好きだ。 虫好きにもいろいろあるが我が王は蝶を好む。甲虫の精悍さや、鈴虫の鳴き声には目もくれない。 我が王が好きなのは蝶、とりわけそのサナギである。 …

山崎余市
2か月前
7

【エッセイ】下戸が初めてウイスキーを買う。笑うがよい。

主はアルコールを受け付けない、「呪われた体」であるため、酒屋は行動エリア外である。万一、酒屋に入って 「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」 等と言われた場合…

山崎余市
3か月前
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【エッセイ】下戸だがウイスキーだけは気になる~

主はアルコールを受け付けない、「呪われた体質」である。 しかし、そういう呪われた者でも、 という記事を見つけた。なお否定する医療従事者も結構いるようだが。 一縷…

山崎余市
3か月前
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【エッセイ】呪われた体 ~下戸~

【エッセイ】呪われた体 ~下戸~

主は52歳のおっさん。呪われた体質(下戸)である
酒はビールをグラス一杯飲んだだけで顔が紅潮するほどの憐れな呪われっぷりであるため、主は酒とは無縁の人生を歩んできた。

ここであらかじめ断っておくが、

酒と無縁の人生とは、単に酒を飲まない人生ではない。

幼年期に想起した「大人」とは、サザエさん一家の男系眷属のように、家路に至る酒屋で杯を重ね、残酷な日々の労苦をしばし癒し、束の間の自由を謳歌する

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嗅覚補助具の悲劇

嗅覚補助具の悲劇

 猫宮氏は人工鼻の開発を進めている。

 古来、人間は、目には望遠鏡や顕微鏡、口にはマイクや拡声器、耳は集音器などを使って、本来の能力では見えない世界を眺め、声を伝え、音を聞いてきた。
 一方、嗅覚や味覚にはそういった補助器具は今のところ存在しない。

 もっとも、嗅覚に至っては人間の相棒である犬の能力が素晴らしいこともあり、彼等に頼ってさえいれば太古の昔から問題なかったこともあるだろう。が、やは

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嘘の研究

嘘の研究

「女百背(めひゃくせ)」という言葉がある。

 江戸の昔、街道沿いに点在した宿場に荷を運ぶ行商の娘を指してこう呼んだ。
 日に百軒もの商家を回るという、過酷な行商を行う女という意味だが、実際には元気な娘であっても、百件もの商いをこなせる者は少なかったという。

「百背に足らず」という言葉はここから来ている。

 と、言うのは嘘で女子100メートル背泳ぎのことである。

 司馬遼太郎風に嘘を書くと楽

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【短編】幽霊に会いたい

【短編】幽霊に会いたい

 真治は今夜も墓地を歩く。
 最近は手当たり次第に墓地に出かけ、幽霊が出るという噂の場所にもわざわざ行く。

 霊感があると自称する人や、霊媒師にも会いに行く。しかし、14歳の真治にまともに取り合ってくれる人は少ない。

 時には霊媒師と話すのに30分で1万円支払ったこともあったが、これまで幽霊、亡霊、お化け・・・まぁ、呼び方は何でもよいのだが、この世のものではない何かに出会えたことや、存在を確信

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【短編】ミュージカル好きの教授

【短編】ミュージカル好きの教授

 科学者たちは、有史以前の人類の様子を初めて見た。

 最初に驚いたのは、彼らが歌うように話していることだ。それはもはや完全に「歌」と言っていいものだった。

 勿論、現代の音楽とは違うのだが、獲物の捕獲に成功して嬉しいときは、朗々としたテンポの速い歌で。誰かが死んだり、仲間が傷ついたときは、どこか悲しげな歌を互いに歌い意思疎通する。

 驚いたことに、彼らの歌は、現代の科学者にも感情を伝えること

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【エッセイ】残業嫌いの役員

【エッセイ】残業嫌いの役員

 私は残業が嫌いだ。もう大っ嫌い。
 定時を過ぎたら1秒でも早く帰り、好きなことをしたいと思っているし、それが私の権利だと信じている。

 私は2024年3月現在52歳。妻子あり。一応5000人規模の会社の役員である。あまりこういうことを言うのも何なのだが、これから語るような生き方をしている割には、同期の中では出世が一番早い。
 これは本当に謎なのだ。絶対に謙遜ではない。私にはのし上がるほどの実力

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【超短編】広告代理店の星【短編】

【超短編】広告代理店の星【短編】

 広告代理店に勤める塩崎は、妻とトルコ旅行に出かけた。

 有名なエフェソスは聖書にも登場する街で、キリストの使徒であるルカや、ヨハネの墓もある、世界でも非常に古い都市のひとつだ。

 世界最古のサービス業は「売春」であるという話をよく聞く。

 ここエフェソスの遺跡には、売春宿までの行き方を書いた、紀元前の石盤があり、トルコ人のガイドは熱心にその看板の意味を説明している。

 いや、待てよ!

