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人類が少し進化する記事

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#小説

軒先にて

軒先にて

 
 
 
 いつか返そうと思っていた人が、いつかの内に、いつの間にか自分の傍からいなくなっているなどと、ほんの少しも考えてもいなかった。

 変わらずに迎えてくれた古い家。それは、ちっとも変わっていないかに見えたのに、そんなことはありえなかったのだ、と思い知る。いや、変わったのは自分も同じなのだ。

 若い時分には考えもしなかった。まだ若く力強い両親が年老いて行き、いずれはこの世を去ってしまうな

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戦略的モラトリアム②

戦略的モラトリアム②

今思えば、なぜ朝に学校に行く気になったのか、今朝の僕自身を恨んだ。その後悔とは対照的なかごの中のご馳走を片っ端から片付けて、家につく頃にはもう僕の燃料は満タンになっていた。
家に着くと祖父母が怪訝そうな表情で僕を見る。
「学校はどうした。」
間髪いれずに答えなければ、祖父母に攻撃の余地を与えるので僕はとっさに答えた。
「早退。」
そう言うと、すぐに自分の部屋へエスケープする。その後どんな小言を言わ

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震災クロニクル(東日本大震災時事日記)3/12⑧

震災クロニクル(東日本大震災時事日記)3/12⑧

施設の事務所には職員数名、理事長、市役所の職員数人が何やら話している。

「まいったよ……」

市役所の職員がうなだれる。

「〇〇市議なんだけど、『俺の車はハイオクなんだから、入れられるところ捜せ』って職員に言ってきてさ。こっちの身にもなってくれよ……。」

結局はそんなものなのだろうか。特段驚きはしなかった。政治家なんてしょせん政治屋だろう。利権やらなんやら薄汚いものが薄い面の皮から透けて見え

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『壁』
我々には壁がある。貴方の壁とも言えるし、私の壁とも言える。この壁を取り払う方法は我々の中にある。だがまるで見当がつかない。壁のせいで貴方はこちらの作物を――私はそちらの水を飲むことができない。あげればいいのに。このままでは二人は滅ぶ。壁を作った我々の目的はいったい何だ?

犬の散歩してる時、親子とすれ違った。男の子が「こんにちは」と挨拶してくれた。「こんにちは」と返事をしたのだが声がかすれて出なかった。すると男の子が「返事なかったね?」と……。すまぬ!大人は突然話しかけられても声の準備が間に合わないことがあるんだよ。これマジです。すまぬ……未完。

[全文無料: 小さなお話 0.07] ハート泥棒にご用心♡

[全文無料: 小さなお話 0.07] ハート泥棒にご用心♡

[約2,000文字、3 - 4分で読めます]

その怪盗の名はKYというのだが、空気が読めないというわけではない。むしろ空気を読むのがうまいのだ。しかもこの怪盗は、そうやって読み取った空気を盗んで生計を立てている節すらある。

時代の空気を読むのがうまい怪盗は、ハート泥棒となって巨万の富を稼ごうと考えた。だが、結婚詐欺の同類だろうと思って、軽く見てもらっては困る。なにしろ巨万の富と言っても、それは

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