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読んでない本の書評

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表紙見て、あとがき読んで、数行目を通したら、だいたいわかる気がしてきた。 より深く理解するために、重さも測ることにする。
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#エッセイ

読んでない本の書評56「若きウェルテルの悩み」

読んでない本の書評56「若きウェルテルの悩み」

121グラム。質実剛健な装丁ながら1983年には岩波文庫が200円で買えたのだということに感動する。

帯にはこう書いてある。
 「『もし生涯にこの書が自分のために書かれたと感じるような時期がないなら、その人は不幸だ』と晩年、作者が語った永遠の青春文学。」
どうしてそんなに自信家なんだ。仕事もせず田舎で暇してたら結婚の決まっている女性を好きになり、追い回したあげく無理にキスしたところで感極まって

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読んでない本の書評54「四つの署名」

読んでない本の書評54「四つの署名」

116グラム。文庫とは思えないくらい凝った綺麗な装丁である、シャーロックホームズのロゴも、その下によくみれば印刷されている隠し数字も浮き上がった加工になっている。真っ青でつるつるした表紙を指でなぞるだけでなんとなく楽しくなる。

川端康成でなくても、雪国というものは一瞬でできあがるものだ。気付いたら世界が銀色だった。朝カーテンを開けて、「あーあ、昨日までなら自転車で行けたのになあ」と思う、真冬の始

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読んでない本の書評53「見えない都市」

読んでない本の書評53「見えない都市」

135グラム。マルコ・ポーロがフビライ汗に語って聞かせる都市の話。「枠物語」と言われるとちょっとうれしいのは「アラビアン・ナイト」のわくわくが脳内でBGM再生されるせいだろう。

目の前に魔法の絨毯を広げるように、不思議な都市が次々と立ち上がっては消えていく。読んで大変に気持ちの良い本なのである。ああ、なんてかわいらしいひとつひとつの祝祭、誰かこれを全部ジオラマにする人なんかいないものかしら…など

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読んでない本の書評52「ナイン・ストーリーズ」

読んでない本の書評52「ナイン・ストーリーズ」

168グラム。一話あたり18.666グラム前後だが、バナナがたくさん含まれる。

 まだライ麦畑でつかまりそうなくらいの年だったころ、その年頃にしては珍しくちょっと賢そうな男の子が同級生にいたのだ。
「アメリカの作家は好きだよ、サリンジャーとか」などと言ってるのを聞き、ほほお、と思った私は古本屋でサリンジャーを探しだして読んだ。
読み終わって、ふふうん、と思い、それきりちょっとばかり賢そうだった彼

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読んでない本の書評51「夏への扉」

読んでない本の書評51「夏への扉」

188グラム。もちろん中を読まずに、表紙の猫の後頭部を見つめる用途専用に使うのにも適している。

 自動掃除ロボットのルンバを見かけると、なんとなくいちおう値段をチェックしてしまう。購入を検討したことこそないが、「自分では買わないが、誰かが急にくれたらはしゃぐ」系家電のトップ10に入るのではないか。

 我が家は猫が二匹暮らしている都合上、とにかく掃除機をかけるのに手間がかからない部屋になってる。

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読んでない本の書評50「犬神家の一族」

読んでない本の書評50「犬神家の一族」

216グラム。またクリスマスイブにあたらしいドラマ化作品の放送があるらしい。この言葉を使うのは本当に苦手ではあるが、以下は一応どネタバレである。

 私が犬神家の一族に最初に出会ったのは縁日のお化け屋敷である。真っ白で不気味なマスクが入口付近に展示されていて恐ろしかった。そのときは単に手を抜いたお化けなのかとおもっていたが後に「犬神家の一族」を映画で見て、ルーツはスケキヨさんだったんだな、知る。み

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読んでない本の書評49「眼球譚」

読んでない本の書評49「眼球譚」

 98グラム。ちなみに眼球の重さは7グラム程度、鶏卵はMサイズ50グラム程度、牛の睾丸は200~300グラムくらいらしい(理解の難しいものは重さで把握するクセがついてきた)。

 タイトルを見ただけでも、読んで楽しい気分になるような本ではあるまい、と察してはいた。しかしページを開いてみると、楽しいとか楽しくないとかいう問題ですらなく、情景も浮かばないしそもそもなんだか分からない。
 高校生カップル

