吉田 真以

パリ生活20年目のフォトグラファー。 日々の生活で感じたこと、出会った人々、日本とフラ…

吉田 真以

パリ生活20年目のフォトグラファー。 日々の生活で感じたこと、出会った人々、日本とフランスの違いなど。 四季折々のパリの日常スナップはインスタに載せています。

記事一覧

雨の日の赤い口紅

その日は細かい雨が降り続き、聞こえるのは雨音だけという静かな朝。 カフェの店内にはまだ他の客はいなく、ぼんやりと1人で眺めていた薄暗い街の景色。 その時ドアが開き…

吉田 真以
9日前

エクレアと旅行と人生と

先日L'Eclair de génieでレモンゆずエクレアを食べていた時のこと。 「パリへようこそ、マドモワゼル」とニコニコの笑顔で話しかけてくれた、隣の席にいた高齢の紳士的な…

吉田 真以
3週間前
3

パリを心から愛する人たちの共通点

長いパリ生活の中で出会ってきた人たち(知り合いでも、道で10分話しただけの人でも)と世間話をしていると、話の節々で見えたりする、その人のパリへの想い。 例えば、パリ…

吉田 真以
4週間前
4

会うことのなかった祖母から受け継いだもの

一昨年の秋に一時帰国した時、久しぶりに寝泊まりした実家の私の部屋。 私がパリに旅立った2005年2月のままのカレンダー、懐かしい勉強机、パステルカラーのカーテン。 あ…

吉田 真以
1か月前
5

日本人が道を聞かれやすい理由

先日、日本から旅行で来ていた友人が「パリの街を歩いていると時々道を尋ねられるのだけど、なんで外国人の私に聞くんだろう?もっと道に詳しそうなフランス人に聞いた方が…

吉田 真以
1か月前
3

恋の季節の探しもの

周りの空気にもピンクの色が溶け込みそうなほど、ピンクの花が咲き乱れる3月のパリ。 先日、道で40歳くらいのムッシューに声をかけられた時のこと。 「すみません、ちょっ…

吉田 真以
1か月前
2

アブサンと溶けた恋

隣の村の魔女が秘密の薬草を特別に調合したような味のする、クセの強いお酒アブサン。 思わず顔をしかめてしまう薬みたいな味だけど、不思議と数年に1度、急に思い出して飲…

吉田 真以
1か月前
1

パリの空き巣手口

数ヶ月前、19年のパリ生活で初めて遭った空き巣。 朝いつも通り家を出た時には想像もしなかった、四角くぽっかりと切り抜かれたドア。 見違えた姿のドアを見た時は、あまり…

吉田 真以
1か月前
7

香水に秘められた記憶

ここ10年ほどずっと、夜眠る時につけている「セロファンの夜」という名前のついたセルジュ・ルタンスの香水。 繊細で透明感のある金木犀が香る「セロファンの夜」をベッド…

吉田 真以
1か月前
2

東京、逆カルチャーショック

今まで数回しか訪れたことがなく、頭の中でふんわりと描いていた街、東京。 自分の目でちゃんと見てみたくて、1人で街を探検しに降り立った前回の一時帰国。 たぶんアニメ…

吉田 真以
1か月前
5

外国人として生きること

パリで1番美味しいバゲットを決める、毎年恒例のコンテスト「La meilleure baguette de Paris」。 長さや重さ、塩分量など細かい規定をクリアした100本以上のバゲットがパ…

吉田 真以
1か月前
3

「苦虫を噛み潰したような顔」をフランス語で

長い間フランス語の勉強をしていても、時々どうしても言葉にできず悩む時があって、例えば最近、フランス人の友人との会話中につまずいたのは「苦虫を噛み潰したような顔」…

吉田 真以
1か月前

自信がなさそうに聞こえる言葉

私がパリのファッションデザインの学校に通っていた頃、1番好きで得意だったのはテキスタイルの授業。 布のモチーフをデザインしたり、色の組み合わせを考えたりするのが大…

吉田 真以
1か月前
4

パリのバリスタはロマンチスト

柔らかく透き通るような光が、ふんわりと差し込むカフェのカウンター。 パレロワイヤルの庭園を行き交う人々を眺めながら、ゆっくり味わうコーヒー。 軽やかな笑顔で入っ…

吉田 真以
1か月前
3

ポジティブなカーナビ

先日、フランス人の友人の車に乗せてもらった時のこと。 ドライブが始まって、私が最初に聞いたカーナビのセリフが「次の角を左折して下さい。きっと上手くいきます!」 …

