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文月悠光 詩と朗読ムービー

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詩の朗読の音声・動画をまとめています。YouTubeに再生リストがあるので、併せてどうぞ⇒https://www.youtube.com/playlist?list=PLnijS… もっと読む
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#詩人

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綿毛に包まれた種たちは
土のぬくもりを知っているから、
風のなかへ飛び込むのだろう。

 *

だれに受けとられなくてもいい、
わたしは差しだす。
どこに届かなくてもいい、
わたしは差しだす。
踏みつけられてもかまわない、
わたしは差しだす。
痛みを差しだすことが唯一
伝える手段なのだから。
声もなく 足音もたてずに
わたしは差しだす。

光に守られた綿毛はひとつの星雲。
日々の重さを綿毛にのせて

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きみとひとつになれなかった、
わたしを壊されそうで。

互いの傷あとを包み合って
そとへ 手放せたなら
砕けてもいい。
わたしは軽くなる。

 *

割れない泡のようなこころ たずさえて
ふくらむのにまかせていたら
いつしか重くなっていた。
ふるえる輪郭は、鼓動のあかし。
潰さないで 潰れないで、と
願いつづけて今を見る。
行き先はまだわからない。
それでも恐れず
青い風にのりたい。

つめたい鏡

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ティンカーベル、勇気を抱いて。

 *

これを何と名づけようか。
ぬぐっても ぬぐっても
ぬぐいきれない熱が頬の上にあって
わたしから降りてくれないのだ、
妖精のつま先が乗っているみたいに。
ティンカーベル、勇気を抱いて。
かしこいあなたは
かしこいままで生きていてよい。

きょうの肌を溶かして素肌のわたしになる。
つい先ほど肌だったものが、今やとろけて
指先を金色にあたためる。
この熱は、わた

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鳥は 降り立つ地点を
見定めてから、飛ぶのだろうか。

 *

こころに水を引いてみよう。
湧き出る水を引きよせて。
わたしが今夜眠るための
コップ一杯の水をください。

水底まで射し込む光。
魚たちは微かな光を聴きとって
生き生きと群れ、巡りはじめる。
魚たちの回転から、こぼれるように一匹
産み落とされたのは、新しいわたしだ。
踊れ 水平線を揺らそう、
永遠を描き切るまで。

鳥は 降り立つ地点

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自由にしていいよ、と
だれかに告げてみたかった。

わたしは
わたしに恵まれて
生きている。

 *

ただいま、と部屋へ呟いたら
耳をほどいていく儀式。
白いイヤホンを抜き取ります。
マスクの紐もそっと外します。
メガネも外してあげると尚よい。
冷えきった耳は先の方から赤らんで
聴くことを少し休みたがっているよう。
自由にしていいよ、と
だれかに告げてみたかった。

冬の樹は枝々に氷を咲かせて

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夕陽に照らされた綿毛は、
宙(そら)かなたの星雲が降りてきたよう。

 *

幼いころ連れていた、犬のぬいぐるみ。
今見れば、こんなにも柔くちいさい。
ふわふわの毛を潰さないように
腕にひしと抱え込んで眠る。
わたしもこのように柔らかかった頃、
おおきな存在に守られていたのか。
だれにも見つからない夢のなかに
ひっそり かくれていたのか。
(もういいかい?)
こころの奥地へ 分け入っていこう。

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空の赤い心臓を目指して 幼いわたしが駆けてゆく。

 *

空をぐるりと見渡して
幼い指で光をなぞった。
光は歓び、たちまち雲間を泳ぎだす。
わたしは光の子ども。
月から生まれて 太陽へ還る。
この世の宝の地図に刻まれている。

洗いたてのシーツを
風に ぱんと張ってみるとき、
そこに日は昇り 日は沈む。
発光する白い地平線に包まれ、
わたしたちは眠る。
殴るような嵐のあと 一筋ひとすじの光となっ

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あの夏、わたしたちは何を燃やしていたのか🎆

 *

八月の空はゆっくりと暮れていくから
からだの熱を持て余したまま歩き出す。
体温を薄く溶いたような夏の闇は
しっとりと首筋を取り巻いた。

一本のろうそくを囲めば、
ちいさな花火大会がはじまる。
それぞれの手が自在に描く光の曲線。
照らし出される横顔は、古いフィルム映画のよう。
懐かしい暗闇に あなたを見つけた鮮烈な一瞬。
あなたがわたしに燃え

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新年明けましておめでとうございます🎍
皆さんへ祝福の風が吹きますように🌠

"風は陶芸家、世界のかたちを整えていく。

今はまだ、はかない重力に生かされて
きょうのうつわを 手から手へ運んでいく。"

💠詩「風のうつわ」文月悠光

*「婦人之友」2020年1月号ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を書き下ろしています✍☪️
写真:岩倉しおりさん

▶︎詩のテキスト・朗読のバックナ

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記憶の中の星をあつめて😌🌠

わたしにしか見えない星と
あなたにしか見えない星がある。

この美しいランプに
わたしは試されているようだ。
あなたの目を信じて、ふたりで
世界を灯すことができるかどうか。
いつか この惑星が滅んで
瓶の底も尽き果てる日、
わたしたちのたましいは星になる。
宇宙にささやく光を残して。

詩「星の採取」文月悠光

*「婦人之友」2019年12月号ミヨシ石鹸さん広告

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答えが出ない時は冬の海へ🌅

「おかえりなさい」と手招く波は
海鳴りとともに星を洗う。

何が間違いで、そうでないのか
知ろうとすることに疲れてしまったよね。
そう告げて、世界へからだを明け渡す。

海よ、わたしへわたしを注ぎ入れ、
闇を押しかえす力をください。

詩「帰還の海」文月悠光

*「婦人之友」2019年11月号 ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を書き下ろしています

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別れの記憶に手を重ねて🍂

ふたりの横顔が並んで揺れていた午後。
あの日の雲のかたちを知っておきたい。

口ずさめる歌の一つでもあれば
さよならのあとも生きていけるのでしょう。

詩「しるし」文月悠光

*「婦人之友」10月号ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を書き下ろしています✍☪️
写真:岩倉しおりさん

▶︎過去の詩は、ミヨシ石鹸さんFacebookページでも公開中🌠
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ひとはいつ教え込まれたのか🌇

(満たされてはいけない
立ち止まってはならない)
言い聞かせてひとり歩いた。
それでも空は告げにくる。
ひとは満ち足りてしまうことが
怖いだけではないかと。

詩「空をまとう」文月悠光

*「婦人之友」9月号ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を書き下ろしています✍☪️
写真:岩倉しおりさん

▶︎過去の詩は、ミヨシ石鹸さんFacebookページでも公

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きみと夏の終わりの舟になる🍹

〈きみとわたしは その近さゆえ
グラスの氷みたいに
カランとぶつかりあって、
ちいさな世界をひとめぐりする。
踊りましょう、もう少しだけ
どうか夏が終わるまで。
透明なふたつの舟はやがて
ひとつの海に溶け落ちて
水底でやすらかに息を絶やすのだ。〉

詩「ふたつの舟」文月悠光

*「婦人之友」8月号ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を書き下ろしています

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