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記事一覧

廊下

誰かを待っている。広いロビーには誰もいない。焦げ茶色の大きなソファが左右にある。左側のソファを選んで腰掛ける。正面にはエレベーターがあり、その手前にゲートがある…

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1年前
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八月のスキー場

山の中に立っている。 眠っているリフトのケーブル沿いに斜面を登る。リフトの降り場から見下ろす。 わずか、数十メートル下にはロッジがあり、その先に人々の営みがある…

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1年前
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海上レストラン、ヴァージン島

ヴァージン島でビールを飲んだ時の話。正確にはその島に辿り着いてはいない。その島の沖のレストランに行っただけ。満潮時、座席は海に沈む。 ボホール島にはセブからフェ…

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1年前

能登の酒蔵めぐり 数馬酒造を訪ねて

竹葉 生酛純米 奥能登。 能登半島の先端、宇出津漁港のすぐ近く、運河の横に数馬酒造はある。 昨年の秋、この酒蔵を訪ねた。 この時に数馬酒造の直営店で買った酒を家族…

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2年前
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新橋駅、盲目の人

善く生きたいと思っている。 新橋駅で困っていた目の不自由な人を、私は見て見ぬふりをした。 どこにでもいそうなおじさんが、その目の不自由な人に声をかけて、どこかに…

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2年前

「風」

言葉の先に、それが結ぶ像をイメージする 何も考えたくないとき、頭の中で風が吹いている それはどこかで見た風ではない、どこかで受けた風ではない 何かで読んだ景色の…

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2年前

阿蘇の山を愛する方法

カーブを曲がる、視界が広がる。そこに阿蘇の山がある。 道は曲がりくねり、次のカーブを曲がるとその山は視界から消えた。そうして、またその次のカーブの外輪に休憩所が…

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2年前
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Saturday Morning マニラ、札幌、国分寺、浅草

朝はできるだけ早く起きる。休日は特に。何もしない時間をつくるために。 ドアを開けて、ベランダに出る。太陽を見て、街の音を聞く。 日の出から三十分。空気は水色。 …

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2年前

磐城寿 海の男酒を飲んで 〜 続・南相馬の旅館にて

磐城寿 純米大吟醸 2018 山田錦45 生酛仕込み 歳を取るとともに、変わっていくことはいろいろとある。その中でも、とりわけ良い変化は日本酒を好きになったことだと思…

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2年前
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街行く人を見て思うこと 2022年1月 マニラ

外の席に座り、街行く人を眺めていた。マニラは今日も快晴である。 この街にもスターバックスはどこにでもある。それと同じかそれ以上に幅を利かせているThe Coffee Bean …

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2年前
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マニラ湾に沈む夕日、正月とサンミゲル

マニラ港の近くに小さなフェリーターミナルがある。その奥に大きな公園がある。公園の南側はショッピングモール、遊園地、屋台があり、凄い人出であった。一方で、公園の…

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2年前
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「コインロッカー・ベイビーズ」 レビュー

二週間くらい前に村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」を読み終えた。 ・村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」 自宅の本棚からこれを取り出して読み始める。 前に読ん…

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2年前
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「ロッジ赤石」にて秋が来たことを知る

ロッジ赤石の窓際の席に座り、たい焼き屋を見ている時にふと、秋が来たと実感した。 そこにある空気が透き通っていて、明かりは柔らかく、時間はゆっくり流れていた。小さ…

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2年前
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感情のドライブ

オフィス、そこでは感情を出してはいけない。そんな風に感じている。自分を出してはいけない。 考えてみれば、それはオフィスだからではない。世間だからだ。ずっとそうい…

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2年前
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それが去った今思うこと

夏が終わろうとしていた。9月の下旬、残暑が三日間続けてなんとか最後の力を振り絞った翌日。太陽の光には柔らかい白のフィルターがかかっていた。町はぼやっと照らされて…

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2年前
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「哀愁の町に霧が降るのだ」を読んで、東京の東の端で思ったこと

土曜日、九月十一日に椎名誠「哀愁の町に霧が降るのだ」を読了した。青春の話であった。一番好きなのは以下の箇所。克美荘日記の木村晋介の書いた部分である。 70年代、当…

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2年前
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廊下

廊下

誰かを待っている。広いロビーには誰もいない。焦げ茶色の大きなソファが左右にある。左側のソファを選んで腰掛ける。正面にはエレベーターがあり、その手前にゲートがある。透明な硬いプラスチックの板、片側が固定されていて、カードキーをかざすとそれが奥に畳まれる。その横に受付、女性が二人座っている。ここからは彼女たちの表情はわからない。何を話しているのかいないのか、それもわからない。ロビーはつるっとした白い大

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八月のスキー場

八月のスキー場

山の中に立っている。

眠っているリフトのケーブル沿いに斜面を登る。リフトの降り場から見下ろす。

わずか、数十メートル下にはロッジがあり、その先に人々の営みがある。それぞれの屋根の下では夕飯の支度をしているだろう。ここからは人の生活は見えても、聞こえないし、匂わない。赤い車がゆっくりとカーブを曲がっていく。街灯が灯り始める。

