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排泄運動

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日常の速記。食べて、咀嚼して、排泄する。
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自分のために書けと友は言う

自分のために書けと友は言う

先日、最近仲良くなった女友達の家に遊びにいった。泊りだったので、夜から銭湯に連れだって行くことに。行きはわずかな小雨だったが、帰りは見事などしゃぶりだった。ビーサンの隙間に雨の水が入り込む。Tシャツが湿り気を帯びる。それは銭湯にいってきたという事実を無に帰すようなことだったが、なぜだか生きているという感覚がしたので、それだけで充分だった。

女友達との会合は気楽でよい。ままならない仕事のこと恋愛の

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平和がいちばん

平和がいちばん

ふと亡くなった佐野さんのことを思い出したのは、今日が原爆の日で終戦記念日も近いからかもしれない。

佐野さんは私が勤めるデイサービスに通所していた。昭和2年生まれ。私が出会ったときは90歳ちょっと手前。デイサービスの誰よりも年長者であることを誇りに思っていた。

佐野さんは腰がすごく曲がっていて、いつも前かがみで杖をついて歩いていた。後ろから見ると首無しおばけみたいで、数歩進んでは時々、周囲を見渡

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意味ない仕事するくらいなら切腹したい

意味ない仕事するくらいなら切腹したい

或る人に「あなたは仕事に意味を求めすぎている」「仕事に意味をつけるのは自分だ」という正論を訥々と聞かされて、久しぶりに心のHPポイントがゼロになった。ここで試合終了のゴングが鳴る。

私は世の中の大半の仕事ができない。今も昔も自分の経験に根差して「これは自分または社会に絶対に必要だ」と思えることしかどうしてもできない。文明が無闇に進むのは反対派で、先住民の暮らしにずっと憧れていた。資本主義の発展に

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元恋人の話、取り扱い注意にて

元恋人の話、取り扱い注意にて

「あなたってよく元恋人の話をするよね」と最近親しくなった人に言われて、一瞬考えこんだあと、そりゃそうだわと思った。20代の大半を共に過ごし、良くも悪くもたくさんの影響を受けてきたわけだから、私の話をしようとすると必然的に元恋人の話が出てきてしまう。

生きづらい世の中であることは分かってはいたけれども、どう生きれば分からなかった頃、インドをふらふら旅をしていて出会ったのが元恋人だった。当時幼かった

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同棲の終わり、ペットの忌引

同棲の終わり、ペットの忌引

同棲の終わり、ときいて思い出すのは西日が射す空っぽになった部屋に2人で横たわっていときのこと。その頃の私にはすでに泣き叫ぶ体力なんて残っていなくて、元恋人の胸に顔をうずめて静かに涙を流すだけだった。ずっと私を安心させてきたこの匂い。

冬の日の入りは早く、部屋がだんだんと暗くなる。もうこの家には照明すら残っていなかった。夜の気配が漂う玄関先で、これまでもそうしてきたように、彼にハグとキスをして私は

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夢は忘れた頃に叶う

夢は忘れた頃に叶う

2008年、当時18歳だった私は地球の裏側のアルゼンチンの愛に溢れた家庭で多感な時期を過ごした。

いつまでもラブラブな両親と三つ子のように仲良しな兄弟(上から女17・男16・男15)、それから大きな黒いラブラドールと小さい三毛猫というのが、その家族の構成だった。それに日本からやってきたスペイン語も喋れない私。

それだけでも充分賑やかなのに、家の扉はいつでも開け放たれていて、夕方になると親戚やら

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イカダから流されて溺れる話

イカダから流されて溺れる話

昔から「イカダで溺れ死ぬ」という謎の妄想に取り憑かれている。3人でイカダに乗っていて、私ともうひとりが落ちたときに、私じゃない方のひとりは手を握ってもらって助かり、私は激流に流されて溺れ死ぬというものだ。

何が言いたいかというと、私は友人やご近所仲間や同僚やその他たくさんの人に愛されて生きている自覚はあるけれども、危機的状況に置かれたときはみんな家族やパートナーを優先的に助けると思うので、私の手

