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美術せんにんの記録

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点描画が増えてきた!?「改組 新 第10回日展」

点描画が増えてきた!?「改組 新 第10回日展」

芸術の秋ということで、今年も日展の季節になった。
さて、今回はどんな素晴らしい作品に出会えるか。

日本画部門

この方は3回連続。特徴的な画風なので、すぐ目に留まってしまう。もはや殿堂入りか。加山又造っぽいところがあるので、琳派のように金箔・銀箔をふんだんに使った作品も見てみたい。

花の絵は、日本画の伝統を踏襲しているのだが、色の重ね方で奥行きを出しているところが印象的。色も重くならずに軽さが

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享楽とその影~「フレンチ・カンカン」「モンパルナスンの灯」

享楽とその影~「フレンチ・カンカン」「モンパルナスンの灯」

エコールドパリという絵画のジャンルがある。
20世紀初頭のパリに各国から集まっていた芸術家たちとその作品を指していて、ロートレックやピカソ、ユトリロ、キスリングといった名があがる。
彼らが集まっていたパリのモンマルトルには、今も続くムーランルージュというキャバレーがある。
その誕生を描いた作品が1955年の「フレンチ・カンカン」だ。
だいぶ脚色・創作されていると思うが、監督はジャン・ルノワール。同

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線が躍動している~五島美術館「古今和歌集を愛でる」

線が躍動している~五島美術館「古今和歌集を愛でる」

大型連休中はちょいと都心から離れた美術館へ。二子玉川にある五島美術館に訪れた。でもここもそこそこ混んでいたけれど。

ここが所蔵する書の作品は実に名品揃いなのだ。
まず出迎えてくれたのがこちら。

線は全体的に細めでところどころ太い箇所がアクセント。うねりも乏しいがそれが故に上品でまとまった印象を与えてくれる。このまとまり加減がとても好きなのである。

そして自分が一番好きなのが、三蹟の一人である

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三菱と三井のおひなさま

三菱と三井のおひなさま

少し時期が過ぎてしまったが、今回は二つの財閥のおひなさまを鑑賞。

三井記念美術館のおひなさまは毎年この時期に展示されているのだが、正直あまり関心がなかったこともあり、これまで足を運ぶことはなかった。それが先日、丸の内に新しくオープンした静嘉堂の展覧会である人形師の作品を見てから、俄然興味をもつようになったのである。
それがこちらの展覧会である。

今年初めに開催していた「初春を祝う 七福うさぎが

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淡い色彩の裏には強い信念あり?~Bunkamuraザ・ミュージアム「マリー・ローランサンとモード」

淡い色彩の裏には強い信念あり?~Bunkamuraザ・ミュージアム「マリー・ローランサンとモード」

マリー・ローランサンというと、ずいぶん昔まだ美術鑑賞し始めたころによく目にした画家のひとりというのが自分の印象。その後はあまり展覧会では目にすることが多くなかったのはなぜだろう。狂乱の時代のパリで活躍した画家たちの一人なのだが、フジタ、ピカソ、モディリアーニなどと比べるとなぜか影が薄い気がする。

あの特徴的な淡い色彩が、なんとなく乙女趣味で当時のパリの雰囲気にもそぐわない気がして、自分の中でもど

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がんばれ日本画!「改組 新 第9回日展」

がんばれ日本画!「改組 新 第9回日展」

今年も日展の季節になり、さっそく足を運んできた。

毎年このチラシを貼っているけど、相も変わらず。。次回からはもういいかな。

それでは、日本画部門・洋画部門それぞれで目に留まった作品を5点ずつ紹介していきたい。結果的にいずれもプロの方ばかりになってしまった気がする。

日本画部門

2003年と2008年の特選受賞者ということで、もはや大家の画家である。ということを後で知ったわけで。
水面や岩肌

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死生観と信仰~「アンディ・ウォーホル・キョウト」

死生観と信仰~「アンディ・ウォーホル・キョウト」

京都で開催中のアンディ・ウォーホルの展覧会に行ってきた。
関東圏に巡回するか分からなかったので、久々に京都まで足を伸ばしてみた。

ウォーホルの展覧会は8年前に東京でも開催されている。
当時の感想としては、キャッチーだけどなんだかよくわからないなあというものだったと記憶している。

今回の京都での展覧会は、当時と重なっている展示作品も少なくないようなのだが、コンセプトがかなり明確であった印象である

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疲れた頭を癒す眼福~東京国立近代美術館「MOMATコレクション」

