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2021年に詠んだ短歌まとめ

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(三年目)
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短歌 2021年の自選69首 <7月-12月編>

短歌 2021年の自選69首 <7月-12月編>

夏季メニューにレモンタルトを書き足した老店主の眼のしずかなひかり

ゆうぐれの車窓にうつる鉄橋ととおき叫びと硬質な海

今日だけは沈み込みたいまろやかなキリンラガーの金色の海

見ていられない現実があるために誰もがながい夢を見ている

虹ですら赤のほかには見もしない人が見上げる真っ赤な空だ

現実と願望をすり替えたのだ無人の街の怒れる怪盗

多面体としての他者に着かぬまま脳の迷路を点から点へ

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短歌 2021年の自選47首 <1月-6月編>

短歌 2021年の自選47首 <1月-6月編>

二十四年ずっと鳴ってたサイレンが鎮まりそこでサイレンと知る

ぐつぐつと煮込むシチューに曹長の生き死にの夜が渦巻いている

吐き出すのではなくあふれ出るようにまずは自分をきらきら満たす

カルピスを子どものような眩しさで飲み干せるまでの長い年月

ひとちがい 酷く変形した罪を聞かされ何故か怒鳴られている

どう見ても変な講堂 狂人のポケットにだけ残る旋律

<想像をさせるたたかい>三年後あなたは燃

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短歌連作「持ち込み可」 5首

棚の奥の闇にしずまるこのジンは透明である 鞄へ入れる

冬の夜の「飲食物の持ち込み可」潜ませている合法ジンを

オレンジの液がしたたる 酒を割るドリンクバーの裏の表情

紙コップにジュースとジンをとくとくと注げば笑い出すディオニュソス

雪の降る『東京ゴッドファーザーズ』観つつ更けてく夜のネットカフェ

短歌連作「YouTubeの美味しんぼ」 9首

短歌連作「YouTubeの美味しんぼ」 9首

秋風のYouTubeにてサジェストに来た美味しんぼ観ていたら夜

山岡というぐうたらでひねくれた社員を描けた時代の空気

社内では居眠りするか競馬だが中華鍋振るアンコウ捌く

なんだって料理で解決 婚約も打撃不振も社の乗っ取りも

うなぎならガスより炭火、パックより藁の納豆、水車精米

三十年前のアニメの食事でも飛沫気になるコロナの僕ら

令和なら炎上しそう「この豚バラは出来損ないだ。食べられない

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短歌連作「マトリックス」 11首

#ネタバレ

謎の男として現わるモーフィアス「赤い薬か?青い薬か?」

「現実」に目覚めたネオが救世主なのは預言者告げし運命

訓練のプログラムにて使われる体術どれもアジアのものだ

「現実」という名の異世界にてネオは救世主なり無双もできる

発電所で嬰児のようにねむりたい 密告をするステーキの味

塞がれた扉を避けて電話へと走る 犠牲になるモーフィアス

もう一度仮想現実へとダイブ見捨てられない

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短歌連作「写真展」 17首

短歌連作「写真展」 17首

界隈をグーグルマップひらきつつずんずん歩くピンを目指して

古めかしい趣のある貸しビルの211号室の秋

世界にはまだ美しい瞬間があると写真は教えてくれる

取り壊しされる校舎の洗い場に置かれたままの緑のじょうろ

もう子らの来ることのない教室の南京錠の深い沈黙

モノクロの田んぼにうつる青空は写真の中で笑っていない

「写真にはうつらない美しさもある」ブルーハーツはかつて歌った

わたくしも心の

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短歌連作「雑誌をさがすことを楽しむ」 7首

短歌連作「雑誌をさがすことを楽しむ」 7首

駅前の小さな書店お目当ての雑誌をさがすことを楽しむ

腕時計、家庭菜園、手芸など雑誌の棚の未知の惑星

湊かなえ、東野圭吾のすぐそばに陳列されるカフカやヘッセ

ものものしい鏡 防犯カメラあり 婦人誌やたら見ている男

オレンジページ・婦人画報に挟まれてMeets四冊棚に重なる

『Meets』取り「レッツ短歌!」へページ繰る上昇してく心拍数も

とくとくとく鳴る心臓と有線のサンボマスターだけの世

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Meets Regional 2021年10月号
『岡野大嗣と詠むレッツ短歌!』に、僕の短歌が掲載されました。

