マガジンのカバー画像

ドキュメンタリー

9
経験したことや、身の回りで起こったことを様々な視点でリアルに書きつづる記事です。
運営しているクリエイター

記事一覧

50代ランナーの伸びしろ

50代ランナーの伸びしろ

「あと2km」の標識が見えた。沿道の声援が大きくなる。もう手を振る力は残っておらず、前を向いたまま口角を広げて笑顔をつくった。

ほんの少し前までは早く終わりたいと思っていた。右足の腿裏の筋肉は今にもピキピキと痙攣を始めそうだ。

でも声援は気持ちを高ぶらせてくれる。ゴールは近い。万一足がつっても何とか足を動かせるはずだ。ラストスパートに向けて再び身体を前に傾けた。

ネガティブスプリット

20

もっとみる
笑顔のチカラで走る

笑顔のチカラで走る

頭上で大きな声が聞こえた。私の名前が呼ばれている。

「〇〇さん、頑張ってー!」

見上げると歩道橋の上から、赤いマリオの帽子を被った人が私に大きく手を振っている。私は右手を挙げた。

スタートして1時間半。18km地点のJR舞子駅を過ぎたあたり。歩道橋の下を一瞬で走り抜けた。声を掛けてくれた人の視線を背中に感じながら、自分はきちんと笑顔を返せただろうかと気になった。

神戸マラソン

2万人が参

もっとみる
未来の稜線

未来の稜線

振り返ると、歩いてきた山々が広がっている。

足元の赤い屋根の白馬山荘から、ところどころに雪渓が残る緑の稜線に沿って白い道が延び、山と山をつないでいる。手前は昨日歩いた杓子岳と鑓ヶ岳。その次にあるはずの唐松岳は隠れて見えなくなってしまった。

ここは北アルプスの白馬岳。標高2,932mの山頂だ。奥には猫耳の形をした鹿島槍ヶ岳の双耳峰。さらに遠くには北アルプスの盟主、槍ヶ岳から穂高連峰。左に目を移す

もっとみる
雪の稜線で人生を眺める

雪の稜線で人生を眺める

雪山を歩くとその雄大な景色に圧倒される。

紺碧の空を背に、白い稜線が太陽の光を浴びて輝く。稜線は目指す場所に向かってうねうねと続いている。一歩づつ進むうちに自分は風景の一部になる。

人生というものを少し遠くから眺めることができたら、こんな感じなのかもしれない。

夜明け前

6:00。12本爪のアイゼン、ピッケル、ヘルメットなど、身につけた装備を確かめてテントを出た。今日の日の出時刻は6:57

もっとみる
走ることは旅に似ている

走ることは旅に似ている

明日はどんな旅になるだろう。

不意にそんな言葉が頭に浮かんだのは昨夜のこと。何かわくわくするような気持ち。

フルマラソンの前夜にそんな気分になるのは初めてだ。いつもなら複数の不安が心の隙間に入り込んで、そわそわして落ち着かなくなる。

でも昨日は違った。

右足のかかとの痛みはランニングフォームの改善で気にならなくなった。(関連記事:走りながら、ととのえる|tomo|note)

左ひざの内側

もっとみる
山に登ることは意思決定の積み重ねだ

山に登ることは意思決定の積み重ねだ

独りで雪山に登るという行為は判断の連続だ。

自然条件、装備、自分の力量と意欲を客観的に眺めてみて、進むのか、引き返すのか、右か左か。次の一歩の意思決定を積み重ねていく。

山に登る目的は人それぞれだと思うけれど、自分にとっては「達成感を得る」ことだと思っている。目標は「無事に還ってくること」。達成感は大きい方がよいが、自分の身の丈を越えてリスクテイクすると還ってくることが難しくなる。だから意思決

もっとみる
虹の橋からの手紙

虹の橋からの手紙

僕の名前はぴぴ。
生まれたのは今から5年前。ペットショップの小さな鳥かごで同じセキセイインコの友達と一緒にいたのを覚えています。僕より少し遅く生まれた子が泣いてばかりいたので、身体を寄せて温めてあげたりしていました。鳥かごはヒーターがついていて暖かいのですが、生まれたばかりの子は「人肌」があるととても気持ちが落ち着くのです。

その頃、毎日のように鳥かごをのぞきに来る女の子と男の子がいました。僕と

もっとみる
あいつは37km地点にやってきた

あいつは37km地点にやってきた

あいつはいつも突然やってくる。
足の筋力と思考能力をおとろえさせ、走る意欲をまる切りそいでしまうやつ。

今回は来ないのではないか。ちらりとそんな期待がよぎったのは30km地点。そこまで順調だったからだ。

「甘かった」と気づいたのは 37km地点だ。

スタート

3月27日(日)。快晴。予報では最高気温は 20℃を上回るらしい。風は少し強めで 4m/秒くらいだが間もなく落ち着くはず。今日のポイ

もっとみる
人生の交差点 涸沢カール

人生の交差点 涸沢カール

山小屋の売店で缶ビールを買ってテラスのテーブルについた。タブを開けると心地よい音が鳴った。炭酸の刺激が喉を通り過ぎる。私は大きく息を吐いた。

山を見つめる人

5月の涸沢。雲一つない青空と、真っ白な雪面。サングラスなしでは目も開けていられないまぶしさだ。

見上げると、登ってきたばかりの山が見える。疲労と高揚感が身体に残っている。今日のうちにテントを片付けて上高地まで下山し帰路につく予定だったが

もっとみる