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読んでない本の書評48「猫語の教科書」

読んでない本の書評48「猫語の教科書」

151グラム。猫にとっては少し重いので私が読んでやるしかないのだが、人間にとって不利なことばかり書いてある魔の本。

 1980年代、鉄棒する猫というCMがあった。平行に渡した二本の鉄棒を前足でぶら下がって左右にぶらぶら揺れながら器用に前進していく白猫の姿をしばらく映した後「鉄棒する猫を見たら思い出してください」という岸田今日子のナレーションが入る。
 あのCMのすごかったところは、「鉄棒する猫を

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読んでない本の書評47「明智小五郎事件簿1」

読んでない本の書評47「明智小五郎事件簿1」

130グラム。いかな推理小説といっても、さすがに百年経たんとする古典なればネタバレとかいう当世風の罪状は不成立とさせてもらうよ、明智君。

「D坂の殺人事件」あたり読むのは何年ぶり何回目だろうか。
 最初は「太い棒縞の浴衣が格子の太さに一致するので、外にいる人はある角度からは白く見え、ある角度からは黒く見える」という、仰々しくも楽しいトリックと、そんな目くらましを提示しておいて「…なーんちゃって」

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読んでない本の書評46「キャロル」

読んでない本の書評46「キャロル」

234グラム。なかなかボリュームのある青春恋愛小説と思って読んでいたら途中からまさかの大陸横断ロードノベル。

19歳のテレーズと美人人妻キャロルの恋物語。
 巻末の解説によれば「『キャロル』が発表された1951年はマッカーシズムの赤狩り旋風が吹き荒れるまっただなかであり、同性愛者もまた、国家の人間の健康を心身ともにむしばむ、犯罪予備軍とみなされ、苛烈な弾圧を受けていた時代でした。」
 当初は別

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読んでない本の書評45「幽霊たち」

読んでない本の書評45「幽霊たち」

93グラム。世代が世代なのでニューヨークのゴーストと言えばろくろを回すもんだと思っている。

 読んでいると、少し羨ましくもなる。ある日突然ドアを開けて入ってきた謎の依頼者に、一人の男を監視する仕事を頼まれてみたい。ターゲットの真向いのアパートも手配済みなので、ただそこに移り住んで窓越しに見ていればいいだけだ。
ただし監視対象は机に向かって書き物をする以外にはほとんど何もしない。ひどく退屈なので

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読んでない本の書評44「ポラーノの広場」

読んでない本の書評44「ポラーノの広場」

261グラム。「風の又三郎」のちょっと見慣れないバージョンなんかも入っていてマニア向け重量級。

 宮沢賢治と言えば「春と修羅」の中の「ほんたうにおれが見えるのか」
という一行がやけに好きなのだが、そこだけ切り取って言っても何も伝わらないところがまた愉快。

 賢治については「自力で稼いでいた期間って5年くらいのものなのっ?」とか「生前の自費出版の費用ってあんなに生業を否定していた実家の財布から出

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読んでない本の書評43「潮騒」

読んでない本の書評43「潮騒」

113グラム。焚火を飛び越えねばならぬので。

 いい加減アイドル映画としてこすられ過ぎた後なのでさすがに陳腐化しているだろうというつもりで読み始めたら、ひさしぶりに読むミシマはやっぱり嫌みなほどうまかった。

 たとえば恋のライバル安夫が、我らが初江ちゃんを深夜に手籠めにしてしまおうとする場面。普段から自慢にして、女にもてるために持ち歩いている夜光腕時計のおかげでイザってときにハチに襲われみっと

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読んでない本の書評42「恐るべき子供たち」

読んでない本の書評42「恐るべき子供たち」

94グラム。ある地域に次々と危険な性質をもつ子供が生まれて一帯が大混乱におちいる怪奇小説かな、と思ったら意外にも結構おしゃれな小説。おまけに子供も出てこない。

 虚弱体質を理由に教育も途中でやめさせ、仕事もさせず保護者もないまま金だけ与えてぶらぶらさせておいたら恐るべき子供たちが仕上がった、と言われても、そりゃだいたいそうなるでしょう、と思うのではあるが、それはさておきサクマドロップの缶をひっく

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