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109でギャルに服を売ったら鬱になった話

古の夢を見た。



地下にある派手めなアパレルショップで店内を物色していた僕は、ギャルに囲まれて「接客」を受ける。

「そのTシャツめっちゃかわいーですよね~!今お客様が履いてるジーンズにぴったりですよ~」

僕は目を合わさないように下を向くのに必死になる。
なるべく声も出したくない。

アッソウスカと声を置き去りにし、光の速度で立ち去る。

店を出て7,8メートルしてそっと振り返ると、ギャル達はRPGのモブキャラみたいにハンガーラックの迷路をうろうろしながら「イラッッシャイマセェェェェェェエエエ↑↑↑↑」という特有の鳴き声を響かせていた。

久々に見る懐かしい面々は、相変わらず可愛く、スカートがフリフリと輝いていた。







20歳で京都に引っ越して人力車の俥夫になる直前、渋谷の109でアルバイトをしていた。

それは2000年前後に一世を風靡したギャルブランドで、今40~50歳くらいの人がその名をきくと屁をこいて喜ぶ懐かしのブランドである。
ヒントは「ショッパー」

10年前僕がアルバイトしていた当時は当然ブームは消えていたわけだが、時代と共にうまくコンセプトを変え、適度に派手な20代が使えるプチプラのブランドになっていた。

GYDAを少し幼可愛くしたかんじ。



とにかく人と違う経験がしたかった当時の僕は、男がレディースのアパレル店員になったら面白いんじゃねと思いつき、裏のストック整理ではなく普通に販売員として面接を受けた。

熱意マシマシ面接のおかげで意向が通り僕はギャルを服を売ることになったのだが、大工からのジョブチェンだったので文化の違いにかなり面くらった。




まず、同じ販売員が吐き気がするほどに可愛い。
うち2人はモデルをしていて、身長は僕よりも高かった。


そもそもレディースの販売員をやろうと思った時にヨコシマな思いは120%ほどあったのだけど、こんなレベルが来るとは聞いていない。(来たのは僕だが)

面接する少し前に別れた彼女が美容師をやっていたので、「一人エレクトリカルパレード」と言われるほど絶望的だった僕のファッションを教育してくれて、似合う髪型と眉毛を教えてくれていたから多分調子に乗っていたのだと思う。


しかしその頃は大工と太鼓とトレーニングに明け暮れ、女っ気もない。
ましてや「趣味はクラブ」と言うような女盛り22、23歳のギャルである。

良い人達だったので普通に仲良くはなったが、共通言語がなさすぎておもしろい展開にはならなかった。




アパレル特有の声かけも最初は嫌だった。

15歳で上京したての頃は当時流行っていたホストの私服みたいな恰好をしていたので109-2によく行ったが、初めて行ったときの接客が忘れられない。

あれは接客というより「絡まれる」と言ったほうが近く、引きこもりほやほやの僕からしたら、店に入る前から「お兄さんどこから来たの!」と会話を始めようとするギャル男が怖くてしょうがなかった。


そういうことがあって僕が接客するときは空気は絶対読みたいと思っていたのだが、他の店員を見ていると

「えっその靴ダイアナの新作じゃないですかぁ~!?スゴーイカワイーン」

「そうなんですよ~彼氏に買ってもらってぇ~」

から会話がスタートする。
友達だよな、もう。

ギャルの店員とギャルの客だから話が倍速で進むのだ。
そして、ノリの良い客ほどたくさん買ってくれる。


僕はそういう会話に聞き耳を立てて女の服の常識を学びつつ、「男目線だったら絶対こっちのほうが可愛いっすよ」を武器になんとか売り上げを立てていた。





ただ、多少詳しくはなったがレディース服はいつまでたっても好きになれなかった。

新作が出る度に「何が可愛いんぞこれ」と思っていたし、
ビジュー付きのトップスが出れば「おう襟元に石埋まっとるがぁ。不良品だがや」と思っていたが、それを「このアクセントが可愛いですよね~」などと売るのは地味にしんどかった。




そして月日が経てば経つほど、同じ店のギャルと話していて住んできた世界が違うことをじわじわと思い知らされて、当時の僕にとってはそれが1番苦しかった。

無骨でロクでもない人間が多い大工や、多様性人間達の巣窟の飲食とはワケが違う。

青春時代、群がる男共の熱視線をスルーし、クラスのトップヒエラルキーであるスポーツマンや輩と恋をし、流行を敏感に取り入れて「カワイイ」を追求する彼女らと、学校にすら行っていない僕とではあまりに言語が違った。

向こうは明るいギャルなのでどんな人間もウェルカムだったとは思うが、自意識過剰をこじらせた僕にとっては「普通」の水準が高さに引け目を感じてしまって、どんどん話せなくなっていった。

悪意がないのは分かってはいるが、太鼓や身体意識の話など、僕が好きなものを自由に喋れば喋るほど「何それ?ウケる」から入られるのは辛い。


こっちが心を閉ざしてしまい、やりたくないことにじわじわ蝕まれていって、面接で大口叩いて入った手前たった3か月で「やっぱ合わなかったのでやめます」と言う勇気が出ず、結局僕は遅刻する流れで何も言えずに、バックれてしまった。

バックれたのはその時は3回目だったが、それまでと違ってアパレルの人達は陽気で良い人達だったから、一言も何も言わず人間関係を切ってしまったことにひどく自己嫌悪して、落ち込んだ。

僕が痛い思いをする勇気がないばっかりに。
自分が情けなかった。

2週間以上布団に引きこもっていたので、これが冬季鬱の始まりだったのだと思う。



昼夜逆転をしながら、冬なのに湿気の凄いアパートの1階で、じめじめとした生活をしていた。

鼓童の試験にも受けることなく、太鼓の練習も最早しなくなっていた。


夢もない。人間関係もない。金は少しある。
どーなるんだろう、これから。

そう思っていたとき、僕を思わぬ形で鬱から救ってくれたのは

思いもよらない人物だった。



次回。


「僕をイジめたアイツに会いにいく 成人式」


多分次回ではない。

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