桐衣朝子

46歳で福岡大学入学、52歳で九州大学大学院入学。 61歳で小学館文庫小説賞受賞。 著…

桐衣朝子

46歳で福岡大学入学、52歳で九州大学大学院入学。 61歳で小学館文庫小説賞受賞。 著書「薔薇とビスケット」、娘たちの漫画「4分間のマリーゴールド」ノベライズ。 新刊「僕は人を殺したかもしれないが、それでも君のために描く」(小学館)発売中。

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  • 僕の息子になってください

    母子家庭で育った秋臣は、苦労した母に親孝行をすることを人生の目的にして生きてきた。しかしある日突然母の余命を知らされる。 母の最後の願いはたった一つ。 「智夏に会いたい」  秋臣はゲイであることを隠して結婚したが、それが発覚して、一人息子の智夏が二歳になる前に離婚した。息子は元妻の再婚相手が父親だと信じて、秋臣が会うことは叶わない。 母の最期の望みを叶えるために秋臣が取った行動とは――? 毎週月曜更新。

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桐衣朝子
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春田はどうやってマリッジブルーを乗り越えたか

おっさんずラブ第六話。もう、もう、もう、泣けました。
一人でウエルカムボードを作りながら、出逢いの頃から今までを振り返って号泣する春田。号泣したのは春田だけではない。日本中のおっさんずラブファンが、春田と牧の愛の歴史を振り返って涙を流していたに違いない。
これまでの二人の歴史は、ファン一人一人の歴史でもあるのだ。
いろんなことがあったよねえ……と、二人のあれやこれやをなぞると、続編を待っていた長い

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 秋臣が縁側で涼んでいると、寿美子と叶人が手をつないで入ってきた。
それまでシンと静かだった庭に風が立ち、夏草と地面の匂いが虫の声を乗せて部屋の中に飛び込んできた。
 スズムシ、アオマツムシ、ケラ、夏の虫達が一斉に鳴き始めた。リッリッリッリッ、カナカナカナカナ、ジージー、リーンリーン。
「あら、素敵! お庭のオーケストラね」
 息子の隣に座った寿美子は少女めいたうりざね顔で楽しそうに微笑んだ。

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本当の叶人

第九章

 「先輩、本当に申し訳ありません!」
 犬養がこんなにもしおれている姿を見たのは初めてだった。大事なクライアント二社に対してダブルブッキングをしてしまったのだ。日時は明日の午前中の十時。両方とも重要なオリエンテーションで多くの人間の予定をやっと合わせてのことだった。
「いや、君だけの責任じゃない。僕も気づかなかったんだ。ちゃんとチェックしなければならなかったのに……」
 秋臣は、最近仕事

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谷村新司さん、八代亜紀さん、鳥山明さん…

 去年あたりから、あまりに同年代の有名人の訃報が続いていて、そのたびにしばらく落ち込んでしまう。
 坂本龍一さん、伊集院静さん、谷村新司さん、もんたさん、KANさん、八代亜紀さん、鳥山明さん、TARAKOさん…。
 同じ時代を生きてきたというだけで、胸がふさがるのだ。この年代の方達は、日本が貧しい敗戦国からあっという間に立ち直って、世界に影響を与える経済大国にのし上がった激動の時代の生き証人である

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叶人の告白

第八章 
「どうしてもお墓参りがしたいの」
 猛暑の中、突然言い出した母の気持ちが秋臣には痛いほどわかっていた。目に見えて弱っている体を考えると不安が先に立つが、これが最後の墓参りになると思えば止めることはできなかった。
 秋の彼岸には母自身が墓に入っているだろうという現実を振り払うように、秋臣は父の墓の周りに生える雑草を黙々と抜いていった。
 叶人が差し掛ける黒い日傘の下で、寿美子は長い間手を合

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三浦翔平さんのこと

 私は「おっさんずラブリターンズ」を観るまで、三浦翔平さんという俳優さんを知らなかった。
 だからこのドラマが始まっても、三浦さん演じる菊之助に対して、正直興味がなかった。
 ところが…ところが……。ドラマが進むにつれて、三浦さんの演技力と魅力の虜になってしまったのである。
 私の偏見かもしれないが、正統派のイケメンというものは、なかなか「面白い」とか「笑える」とはならない気がする。何をやってもか

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おかえり

「霊能者を名乗る人間の中には、結構インチキな詐欺師がいるから気をつけろ」
 友人や会社の同僚に言われても、桜子は全く耳を貸さなかった。
 「すごい霊能者がいる」と聞けば日本中どこへでも飛んで行った。
 この三年間、ボーナスはほとんど霊能者行脚(あんぎゃ)に消えている。
 「霊能者」達の言うことは、たいてい同じだった。
「あなたのそばにいる」
「あなたと一緒にいられて幸せだったと言っている」
 それ

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雷鳴の中で

 マグカップの中の琥珀色の液体に、口をすぼめて息を吹きかける叶人の横顔はどこか浮かない顔だった。
 なかなか冷めないコーヒーに手こずっているのを見かねて、秋臣はもう一つマグカップを持って来た。それに叶人のコーヒーを移し、湯気が出なくなるまで行き来させてから、手渡した。
「もう飲めるよ。それから…今日はありがとう」
 叶人はキョトンとした顔を向けた。
「何が?」
「一人で心配するのと二人で心配するの

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美しく老いるってむずかしい!