疲れた頭を癒す眼福~東京国立近代美術館「MOMATコレクション」

ゲルハルト・リヒター展鑑賞後、もう一つの楽しみが常設展であるMOMATコレクション。
今回出会えた、お気に入りを紹介していきたい。

国吉康雄、好きなんだよなあ。
若くしてアメリカに渡り、一時はアメリカの美術界の第一人者にも昇り詰めるが、太平洋戦争勃発が彼の活動に影を落とす。本作はそんな頃の作品なのだが、彼の心情が投影されて物語性に富んだ見ごたえのある仕上がりとなっている。

国吉が苦悩していた数

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ただ「見る」そして「己に問う」~東京国立近代美術館「ゲルハルト・リヒター展」

ただ「見る」そして「己に問う」~東京国立近代美術館「ゲルハルト・リヒター展」

東京国立近代美術館で開催している「ゲルハルト・リヒター展」へ行ってきた。当人のリヒターは御年90歳、いまだ現役の現代美術の巨匠である。
自分自身、苦手な現代美術であるが、現代美術のポイントを以前学んだこともあり、作品に向き合ったときにどう受け止められるかを確認する意味でも足を運んだ。

↑でも紹介したとおり、現代美術(の多く)は、描き出されたものがら自体に意味はない。それは一切の具体性を排除し線や

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日常に潜む不安定さ~「牧歌礼讃/楽園憧憬」

日常に潜む不安定さ~「牧歌礼讃/楽園憧憬」

5月も半ばを過ぎ、バラでも愛でに行こうと思った矢先の大雨。
急遽行先を変更して訪れたのが、東京ステーションギャラリー。正直あまり期待していなかったのだが。
「牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児」

いやいや、ここの美術館の学芸員の眼力には恐れ入る。危うくこんな素晴らしい展覧会を見逃すところであった。

もともとは海外美術館からの借り入れを想定していた展覧会が、コロナ禍で見送りとなっ

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自分の絵画鑑賞の(ほぼ)原点~松岡美術館「松岡コレクションの真髄」

自分の絵画鑑賞の(ほぼ)原点~松岡美術館「松岡コレクションの真髄」

この度約2年半の改修期間を終えて、再開館した松岡美術館に行ってきた。

展示の様子はこちらの動画でよく分かるだろう。

自分にとって松岡美術館はとても思い出深い美術館である。
美術鑑賞を始めるようになったばかりでまだ鑑賞のポイントも全く分かっていなかった頃、よくこの美術館に足繫く通ったものだ。

今回の展示にはなかったが、西洋美術のコレクションも充実しているのでだ。特に印象派とエコールドパリと言わ

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言われてみればセザンヌらしさも~山種美術館「奥村土牛」

言われてみればセザンヌらしさも~山種美術館「奥村土牛」



山種美術館ファンであれば誰もがその作品を目にしたことのある奥村土牛。
今回彼の個展であったが、改めてみるととても新鮮な発見があった。

彼は若いころ当時の師匠に買い与えられたセザンヌの画集を見て、強く影響を受けたという。
そう言われてみると、特に若いころの作品に色濃く表れているように見えた。

「雨趣」(1928年・39歳)
建物と緑とが、とても堅牢に画面を構築している。雨を主題としていること

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現代美術は”美術”か?~「西洋美術の歴史8」

現代美術は”美術”か?~「西洋美術の歴史8」

「西洋美術の歴史」シリーズも最終巻、20世紀まできた。

20世紀美術で自分自身一番わからないのが、「現代美術」「抽象画」の扱いである。これはどのように向き合えばいいのか分からないでいたのだ。

画家たちが絵画を制作する目的について、本書では以下のような記述をしている。

彼(アルフレッド・H・バー・ジュニア)の見解によれば、絵画の主たる価値は、色彩、線、明暗という造形手段の後世にある。自然の対象

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この画家を知れた喜び~平塚市美術館「物語る 遠藤彰子展」

この画家を知れた喜び~平塚市美術館「物語る 遠藤彰子展」



同時代にこんなスケールの大きな日本人作家がいたとは。
ほんとに「オラ、わくわくすっぞ!」である。
なんのこっちゃ。。

遠藤彰子という画家をご存じだろうか。

ご本人のサイト、とても親切で過去の作品を多くアーカイブして下さっている。これはこれで眼福なのだが、彼女の作品はこれだけでは足りない。
最大1500号!という巨大な作品を目の前にして、文字通り平衡感覚が揺らぐ体験をしてこそ

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