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【エッセイ】さかなクンの驚き方について

【エッセイ】さかなクンの驚き方について

 さかなクンはすごい。
 確かに豊富な魚の知識を持ち、それを上手に、誰にでもわかりやすく説明する才能がある。

 彼はTVチャンピオン出身で、私はその時の放送をリアルタイムで見ていた。
 まだ高校生で学ラン姿のさかなクンは、匂いだけで焼いている魚の種類を当てたりして、それはもう圧巻だった。

 でも「ギョギョー!!」っていう驚き方はやめて欲しい。そういうキャラ作りは嫌いだ。

 本気で驚いている奴

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【短編】地球担当SE・神と呼ばれちゃう

【短編】地球担当SE・神と呼ばれちゃう

 彼が構築したシミュレーション。「地球」。
 最近はずいぶん安定してきた。生態系も落ち着いている。

 あまりにも強く貪欲な肉食獣や、有害すぎる菌。そういったものが出現するたびにアラートに悩まされたが。最近は発生回数も減ってきた。

 アリが大量に発生した地域に、アリクイを作って配置した時には、
「少々短絡的ではないか」
 と上司に窘められたが、あれだって上手く行ってるし、デザインも評判がいいのだ

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【短編】口内の乱

【短編】口内の乱

「大した被害はない。そう大袈裟に騒ぎ立てるな」

 指揮官は冷たくそう言い放つと、再びモニタに向き直り、

「君の悪い癖だぞ」

 と私に言った。

 確かに戦況は悪くない。今回、辺境で発生した口内の乱(口内炎)は、やや重度ではあるものの、この身体世界全体を揺るがすほどのものでないことは自明だった。

 しかし、一昨日からの食事量の低下と、言葉数の減少。この事実は否めない。私はそのデータを指揮官に

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【短編】埼玉生まれの死神

【短編】埼玉生まれの死神

「まさかこんなんがきっかけで死ぬことになると思わんかったやろ。ええ気味や」

 と言いながら、千葉は淡々と短いナイフを男の肌に刺していく。人を殺すときいつも関西弁になってしまう。それは千葉が常々直さなければと思っている癖だ。姓は千葉だが、生まれも育ちも埼玉県だ。

「でも、まだ助かるかもと、心のどこかで思うとるやろ?確かにそうかも知れん。こない小さなナイフやと何べん刺しても死なんときは死なんもんや

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【短編】我が王のサナギ

【短編】我が王のサナギ

我が王は虫が好きだ。
虫好きにもいろいろあるが我が王は蝶を好む。甲虫の精悍さや、鈴虫の鳴き声には目もくれない。

我が王が好きなのは蝶、とりわけそのサナギである。
幼虫からサナギを経て、ふわりと優雅に飛び立つ蝶。我が王は蝶という虫そのものの美しさよりも、その飛翔の瞬間を愛しているように見受ける。

我が王の元に届けられたオオコガネチョウのサナギは100匹。
それを我が王は実に手際よく仕分けていく。

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【エッセイ】下戸が初めてウイスキーを買う。笑うがよい。

【エッセイ】下戸が初めてウイスキーを買う。笑うがよい。

主はアルコールを受け付けない、「呪われた体」であるため、酒屋は行動エリア外である。万一、酒屋に入って

「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」

等と言われた場合、SAN値が大幅に削られることは明白だ。個人店の酒屋には当分行けないだろう。

さて、そこで近所のスーパーである。

案の定、品薄と言われている「響」「山崎」といったジャパニーズウイスキーの雄はそこになく、鎮座しているのは異国の地の酒か

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【エッセイ】下戸だがウイスキーだけは気になる~

【エッセイ】下戸だがウイスキーだけは気になる~

主はアルコールを受け付けない、「呪われた体質」である。

しかし、そういう呪われた者でも、

という記事を見つけた。なお否定する医療従事者も結構いるようだが。

一縷の望みとして、自分にとって好ましい香味の酒を見出し、それを少しずつ飲み続けることにより・・・あまり健康的ではないにせよ・・・充実した日々の礎を得ることに繋がるかもしれない。

ここまでの動機は以下の記事をご照覧していただきたい。

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