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現代短歌

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現代短歌、はじめました。まだまだ初心者です。
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自選短歌まとめ(4〜7月)

自選短歌まとめ(4〜7月)



くつくつとりんご煮詰める母の手の魔法見つめる雨の土曜日

パックから肉を一枚ずつ剥がす 花占いのような手つきで

混ざりあう音の波間にたゆたって誰かと生きていくことを知る

送り出す夢ばかり見る 裸足でも駆け出すような勇気が欲しい

そしてまた咀嚼と嚥下の繰り返し 眠らぬ首都高速とわたし

観覧車 初夏の陽気を携えて近づいてくるゴンドラの青

サンダルを下ろせばほんの違和感と爪のさきから夏の産

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海に近いあの街は、夏の匂いがした。

海に近いあの街は、夏の匂いがした。

江の島にほど近いあの街の、夏の夜の匂いを、よく覚えている。

惰性で深夜アニメを流しつつ横になった、部屋の床の匂い。

東京の暑さに慣れなくて、上京して初めて夏バテになった。ぐったりと凭れた頬に伝わるフローリングのつめたさと、開け放した窓から流れ込む夜風の涼しさから、夏の匂いがした。

ディスコ・キッドの前奏に乗せて流れてくる、汗と風の匂い。

はじめての大学の学祭。私たちは浴衣を着て、夜のステー

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鳥かご【ヒーリングフォト×短歌】

鳥かご【ヒーリングフォト×短歌】

鳥かごは安全だからどこまでも羽を広げて飛ぶ夢を見た

かつて見た水平線のきらめきも今は隣の国のおはなし

絶望はたった一度で青空を灰色に染め羽はちぎれた

二度ともう僕は飛べない僕がまた飛べると思えずにいるせいで

勇敢な友がまた一人飛び立つ鳥かごの戸は開いたままで

なあきっと僕を笑ってるんだろう雀がかごを止まり木にする

・・・

風が夏の香りをはらみ鳥かごの鎖がギイとわずかに揺れた

夜だっ

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強がりのかくれんぼ【短歌連作vol.3】



人前で上手に笑えてしまうなら僕がこの目を覆った隙に
ゆっくりと息を吸い込んで、吐いて。
あの日ほんとは、どうしたかった?

「もういいかい」きみの返事が消えたって迎えにいくよ、あの夏の日に
喪失を抱えてしゃがみ込むきみに「見いつけた」って手を差し伸べる
あふれ出す涙も爪の傷痕も僕が絶対忘れないから
だからもう、どうか1人で泣かないで
四季をいっしょに見つけにいこう。

・・・

明確に、ひ

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割れたiPhoneとかすり傷の話

割れたiPhoneとかすり傷の話

やばい、って思った瞬間、胸がつまって泣きそうになった。

「好きになっちゃいけないって思い始めたらそれはもう好きだし、好きでいなきゃいけないって思い始めたらそれはもう気持ちが冷めてる」なんてことばを、その時ふいに思い出した。

・・・

とてつもなくやさしい人だった。大切な人のために、自分を犠牲にしてしまうような。

それは彼も同じだった。傷つきやすい私は、自分を守るためにはなからやさしい人を選ん

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どうか元気で。

どうか元気で。



しあわせになってほしいって思うよ
泣けちゃうくらい優しいきみに
人知れずつながれた手は私からそっと離すね
どうか元気で。

・・・

ほんのひとつき前まで世間を賑わせていた不倫騒動も、出会うタイミングが違っていたら相手は違っていたかもしれなくて
なんなら不倫関係にはならなかった可能性もあるわけで

そう考えるとどこかのバンドが「君に出会えた奇跡に感謝」みたいなクサい歌詞で歌っちゃう気持ちも

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アンシンデレラ・ストーリー

アンシンデレラ・ストーリー



上質な嘘をまとった姫君は振り返らずに駆け去っていく。優秀な魔法使いがしつらえた靴は彼女にジャストフィットで、あの晩に脱げようはずもなかったが、王子はそれに気づかなかった。選ばれる者は待つふりをしながら、テーブル上の選択カードを巧妙に、かつ着実に切っていた。嘘と駆け引きは紙一重だ。

