記事一覧
麻痺という劇薬を知る
読書感想文 『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬
身をかがめる。興奮を抑えるかのような、深く静かな呼吸。目標から目をそらさず、周囲の音が聞こえないほどの集中。狙いが定まったら、音を立てずに予備動作をして、一気呵成に飛びかかる。
おもちゃや紛れ込んでしまった虫を捉える際の、我が家の猫の動きである。誰に教えられたわけでもなく、彼らはこういう動きをする。本能なのかもしれない。
第二次世界大戦、ドイツ軍に
CATSが魅せるジェリクルな夜
まだ私は5歳で、暗闇や隙間にお化けや恐怖よりもわくわくするような秘密の入り口を期待していて、犬のぬいぐるみを抱きしめながら父と手を繋いで歩くのが好きだったころ。
ロンドンのウェストエンド、ニュー・ロンドン・シアターの赤い椅子に座る。父と母の間が定位置。オレンジ色のライトと赤い椅子が調和して、劇場の空気をリッチに美しく染めている中で、私は早く暗くなって音楽が始まるのを待っている。
オーヴァーチ
「さよなら」エヴァンゲリオン
映画感想文『シン・エヴァンゲリオン』監督:庵野秀明
※ネタバレあり
観てきました。全然まとまらないのですが、感想を書いておきます。
記憶違いもあるかもしれません。何回か観ると思うので、都度直します。
四半世紀の混乱を招いた精神的作品初めて観たのはアニメ版を中学生の時に。年齢からすればど真ん中、ということはなく、高校生のころに『序』が開封されたました。ただ、オタクとして観ておかねば、と思ったので
怖くないホラー、とは?
読書感想文 『火喰鳥を、喰う』原浩
横溝正史ミステリー&ホラー大賞ということで、かなり期待して購入。期待値が高すぎたのかもしれない、というのが感想。
まず、主人公含めて登場人物がぼんやりしている。どんな人なのかわからず、感情移入もままならない。人間は物語の装置でしかないのかな。主人公も意思があるような無いような立ち位置で、キーともなる主人公の妻は結局よくわからなくて仕方がない。魅力が感じられな
にじみ出る原作へのリスペクトが最高
NHKドラマ『岸辺露伴は動かない』観ました。
最初は観る気がなかったんです。高橋一生さんの公開ビジュアルがどれだけ良かろうと、私はあの4部を忘れない。ジョジョの実写は無理。ドラゴンボールの次に無理。そう思ってたので。でも、そんなことを言っていたツイッターの仲間たちがどんどん陥落していくから、観るしかねぇと、そう思って録画しました。
いやー。良かったー。ジョジョって、ファンタジーでリアルじゃない
「そうなの、わかる」と言わせる魔力
読書感想文 『お義母さん、ちょっと黙ってください』ばたこ
面白いエッセイには小説にはない魔力があって、対話をしているような気になる。「そうそう、わかる、うちもそうなのよ」ってな感じで、自分の話しもしてしまいたくなるような、そんな感覚。
ばたこさんはTwitterで知り、noteも読んでいたので書籍化を聞いて、よし買おう、と思っていた。こんなに小気味よい快活な文章に、なんらかの課金をしたかった。
メディアは簡単な仕事じゃない
noteというプラットフォームを使っておきながら、この件に触れないというのも気持ちが悪く、とりあえず書いてみる。
noteはいい場所だと思う。私は全く知られていない人間。ただつらつらとメモのように感想文なんかを書いているだけ。それでも、何人かは見てくれて、スキをしてくれる。広告目的やフォロー目的のスキばかりだけど、本当にたまに、ちゃんと読んでスキってしてくれたのかな、っていう人がいる。こんな全然
いつだって機嫌よく仕事をしたい
映画感想文 『フォードvsフェラーリ』監督:ジェームズ・マンゴールド
入社1年目、珍しく残業をしていた私に常務が近づいてきた。
「難しい顔しとるやん。ええか、仕事はな、機嫌よくせなあかんよ」
大阪出身のその人は、このど田舎に来ても関西弁のままで、そう私に告げて去っていった。聖人君主ではなかった。良くない噂も、聞く人だった。だけれど、その言葉だけは今でも私に残っていて、意識的に機嫌よく仕事をしよう
狩りが私たちをつなぐ
私と妹は7歳も歳が離れている。7歳違うと、もう世代が違う。当時人気だったアニメ、漫画、ドラマや音楽。何も一緒にはならない。小学校だって被らないのだから、当然中学も高校も被らない。
そんな私たちを繋いでくれたのがゲームだ。ありとあらゆるゲームを一緒にやった。王道なところでは「ポケモン」に「スマブラ」、「マリオカート」。「星のカービィ」や「ヨッシーアイランド」も一緒にやったし、当時はクリアできなかっ
涙では語らない、目で語る
映画感想文 『ゲティ家の身代金』監督:リドリー・スコット
私はやたらと泣く。映画を観て泣くし、本を読んで泣く。なんだったら悲しいとかではなく、活躍している"推し”を発見するだけで泣くこともある。ちなみに、生理前は箸を落としただけで泣いている。この間は、窓を開けたらミイラになったカメムシが手のひらに落ちてきて、それだけで泣いた。私にとって涙は切り札ではなく、いつだって大安売り。今泣いてと言われたら
落差があって人間はリアルになる
読書感想文 『メインテーマは殺人』アンソニー・ホロヴィッツ
長く付き合っているのに、素性が知れない友人がいる。中学校で知り合ったから、通った中学と高校はわかる。可愛くてお茶目でチャーミングな子なのだけれど、性的指向や政治的スタンスはもちろんのこと、どこの大学に進学したのか、今はどこに住んでいるのか、実家はどこなのか、家族構成や仕事内容は全く知らない。どうやら東京に住んでいるらしいとか、実家は空き
私たちはこれを待っていた!のか?
映画感想文 『チャーリーズ・エンジェル』(2019) 監督: エリザベス・バンクス
本当に幸せなことに、私には「あの時に戻れたら」ということがない。いつだって今が一番楽しい。それに、その時その時に積み上げてしまった黒歴史を思い出すと、とてもじゃないけど戻れる気にはなれない。かつての若者特有の見栄とか勘違いに起因する言動を受け入れきれていない。とはいえ、昔は良かったとか、些細な記憶が美しい思い出に