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臀物語

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タイトルをしりとりで繋げる物語、です。 「しりものがたり」と読みます。 第1,第3,第5日曜日に更新予定です。 詳しくはプロフィールに固定してある「臀ペディア」をお読みください。
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記事一覧

厚底ブーツ

 当初の目的通り、油そばを食べる任務を終えた英一は、特にやることもなくなってしまい手持ち無沙汰だった。
 それでもこのまま帰るのは忍びない。どうしたものかと駅前をさまよっていると、何やら見たことがある人影が。
 英一は彼に近づいて声をかけた。
「大菅くん?」
 突然声をかけられた圭祐は、飛び上がって驚いた。
「わあ、九十九くん。」
「ごめん、突然声かけちゃって。」
「いや、全然。」
 圭祐は首を横

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メンタルケア

 子供の頃は春休みに夏休み、それに冬休みとほとんど季節ごとに休みがあった。
 最近は8月の最期の方には学校が始まるところも多く、時代は変わってきているわけだが、それでも1カ月近く休みがあることに変わりはない。
 その中でも特にすごいのが大学生である。
 冬休みが二週間ほどに、春休みと夏休みは二カ月ずつ。正味学校が通常通り稼働しているのは7カ月ちょっとの期間だけ。
 しかも当然のことながら大学は義務

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湯冷め

 お役所仕事にももちろん繁忙期はある。
 人が移動することが多くなると、その分、役所での手続きも増える。その結果として、忙しくなるのだ。
 残業すれば、その分は給料として反映されるため、いわゆるブラック企業よりはいいかもしれないが、それでも大変なことには変わりない。
 そんな残業続きからか、石嶺は最近あまりジムに通えてなかった。
 それなりに仕事は忙しいが、行く時間がないわけではない。しかし、忙し

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ラー油

「お待たせしました、こちら油そばになります。お暑いのでお気を付けください。」
 タオル鉢巻をした若い男性店員は、カウンターの上に油そばを置きながらそう言った。
「ありがとうございます。」
「卓上のトッピングはご自由にお使いください。ごゆっくりどうぞ。」
 そういうと、店員は湯気立ち昇る調理場へと戻っていった。
 英一は細心の注意を払いながら、カウンターの上に鎮座している油そばをゆっくりと机の上にお

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銘柄

「ふうー。」
 高森は自販機でコーヒーを買うと、深いため息をついた。
「いただきます。」
 こうやって気分が落ち込んでいる時こそ、しっかりと感謝を口にする。高森は昔からそう決めていた。
「はあ、美味しい。」
 疲れていつもより少し弱った体にコーヒーが沁み渡る。
 高森は宙を見つめながら、ただただ黄昏ていた。
 誰かが自分の名前を呼んでいる気がする。
「…もり。高森、高森!」
「はい!」
 自分の名

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寸止め

「はあ、疲れたあ。」
 いつも通り、公民館での練習を終えた真壁はそう呟いた。
「ああ、確かに。真壁さん、最近お休みされてましたもんね。」
 清志も着替えながらそう答えた。
「そうなんだよ。え、下手したら一カ月ぶりくらい?」
「え、そんなになります?」
「うん。年初めの練習は来たけど、そっから休んでたもん。」
「あ、そうなんですね。なんかあったんですか。」
「いや俺な、今年成人式なんだよ。」
「あ、

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マンモス

 一日の駅の乗降客数を調べてみると、ここが多いのか、と知ることができる。
実際その駅に行ってみたことがあれば、ああなるほど、と納得できるかもしれない。
といってもあまりの人の多さを実感するだけで、その具体的な人数が把握できるわけではないが。
そしてさらに驚くべきことに、世界の乗降客数のランキングを調べてみると、なんとトップ8くらいまで日本の駅が占めているのだ。
つまり、日本の上位8駅が、世界の上位

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ゲーマー

 学生の時分はどうにもお金がないもので、いざファミリーレストランに赴いても、フライドポテトの一番大きいサイズを一つと、あとは人数分のドリンクバーだけで数時間粘ってしまうものだ。
 店側からすればあまりよろしくない状況だが、バイトなどからすればそれほど問題はない。
 ただ中には騒ぎ出す者たちや、コップやお皿などを割ったりする不届き者もいるので、そういう時は静かに注意をする。
 相手も所詮は学校帰りの

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指輪

 社会人ともなると、冬休みとは一言で言っても勤続年数や業種によっても様々である。
公的な仕事であれば年末年始はそれなりに休みが取れることが確約されているが、サービス業に従事していれば、むしろ書き入れ時であるその期間は休みなく働かなければならない。
では学生であればどうか。
一般的に大学生なんかは夏休みと春休みがそれぞれ二か月近くあるため、冬休みはそれほど長くはあるまい。
しかし小学生や中高生ともな

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ルージュ

 会社勤めというのは大変である。
 朝早い時間に目を覚まし、全身を押しつぶされそうになりながら満員電車に乗り、職場へと向かう。
 仕事に時間ともなれば、営業で各地を飛び回り、それで仕事を取ってこれることもなかなかなく、会社に戻れば上司に絞られる。
 そんな人たちからすれば、自分の都合で働くことができ、ある意味給料だって青天井な自営業はどれほどいいものか、とあこがれるだろう。
 しかし隣の芝生は青く

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メモリアル

 1月も半ばとなると、当たり前ではあるがすっかりお正月気分も抜け、最早普段と変わらぬ日常である。
 役所というのは年末年始の三日ずつ、合わせて六日しか休みがない。
 もちろん世の中を見れば、大晦日も元日も、変わりなく働く人もいよう。しかし同じように世の中を見れば、休みを合わせて10連休なんて人もいる。
 まあそんな話も、もうこの時期になれば関係ない話なのだが。
 もうすっかりお正月モードも抜けてい

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ウミガメ

 勇樹と陽介は今日は連れ立って英一の家に向かっていた。
 英一から誘われた時点で、勇樹はてっきり例のレトロゲームのうちの何かをプレイするのかと思っていたが、どうやら今日はそうではないらしい。
「てっきりゲームかと思ったんだけどな。」
 勇樹は少し残念そうに呟いた。
「まあまあ。ゲームはいつでもできるじゃん。」
「いやいや、英一が持ってるゲームはそんじょそこらじゃプレイできない代物ぞろいだぞ。」

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印象

 サークル飲みやゼミ飲みなど、大人数で飲む際にはやはり居酒屋の方がいいことが多く、また学生だけだったりすれば、チェーンの居酒屋の方が値段も手ごろだし、いい。
 しかし、気心が知れた仲間だけで、それこそ少人数だったりすれば、宅飲みという選択も悪くない。
 家主さえ許せば時間の制限もなく、居酒屋でついつい頼んでしまうことに比べれば財布にも優しい。
 学生の住める安宿では部屋と部屋の間の壁が薄く、あまり

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置き配

 お昼休みを迎え、石嶺はいつもと同じ色の袋に包んだ弁当箱を持ち、休憩室へと向かった。
 元来、凝り性な石嶺は一度こだわりだすと止まらないタイプで、また意志も強いタイプだったため、今でもくじけずに筋トレに励んでいた。
 休憩室に着き、空いている席を見つけて座る石嶺。ゆっくりと包みを開くと、そこにはいかにも健康を意識しているメニューが。
 筋トレなどと無縁な人間からすれば味気ない弁当に見えるが、石嶺に

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