記事一覧
友人の告白【5分で読める短編小説(ショートショート)】
ある日、僕は大学時代の友人から呼び出された。
待ち合わせ場所に彼女と一緒に現れた友人は学生時代の話を始めた・・・
「俺が通ってた小学校って、田舎だから一クラス14人しかいなかったんだよ。だから幼稚園から中学までみんな同じクラスで全員家族って感じ。
でも一人、知的障害の同級生がいて、中学入っても一人だけ小学校の勉強してて、おまけに貧乏だったから皆から仲間はずれにされて、いじめられてた・・・。
記念日はカレーの日【5分で読める短編小説(ショートショート)】
エレベーターを降りると、カレーのニオイが鼻孔をくすぐった。
『今日の夕飯はカレーだ!』心の中でそう言うと、小躍りしながら廊下を急いだ。
妻のカレーはスパイスから作るオリジナルカレー。すぐに妻のカレーだと分かる。ちなみに僕の大好物だ。
しかし、手間暇に加えお金がかかるため、誕生日や結婚記念日など、何かの記念日にしか作ってくれない。
「ただいま~!」
いつもより1オクターブ高い声になっている
コンビニが世界の全ての私が恋に落ちるまで【5分で読める短編小説(ショートショート)】
高校を卒業後、都内のアパレルに勤務した私は、月50時間を超えるサービス残業と上司によるパワハラに耐えられず、わずか半年で退社した。
次の就職先が見つかるまでの「繋ぎ」として、コンビニでアルバイトを始めたけど、何もしないうちにあっという間に一年が経過してしまった。
自宅から徒歩3分の距離にあるコンビニ。出勤時間の30分前に起き、5分前に家を出る。昼の1時間休憩では50分自宅で過ごし、その内30分
ひみつ【5分で読める短編小説(ショートショート)】
いつか言わなければと思っていながら、なかなか言い出せず、結果的に「ひみつ」になってしまうことがある。
私と妻は20数年前、お互い小さな子どもを連れて再婚した。
私の子どもは当時、ニ歳半の男の子。妻の子は一歳半の女の子だった。妻も私も元パートナーの浮気が原因で離婚した。
つまり、妻は息子の本当の母ではなく、私は娘の本当の父ではない。
無論、息子と娘も血の繋がった本当の兄妹ではない。
しかし
親友とファミレスで【5分で読める短編小説(ショートショート)】
枕元に置いてあるスマホが振動し一通のLINEが届いた。
時計の針は既に0時を回っており、明日も早いので既読を付けることなく再び目を閉じた。
しかし、再びLINEが届き、仕方なくLINEを開くと彼女からだった。
『起きてる?』
『大事な話があるんだけど・・・』
胸騒ぎがしたが、直ぐに『起きてるよ。どうかした?』と冷静な振りをしてメッセージを送信すると直ぐに既読が付いた。
彼女とは付き合っ
動き出した時計【5分で読める短編小説(ショートショート)】
ある日、滅多に鳴ることがなくなった自宅の電話が鳴り、その瞬間、私たち夫婦の未来が止まった。
休日であれ、仕事の電話なら携帯に掛かってくる。
普段ならば何も思わない電話も、あの日は何故か胸騒ぎを覚え、受話器を握る手が汗ばんだのを覚えている。
「はい、富田ですが」
震える声で電話に出た。
「●●警察ですが、息子さんが・・・」
それ以上は記憶がなく、気が付いた時には霊安室のベッドで横たわる変
最後のお弁当【5分で読める短編小説(ショートショート)】
離乳、オムツ、おしゃぶり・・・
子育てをしていると、何度も「最後」の瞬間が訪れ、その度に息子の成長を実感し、嬉しい反面、寂しさがこみ上げてくる。
ずっと私たち両親のことを「パパ」「ママ」と呼んでいた息子が、小学校3年生の時、なんの前触れもなく、ある日突然「お父さん」「お母さん」と呼びだした。
嬉しい反面、ちょっとだけ寂しく、気恥ずかしさを感じたのを覚えている。
そして、気が付いたら自分の事
暗闇にさした光【5分で読める短編小説(ショートショート)】
一年ぶりに浴びた日の光は眩しくって痛かった。でも・・・あの日、止まってしまった僕の時計の針は、ゆっくりとまた動き出した。
高校を半年で中退した僕は、その日から「ひきこもり」になった。
原因はイジメでも成績不振でも失恋でもない。
誰ひとりとして知らない世界に、突然放り込まれたことで、精神が追い付かず、ある日の朝、なんの前触れもなく部屋から出られなくなってしまったのだ。
最初の数回は「具合が悪
タバコの煙が目に沁みる【5分で読める短編小説(ショートショート)】
田舎の母からダンボールが届いた。
箱を開けると、中には野菜や米、油や醤油、シャンプーなどが入っている。
男の一人暮らしに「油」は母が思っている以上に必要ない。実際、台所には封を切っていない油のボトルが10本以上並んでいる。
油だけではない、母から送られてくるダンボールも山積みになっていた。
何度言っても毎回送ってくるので、ボケてしまったのかと心配になったこともあるが、どうやら違ったみたいだ
家族とファミリー【5分で読める短編小説(ショートショート)】
今日、僕は親になり、かけがえのない「家族」が増えた。
僕は高校を卒業するまで施設で育った。
施設内には様々な理由で親元を離れて生活をする子どもたちがたくさんいたが、「親が誰なのかすら分からない」のは僕だけだった。
それもそのはず、僕はまだ新生児だった時、へその緒がまだ付いた状態で「赤ちゃんポスト」に置き去りにされていたらしい。
戸籍も名前すらもない状態で「捨てられた」僕は一体、誰なんだろう