○「美しく老いる」というのは、本当に難しい。
「時間は敵です」と言ったのは、確かカトリーヌ・ドヌーブだ。時間とか乾燥とかストレスとか、敵はたくさんいる。エステなど無縁の私は、いかに手間暇かけずに、大金も使わずに小綺麗でいられるか日々考えているのだが、まだこれと言った方法は見つかっていない。
「しわ、たるみ、老化全般」に効くマッサージなどないかしらとYouTubeをたまに検索するのだけど…。
「四十

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菊之助のひとりごと 和泉さん、まだですか

 また……。和泉さん、また返り討ちにあって怪我したんですね。
どんなに俺が苦しいかわからないでしょう。怪我をした和泉さんを見ているだけで、俺の体も心も痛むんですよ。
 やみくもに突っ走ったってダメなんですってば。証拠を固めて現役の警察官引き連れて、一網打尽にしなくちゃ。一人二人捕まえたって本当の解決にはなんない。奴らを根絶(ねだ)やしにするんです。
 和泉さん見てると、ハラハラして心配で、いっそ公

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非リアの獣医

「お兄ちゃん、お小遣いちょうだい」
 絵に描いたようなリア充の妹が仕事から帰ってクタクタな俺に手を出した。
「もう給料使い果たしたのか?」
「うん。今月は何かと物入りが多いんだもの」
「お前の物入りって、全部服かバッグだろ?」
「えへへ」
 財布から一万円札を三枚出して、その手にのせてやる。
「ありがと。稼ぎのいい兄貴を持ってほんと幸せ」
 明日香は拝むような仕草をしてさっさと自分の部屋に入って行

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嵐の夜に

 家に帰る犬養の車を見送りに門の外に出ると、叶人は少し離れたところに所在なさそうに立っていた。
 犬養はよく眠れたらしく、昨日の疲れの名残などかけらも見えない。
 「先輩、お世話になりました。本当に楽しかったです。また来ていいですか?」
「それは構わないけど、もうそろそろ本格的なクラゲシーズンだから、どうかな」
「そっか、残念。あ、そうだ。俺気になってたんすけど……」
 犬養が声を落とした。
 秋

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和泉のひとり言

 心臓が跳ね上がった。息ができない。
秋斗が目の前にいる!!!
 俺は、とうとう頭がおかしくなったらしい。秋斗を失ってから、ずっとずっと彼のことしか考えられなくて、それ以外は全て遠景でしかなかった。
 だからきっと頭の中の何かが狂ってしまったのだろう。
 武川部長は秋斗を「係長の春田」と紹介し、秋斗は「春田です。どうも」と言った。
 春田!?
 頭の中がぐちゃぐちゃになった状態で、俺はパソコンの前

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長子さんの足音

 長子(ちょうこ)さんの足音が好きだ。
 纏足(てんそく)かと思うほど小さな足で、しのびやかに優しく歩く。歩幅は狭いが、すり足とは違う。意思を持って、そっと歩くのだ。誰かの耳に障(さわ)らないように、誰かの眠りを妨げないように。
 長子さんは、九十年以上の人生をずっとそんな風に生きてきたんだろう。ひっそりと、この世界の隅っこで、誰の邪魔にもならぬように……。
 夜勤の時、長子さんがトイレに立って詰

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菊様のおかかおむすびの秘密

 あれがただのおかかおむすびだと思ったら大きな大きな間違いである。
和泉さんと二人で暮らしていた家のキッチンをよ〜く見て欲しい。カウンターに何があるか。若い人はきっと、それが何かわからないものがあるはずだ。
 細長い黒っぽいものは本物の鰹節、それもおそらく極上の「本枯れ節」という熟成させた鰹節だと思う。そして細長い木製の箱は鰹節削り器。その上カンナ刃調整用木槌まであるのだ!
 あのおかかおむすびは

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花火と嫉妬

 処置が早かったため、犬養がクラゲに刺された箇所は赤い腫れが少し残っただけですんだ。夕食が終わると彼はボストンバッグから何かかさばった物を取り出し、それを高く上げた。
「ジャーン! 夏と言ったら花火っしょ!」 
「だからそんなに荷物が多かったんだな」
 秋臣の呆れ顔に、犬養は親指を立てて見せた。
「先輩、早くやりましょう! 智夏君もおいでよ」
いそいそと立ち上がった犬養が大きく手招きした
 「ここ

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