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風邪と永続可能な関係性

風邪と永続可能な関係性

風邪をひくと世界でひとりだけ取り残されたような気分になる。

体調を崩したその日、私は車いすのおいちゃんの受診同行をしていてた。病院の入り口で検温があって、おいちゃんは何ともなかったけれども、私は37℃以上あったので隔離されてしまった。診察だけ同行して、おいちゃんの健康に何も問題ないことだけ確認した。診察室の去り際に「職員さんも頑張ってくださいね」と看護師さんから声をかけられた。帰りの車中でおいち

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30歳になった私が『街の上で』をみて感じたこと。

30歳になった私が『街の上で』をみて感じたこと。

街の上で今泉力哉監督の『街の上で』を見て、下北沢にはもう私の帰る場所はないと改めて悟った。今泉監督作品ならではの独特のテンポの群像劇が面白かったのはもちろんだが、何よりやられたのはあまりにもリアルすぎる下北沢のあの空気感だった。

画面では20代の役者さん達が焦燥不満絶望葛藤根拠のない自信を持て余しながらも、眩いほどにきらきらと輝いていた。全員あの街のどこかで会ったことがあるような気がして何だか懐

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愛とは「見えてるよ」と伝えること

愛とは「見えてるよ」と伝えること

結局このところのもやもや病の正体は自分が必要だと信じてやってること(ホームレス支援&シェアハウス運営)が、資本主義的価値観のなかでその価値が可視化されににくく、また現場での自分が使い捨て要員のように感じること。そして、そのことによって、漠然とした将来の不安に侵されたり、なぜかやってることへの自信まで奪われてしまっていたことだと気がついた。要は自分が心身削って取り組んでいることが、尊重されていないと

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博愛主義だなんていえない

博愛主義だなんていえない

救命救急の待合室で救急車で運ばれた81歳の奥さんの延命措置の選択を迫られている旦那さんをみている。数分おきに深いため息をつく彼の背中を見守ることぐらいしか私にはできない。

職業柄、突然の別れとか延命措置の選択とかお看取りとか何度も経験するけど慣れることなんかなくて、毎回身を切られるように辛い。それなのに、市井の人は親や伴侶でその辛さをいきなり経験するんだと思うと、さぞかし焦るし苦しいだろうと思う

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もう誰も死ぬな

もう誰も死ぬな

もう両手では数切れれないほどの死別を経験したけれども、どんなにベストを尽くしたとしても、遺された側は必ず「あのときああしてれば、こうしてれば」が残る。私に出来ることは限られていて、人を救うことなんて出来ないと頭では分かっている。だけど、心は正直で訃報が入った瞬間は背中をナイフで刺されたような感覚がする。確かにあったはずの楽しかった思い出も、その一瞬はすべてが哀しみで打ち砕かれる。人の死の前で私は無

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仕事じゃない仕事を大切にしたい。

仕事じゃない仕事を大切にしたい。

ナースコールで呼び出されたので、Kさんの部屋に駆けつける。十中八九なんともないのだけど、なんかあったら嫌だからとりあえず階段を駆け上がる。

部屋につくとKさんはすっかり癇癪を起こしていた。あーまたか、という気持ちで正直いっぱい。とりあえず怒りを受け流す。すると今度は足が痛い、頭がくらくらする、背中が痒いの怒涛の訴えがはじまる。これも共感しつつ受け流す。次に始まる病院連れてけ、救急車呼べコールに備

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食欲、睡眠欲、それから会話

食欲、睡眠欲、それから会話

朝起きるのが苦手。6:30から5〜6分ごとにアラームとスヌーズが交互に鳴って、それでもどうしても起きられないみたいな毎日を送ってる。

でも、今日はシェアメイトの布教で最近ハマりつつあるBTSのMVを重い頭でぼーっとみた。そしたら、彼らのあまりの美しさと尊さに、ある瞬間でぱっと目が覚めた。イケメンの力は偉大である。

洗面所に行くと、ちょうどシェアメイトが歯を磨いているところだった。泡を口に溜めて

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