Meets Regional 2021年10月号 『岡野大嗣と詠むレッツ短歌!』に、僕の短歌が掲載されました。

Meets Regional 2021年10月号
『岡野大嗣と詠むレッツ短歌!』第5回「夏の終わり」に、
僕の短歌が掲載されました。

台風の去ったあとでも「運休」の赤いひかりをおぼえていたい/Haruki-UC

岡野大嗣さんの評:臨時の「赤いひかり」が、過ぎ去った夏の一回性を際立たせる。眼裏に強く残る一首。

ありがとうございます。美しい評もうれしいです。

書店にて今月号の『Meets』をさ

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短歌連作「園長が見守っていた」 9首

短歌連作「園長が見守っていた」 9首

ようちえんに行きたがらない母親と離れたくないはるのバス停

日直がいやで休んだようちえん また翌日も日直だった

きげんよく通えるための母と子の一ページずつ交換日記

学歴の話でひとが変わる母この頃はまだこの頃はまだ

たんじょうび会にて好きないろ聞かれぱっとオレンジと答えたけれど

おとうとに兄と呼ばれるのがいやだ 縦社会にはなじまぬ僕か

いもの絵が収まりきらず二枚目を付け足す先生いての大作

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短歌連作「信仰の不自由」 20首

一定の拍子で進むしめやかな十数人の唱歌と踊り

拍子木に笛に太鼓に三味線にお経のようなわからない歌

毎月の儀式につどい少年の僕は太鼓を叩かされてた

祭壇の前のひとびと一斉に拍手四回 轟音となる

一階は祖父母の部屋に台所 二階まるごと大部屋の祭壇

祖父母から強制があり「しゃあない」と母は子供に強制をする

大人らの拍手や礼のしかたにも微妙な違いあって見ている

寄付金の一部で買った米、魚、白

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短歌連作「コロナワクチンを打つ(1回目)」 12首

短歌連作「コロナワクチンを打つ(1回目)」 12首

インフルエンザの予防接種を昔した内科へ向かう自転車漕いで

受付で名前告げると手際よく必要書類確認される

数人が待合室で時を待つ我も加わり沈黙の午後

それぞれの事情を告げてそれぞれのうなずき方で去る 受付を

子を連れた母は書きまちがいをしてふふふと笑うナースも笑う

せかせかとした青年は「予約なら来々月になる」と言われる

「先生と話がしたい」とおじいさん 健康だけでひと生きられぬ

コロナ

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短歌連作「何もかも受け入れられぬまま時が経つ」 14首

短歌連作「何もかも受け入れられぬまま時が経つ」 14首

顔のない人々の群れ ひらひらと灰によく似た雪の降る街

言えるわけない言葉たちが残ってて景色が剥がれ落ちてく二月

腸を引き抜かれるような別れだ だけど笑って戦わなきゃな

冬のよる空が重くて遠い灯があまりに遠く行くあてはない

楽園のイミテーションだ 地下室の少年がドア強く叩いた

折れている翼で空は飛べないね 当たり前だね 当たり前、だね

皆はもう行ってしまった進めないたったひとりの僕の戦争

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短歌連作「誰もがながい夢を見ている」 14首

短歌連作「誰もがながい夢を見ている」 14首

見ていられない現実があるために誰もがながい夢を見ている

多面体としての他者に着かぬまま脳の迷路を点から点へ

虹ですら赤のほかには見もしない人が見上げる真っ赤な空だ

現実と願望をすり替えたのだ無人の街の怒れる怪盗

話し合うほどに濃霧につつまれて果ては虚空と怒鳴り合ってる

絶滅のケモノの角はアクリルのなかで戦のゆめを見ている

強くなく美しくなく正しくもないケモノらは都市を創った

ビルとい

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短歌連作「まだ欲することに励まされてる」 10首

短歌連作「まだ欲することに励まされてる」 10首

世の中の細部に秘められてる愛たとえば飛び出す絵本だったり

絵本から飛び出すウサギ     浮き上がる罪悪感だこんな大人で

誰に言うわけでもないが生きていてごめんなさいとよく口にする

ゆうぐれの車窓にうつる鉄橋ととおき叫びと硬質な海

今日だけは沈み込みたいまろやかなキリンラガーの金色の海

発泡酒ではなくビール 爽よりもハーゲンダッツ ひとり飲み会っ

夏季メニューにレモンタルトを書き足した

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