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詩集

30
詩を綴っていくマガジンです。
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記事一覧

目の前の道

目の前の道

80歳になろうかという老婆が
秋に差し掛かる真夜中の歩道に
ただ独り立ちすくむ
肋骨や鎖骨は浮き出し
もはや水も飲めず
低く唸りながら
それでも前を向いて
一歩踏み出そうとしている

背後の気配も感じず
耳も目も見えず
それでも
間際に迫る闇に向かって
歩き出すその姿が
かくも悲しく美しいのは
残された私たちの
罪を背負って全うする
最後の輝きだからか

一歩
また一歩
過去も未来も闇に消えて

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誰かの心

誰かの心

私はいつも
誰かの心を想っている
散歩すれば
あの人の表情を思い出して笑ってしまい
お風呂にはいっていたら
あの人の言葉を思い出して悲しくなる
ご飯を食べていれば
あの人のことを心配し
珈琲を飲めば
あの子のことを愛おしく思う

私の心はどこへやら

頭を空っぽにして
誰もいない部屋で
私は一人になって
ただぼんやりと 
外を見ている

木々の木漏れ日
愛犬の寝息
光のかがやき
風は揺れ動き

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一週間(詩)

一週間(詩)

「一週間」

過去と未来が通り過ぎていた。

それは
誰もいないホームで
目の前を
圧倒的に通り過ぎる
長い車両の特急列車。
灰色の光の帯。
轟音。
歪んだ、時間という概念。
まだ、続く。
どこまでも走り過ぎる列車。
影を追うことさえ出来ない。

1日経ち、
2日経ち、
まだまだ列車は走っている。
3日目。
目が慣れてきたのか
窓の輪郭がなんとなく見えてくる
4日目。
人影が見える。
5日目。

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父を想う

父を想う

遥か
1万m上空から見えるのは
漆黒に染まる
故郷の大地と
汚れなき群青色の空
そして
それらを遮る
真っ直ぐな夕焼けの炎

思い起こせば
実に長い間
いつも二つの色が
心の内に在って
決して交わることがなかった

恩讐の彼方に
二十一年の歳月をかけて
洞穴を貫通させた
市九郎と実之助の
一振の槌の力は
目の前に在る
夕焼けの炎を想わせる

それは祈り
それは懺悔
それは
数奇な親子の縁

ほら

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ただ、それだけ

ただ、それだけ

作者のオーリア・マウンテン・ドリーマーは、アメリカ先住民の文化に詳しいカナダ人女性だそうです。20年前の詩が多くの心を揺さぶり続けています。

ーーー
あなたの職業が何であるかは、私には興味がありません。
私が知りたいのは――、あなたがどんなことを心から望んでいて、その願いが叶うことを夢見ているかどうかです。

あなたの年齢がいくつなのか、私には興味がありません。
私が知りたいのは――、あなたが愛

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私の息は・・。

私の息は・・。

私の息は息子の息
私の息は妻の息 
私の息は愛犬の息
私の息は妹の息
私の息は妹の子の息
私の息は父の生き
私の息は母の息
私の息は祖先の息
私の息は子孫の息 
私の息は友の息
私の息は知人の息
私の息は彼の息 
私の息は彼女の息
私の息は師の息
私の息は弟子の息 
私の息はまだ見ぬ存在の息

息の次は手を
手の次は眼差しを
眼差しの次は足先を
足先の次は心臓の鼓動を

そうやって一つ一つ
合わせ

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心が還る場所。

心が還る場所。

心が還る場所はありますか。

わたしにはありません。

どこに行ってもありません。

だから、わたしの心の中に求めるしかないのです。

わたしの癒される場所。

教え子が描く世界。

子供の笑顔。

季節の気配。

すこし、ほっとして。
また、あてもなく歩いて。

どうせ還るところがないのだからと、公園でテントを張って。

真夜中に一人、ランプシェードの炎を見つめながら、わたしの心を探しているので

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1羽のカラス(詩)

1羽のカラス(詩)

一羽のカラスが
走る怪物に飛び込んだ
たくさんの怒りを道連れにして

哀れなカラス
甘美なささやきに取り込まれ
旅立てど
もはや 道はなく

カラス

カラス

大昔、生き物たちは
それぞれに
自分の気に入らない色を
持っていました。
ある時、白い鳥が
それらの色を1つづつ
引き受けましょうと名乗り出ました。

木々は、朽ちゆく茶色をわたしました。
空は、どんよりとした灰色
雨は、不透明な青
ゾウは、病に侵された皮膚の緑
キリンは、抜け落ちた毛の黄色
魚は、剥がれた鱗の銀・・

そのほかにも、あらゆる色を
引き受けたその鳥は、
真っ黒な姿になっていました。

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骨(絵と詩)

骨(絵と詩)



そこには
動物たちがいた
ただし、全て骨だった

生前の躍動感そのままに
空洞の眼差しは
虚空の闇を睨んでいる
あるものは
脅威から飛び立とうとしている
あるものは
安寧な世界で食しようとしている
それら
生き物としての成り立ちを
支えている
圧倒的な神の所業
美しきフォルム

進化を重ね
多様性を生み
生き物はその宿命を
全うするべき役目を負った
そこに
心を見出そうとするのは
人間がもっ

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兄妹(詩)

兄妹(詩)

嵐は過ぎ去った。
後には大きな爪痕が残った。
そこに二人の小さな兄妹が佇んでいた。

嵐は、兄の大切にしていた名誉を奪い、妹の大切にしていた聖書を燃やした。

優しかったおじいさんは、戦地に赴いて、仕立て屋の友人に銃を向けた。

おばあさんは、天に召される前に、
虚空に向かって、そっと不義を告白した。

猫は、誰かのそばにいることを諦めて、大きな伸びをした後、屋根から飛び去った。

兄妹

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夕日

夕日

かつて、母の車椅子を押しながら見た夕日。もう残された時間はわずかだった。目の前には鮮やかな真紅の光があった。その光は僕と母を照らしていた。
僕は、同じく支え合う群像を見た。それぞれに夕日に向かって歩き続ける。それぞれの人生。 

「人間がこんなに哀しいのに 主よ 海があまりに碧いのです」
遠藤周作は、沈黙の碑にこう記した。

1人で歩く。
2人で歩く。
3人で歩く。
1匹と歩く。
2匹と歩く。
3

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そこにある景色

そこにある景色

アトリエで本を読んでいて、ふと机に目をやると、携帯の黒い画面に、庭の柿の木が反射して映り込んでいた。

影の柿の木には、若い芽の息吹まで映っていた。
なんと美しいんだろう!と感動し、しばらく眺めていた。

携帯の端末にこれ以上の役割があるのだろうか。美しさを現実以上に切り取る、黒き鏡。
全ての情報や、あらゆる人と繋がれる端末。しかし、実際、目の前にある柿の木の、もっと奥深い美しさに気づかせてくれる

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揺れる光。

揺れる光。



ゆらゆらと、揺れる光。
届きそうで、届かない。

わたしの心を、もっと軽くして。もう一度、手を伸ばす。

Shaking light.
It seems to be reachable, but it cannot be reached.
Lighten my heart and reach out again.