吉田 真以
1か月前
3

フランス人の目に映る日本語

数年前、日本語の小説を読んでいた時。 フランス人の恋人に「日本語の文章はどうやって読むの?」と聞かれ、上から下に、そして右から左に、と指で文をなぞりながら説明す…

吉田 真以
1か月前
5
雨の日の赤い口紅

雨の日の赤い口紅

その日は細かい雨が降り続き、聞こえるのは雨音だけという静かな朝。
カフェの店内にはまだ他の客はいなく、ぼんやりと1人で眺めていた薄暗い街の景色。

その時ドアが開き入ってきたのは、まるで昔の女優さんのように頭をシルクのスカーフで巻き、赤い口紅を塗った女性。
ぼんやり薄暗い店内で、赤いマットな質感の口紅と鮮やかな色合いのスカーフだけが浮かび上がるように美しく、しばらく目が離せなくなってしまう。
スカ

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エクレアと旅行と人生と

エクレアと旅行と人生と

先日L'Eclair de génieでレモンゆずエクレアを食べていた時のこと。
「パリへようこそ、マドモワゼル」とニコニコの笑顔で話しかけてくれた、隣の席にいた高齢の紳士的なムッシュー2人。
カメラを持っていた私が観光客に見えたのか「パリは楽しい? 何日くらい滞在しているんですか?」と聞かれたので
「はい、楽しんでいます。まだ、たったの19年ですが」と答えると大笑いの2人。

そんな会話から始ま

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パリを心から愛する人たちの共通点

パリを心から愛する人たちの共通点

長いパリ生活の中で出会ってきた人たち(知り合いでも、道で10分話しただけの人でも)と世間話をしていると、話の節々で見えたりする、その人のパリへの想い。

例えば、パリが嫌いだと口では文句を言いながら、でも他の街では生きられないパリジャンとか。 
モンマルトルで生まれ育ち、今もモンマルトルから出ることがほとんど無い高齢のマダムとか。

色々な人がいるけど、会話をしている中で、パリに対する気持ちに他の

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会うことのなかった祖母から受け継いだもの

会うことのなかった祖母から受け継いだもの

一昨年の秋に一時帰国した時、久しぶりに寝泊まりした実家の私の部屋。
私がパリに旅立った2005年2月のままのカレンダー、懐かしい勉強机、パステルカラーのカーテン。
あの頃とほぼ変わりなく保存された部屋に入ると、子供時代〜高校生までの様々な記憶がブワリと一気に押し寄せる。

スーツケースを開け、持ってきたワンピースをしまおうとクローゼットを開けると、そこには既にずらりと掛けられた複数の花柄のワンピー

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日本人が道を聞かれやすい理由

日本人が道を聞かれやすい理由

先日、日本から旅行で来ていた友人が「パリの街を歩いていると時々道を尋ねられるのだけど、なんで外国人の私に聞くんだろう?もっと道に詳しそうなフランス人に聞いた方がいいのに。」と不思議そうに言うので、それでどう対応したのか聞くと、地図で調べて教えてあげたそう。
「うん、きっとそれだと思うな」と言うと、首を傾げる友人。

これは私の個人的な意見だけど、フランス人に道を聞いて、その返事が正しい確率はたぶん

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恋の季節の探しもの

恋の季節の探しもの

周りの空気にもピンクの色が溶け込みそうなほど、ピンクの花が咲き乱れる3月のパリ。

先日、道で40歳くらいのムッシューに声をかけられた時のこと。
「すみません、ちょっと探してるんですけど、、、」
どこかお店かメトロを探してるのかと思って「何をお探しですか?」と聞くと、
「探しているのは結婚相手です」

全く想像していなかった返事に不意を突かれ、思わず笑ってしまう。
なかなか面白い、確実に相手の足を

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アブサンと溶けた恋

アブサンと溶けた恋

隣の村の魔女が秘密の薬草を特別に調合したような味のする、クセの強いお酒アブサン。
思わず顔をしかめてしまう薬みたいな味だけど、不思議と数年に1度、急に思い出して飲みたくなる「緑の妖精」とも呼ばれるこのお酒。

10年くらい前、当時の恋人と住んでいていたアパルトマン。 
その頃よく来ていたアブサンが豊富に揃った隣のカフェ。
私の中であの頃の思い出と深く結びついている薄緑のお酒。
あの頃。
骨まで溶け

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パリの空き巣手口

パリの空き巣手口

数ヶ月前、19年のパリ生活で初めて遭った空き巣。
朝いつも通り家を出た時には想像もしなかった、四角くぽっかりと切り抜かれたドア。
見違えた姿のドアを見た時は、あまりのショックに息を吐くのも忘れて、数秒間固まっていたと思う。