もし今夜、魔法使いに出会うのがあの子じゃなくて私だったら?姫君を追って主賓が出て行った舞踏会では、取り残された姫

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あいうえおnote【せ】

あいうえおnote【せ】



聖なる夜に12月 どこか浮き足立つ街に無垢なあなたと溶け込んでいく昼下がり
小さな路地の先にある茶色いドアを押し開けてみた

窓際に並ぶ木箱を開けたとき
爪弾かれた音の粒子が結ばれて いつかの冬に君とみた映画のエンドロールをなぞる

「意味があることだけを成す人生は味気ないよ」と笑った君の横顔が"救済"の意味をもつことは 僕とサンタだけの秘密だ

静寂が夜といっしょに訪れて 明日をたのしみに

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君とさよなら

君とさよなら



うそだってことは互いにわかってた。それでも笑顔でハグをし合った。
触れない手、合わない視線、寝るときは背中合わせで「ねえ、こんなのは違う」って告げる勇気も持てなくて、結局私は弱いまんまだ。

「鳥たちが一斉に鳴きはじめたら夕立がくる合図だよ」って
ベランダで洗濯物を取り込んだあなたの顔も思い出せない。
不確かな記憶をさぐってみたけれど、あなたに触れた指の先までつめたくてまるで作り話みたい。セピ

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あいうえおnote【す】

あいうえおnote【す】

混ざる。落ちる。
飲み込んだ理不尽や、引っ込めた涙が、排水溝へ流れる水のようにぐるぐると渦巻きながら、私の中を流れ落ちていく。喉元から、胃、お腹の下の方を通って、つま先へ。
流れ着いた先が行き止まりだったら、そのもやもやは身体に蓄積されていくのだろうか。

スクランブル交差点を何も感じずに渡りきることができるようになった時、私たちは世の中の不条理をひとつ受け入れて「東京の人波」を構成する要素のひと

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601号室の陽だまり。

601号室の陽だまり。

大好きで大切な同期の辞職が発表されたのは、4日前のこと。

突然のことに衝撃を受けたけれど、さほど驚いていない自分がいた。それはもともとこんな技術職の業界に身を置きながら、同期の半分は文系だったからかもしれない。

半分が女性。半分が文系。多くが未経験者。

その異端さは、私達とこの会社のあいだになんとなく消えない違和感を生み、そして同期の絆を想像以上に強固なものにした。

・・・

彼女は、陽だ

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うまく伝えられないけど、笑って生きてほしい。

うまく伝えられないけど、笑って生きてほしい。

※震災の話をします。苦手な人はお気をつけください。
※短歌のあとに文章があるので、読んでくださる方はぜひ最後までお目通しください。

・・・

短歌7首
テーマ:震災(ノンフィクション)

信号が全部止まった夜のこと 星が綺麗に見えた日のこと

一枚の毛布の中でくだらないジョークに笑って夜を明かした

「おかえり」を言ってもらえる幸せと罪悪感で世界が揺らぐ

4年後の成人式まで私たち健康体でいれる

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人生の門出を迎えたあなたへ

人生の門出を迎えたあなたへ

大切な友人の結婚式に、行けなかった。

私にとって初めての「友達の結婚式」で、その友達は本当に大好きで大切な人で、だから絶対に行きたかったのに、行けなかった。
その日は何十年に一度クラスの台風が関東を直撃した日で、朝からテレビで繰り返し告げられる電車の運休情報や、窓ガラスに激しく打ちつける雨粒に、私はなす術なく家を出ることを断念した。

それはしょうがないよ、と言ってくれた人も何人かいたけれど、友

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あいうえおnote【し】

あいうえおnote【し】

初夏

溶けかけのアイスクリーム この夏が永遠(とわ)に続けばいいと思った

ライターで打ち上げ花火に火をつけた たぶんなんにも怖くなかった

ほろ酔いで歩く環七沿い、2人 ハーゲンダッツ買って帰ろう

飲みかけのグラスの氷が溶け出して 明るくたって夜は来ていた

サイダーの泡が弾けた瞬間に悟る 想いを告げちゃいけない

ソーダ水君が透かして見る先にあの子がいるの知っているんだ

白球になりたいな

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