空き巣に遭い、荒らされた部屋を見て最初に感じたのは恐怖の混ざった怒り。 
夜中に警察に来てもらい現場検証が終わるまでの数時間、部屋に入れないまま被害状況を予測するだけの不安す

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香水に秘められた記憶

香水に秘められた記憶

ここ10年ほどずっと、夜眠る時につけている「セロファンの夜」という名前のついたセルジュ・ルタンスの香水。
繊細で透明感のある金木犀が香る「セロファンの夜」をベッドに入る時につけるようになったのは、この香水に添えられた物語を知ってから。

【セルジュ・ルタンスは、暑いマラケシュの街中から自宅に戻り庭で休んでいた。
いつの間にか空気が透明になり、
虫たちの話し声が聞こえ出し、
空には星の姿が映り始め、

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東京、逆カルチャーショック

東京、逆カルチャーショック

今まで数回しか訪れたことがなく、頭の中でふんわりと描いていた街、東京。
自分の目でちゃんと見てみたくて、1人で街を探検しに降り立った前回の一時帰国。
たぶんアニメやドラマを見て憧れ続けてた東京に旅行に行く外国人の感覚に似ていたと思う。

東京という大都市は全てが目新しく、でも同時にやっぱり懐かしく感じた母国の不思議な感覚。
数年ぶりに帰った日本では、いろいろな驚きや逆カルチャーショックの連続。

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外国人として生きること

外国人として生きること

パリで1番美味しいバゲットを決める、毎年恒例のコンテスト「La meilleure baguette de Paris」。
長さや重さ、塩分量など細かい規定をクリアした100本以上のバゲットがパリ中のパン屋さんから集まるこのコンテスト。

審査内容は味、香り、形、焼き加減、見ためなど細かく、優勝者に贈られるのは賞金と大統領官邸エリゼ宮の公式パン職人になり、パンを1年間納品するという栄誉。
パリの人

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「苦虫を噛み潰したような顔」をフランス語で

「苦虫を噛み潰したような顔」をフランス語で

長い間フランス語の勉強をしていても、時々どうしても言葉にできず悩む時があって、例えば最近、フランス人の友人との会話中につまずいたのは「苦虫を噛み潰したような顔」。

普段、日本語からフランス語に訳しながら話すことは無いのだけど、この表現は言い得て妙というか、言葉通り、私が伝えたい感情を完璧に表していて、それを他の言い方では(日本語であっても)とても伝えられないと思い、数秒のあいだ悩んで私が頼ること

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自信がなさそうに聞こえる言葉

自信がなさそうに聞こえる言葉

私がパリのファッションデザインの学校に通っていた頃、1番好きで得意だったのはテキスタイルの授業。
布のモチーフをデザインしたり、色の組み合わせを考えたりするのが大好きで、他のどの授業よりも熱心に取り組み、課題も最大限に頑張って、大変なことも多かったけれど私にとって1番の楽しみだった時間。

そのテキスタイルの授業を2年間担当してくれたタニア先生。
高い身長、ふくよかな体型、カールの強い赤毛に明るい

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パリのバリスタはロマンチスト

パリのバリスタはロマンチスト

柔らかく透き通るような光が、ふんわりと差し込むカフェのカウンター。
パレロワイヤルの庭園を行き交う人々を眺めながら、ゆっくり味わうコーヒー。

軽やかな笑顔で入ってきたムッシューがカウンターでエスプレッソを注文すると、小さな店内に広がるコーヒーの香り。
店員さんとの会話から、ムッシューが常連のお客さんだと分かる。
(オープンしてまだ間もないカフェなのに!)

「自分が昔バリスタの研修を受けていた頃

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ポジティブなカーナビ

ポジティブなカーナビ

先日、フランス人の友人の車に乗せてもらった時のこと。
ドライブが始まって、私が最初に聞いたカーナビのセリフが「次の角を左折して下さい。きっと上手くいきます!」

きっと上手くいきます?
え?応援された?と頭の中に浮かぶクエスチョンマーク。
しばらくするとまた「200m先を右折して下さい。大丈夫!自分を信じて!」
「次の信号を右折して下さい。あなたはとっても頑張ってる!素晴らしい!」。

全力で応援

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フランス人の目に映る日本語

フランス人の目に映る日本語

数年前、日本語の小説を読んでいた時。
フランス人の恋人に「日本語の文章はどうやって読むの?」と聞かれ、上から下に、そして右から左に、と指で文をなぞりながら説明すると、「あぁ、雨が流れるように上から下へ読むんだね」と言う。

雨が降るように文章を読む、なんて考えた事も無かったけれど美しい表現だと思う。

感化されやすい私は、それから雨も読書も、それまでの倍くらい好きになったように思う。