ゆっくりと日は沈んでいく。遠くで鳥が鳴いている。数匹。風が木の葉を揺

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海上レストラン、ヴァージン島

海上レストラン、ヴァージン島

ヴァージン島でビールを飲んだ時の話。正確にはその島に辿り着いてはいない。その島の沖のレストランに行っただけ。満潮時、座席は海に沈む。

ボホール島にはセブからフェリーで2時間かかる。ボホール島の港、タグビラランからタクシーで40分走り、橋を渡った先にパングラオ島がある。そのパングラオ島からバンカーボートで30分走ると、ヴァージン島に着く。

そこで昼食を食べるということは聞かされていた。新鮮なシー

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能登の酒蔵めぐり 数馬酒造を訪ねて

能登の酒蔵めぐり 数馬酒造を訪ねて

竹葉 生酛純米 奥能登。

能登半島の先端、宇出津漁港のすぐ近く、運河の横に数馬酒造はある。
昨年の秋、この酒蔵を訪ねた。

この時に数馬酒造の直営店で買った酒を家族が送ってくれた。海を越えて、季節を二つ跨いで。

なんて綺麗な味がするんだろうか。

無色透明。香りが美しい。珠洲焼きの猪口で飲む。ざらっとした猪口の口触りから、百倍くらいスムースな酒が滑ってくる。舌に乗せた途端花が咲いて口の中に旨味

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新橋駅、盲目の人

新橋駅、盲目の人

善く生きたいと思っている。

新橋駅で困っていた目の不自由な人を、私は見て見ぬふりをした。

どこにでもいそうなおじさんが、その目の不自由な人に声をかけて、どこかに誘導していた。

善く生きるとは、見て見ぬふりをしないことなのかもしれない。

「風」

「風」

言葉の先に、それが結ぶ像をイメージする

何も考えたくないとき、頭の中で風が吹いている

それはどこかで見た風ではない、どこかで受けた風ではない

何かで読んだ景色の中で、その風はいつも吹いていて

黄色い光が左端にあって、露出を最高にした写真のように全体は白んでいる

何も聞こえなくなるほどの強い風ではないが、聞こえるのは風の音だけ

たくさんの風がそこにはあって、強弱はあっても止むことはない

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阿蘇の山を愛する方法

阿蘇の山を愛する方法

カーブを曲がる、視界が広がる。そこに阿蘇の山がある。

道は曲がりくねり、次のカーブを曲がるとその山は視界から消えた。そうして、またその次のカーブの外輪に休憩所があった。

車を停めて外に出る。1月の山の空気は冷たい。空気は澄んでいて、雲のない空の下、遠くの山や町までよく見渡せる。昼前の太陽の光は柔らかく、風はほぼない。彩度の低い、乾いたベージュが眼下に広がる。

山は静かにこちらを見ていた。我々

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Saturday Morning マニラ、札幌、国分寺、浅草

Saturday Morning マニラ、札幌、国分寺、浅草

朝はできるだけ早く起きる。休日は特に。何もしない時間をつくるために。

ドアを開けて、ベランダに出る。太陽を見て、街の音を聞く。

日の出から三十分。空気は水色。

車も、バイクも休んでいて、音もなく渡し船が川を横切って行く。

さらに三十分、柔らかいオレンジが水色の靄を消していく。

どこかで鶏が鳴いている。クラクションの音が増えていく。

次第に街は黄色くなり、太陽は直視できない程元気になる。

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磐城寿 海の男酒を飲んで 〜 続・南相馬の旅館にて

磐城寿 海の男酒を飲んで 〜 続・南相馬の旅館にて

磐城寿 純米大吟醸 2018 山田錦45 生酛仕込み

歳を取るとともに、変わっていくことはいろいろとある。その中でも、とりわけ良い変化は日本酒を好きになったことだと思う。新しい日本酒に出会う度に、その出会いに感謝するととともに変わっていくことを楽しいこと、ポジティブなこととして捉え直していく。

マニラに来て、ずっと一人で、晩飯はタコスでも、日本から届いたこれを静かに部屋で飲んで、暮れていく街を

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街行く人を見て思うこと 2022年1月 マニラ

街行く人を見て思うこと 2022年1月 マニラ

外の席に座り、街行く人を眺めていた。マニラは今日も快晴である。

この街にもスターバックスはどこにでもある。それと同じかそれ以上に幅を利かせているThe Coffee Bean & Tea Leafという店もあるが、ここのコーヒーは味がシャープでない。薄く、まったりしている。ただ単にスターバックスのコーヒーに舌が慣れているだけなのかもしれないが。

ビールもそうだけど、薄い味の飲み物が好まれるのか

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マニラ湾に沈む夕日、正月とサンミゲル

マニラ湾に沈む夕日、正月とサンミゲル


マニラ港の近くに小さなフェリーターミナルがある。その奥に大きな公園がある。公園の南側はショッピングモール、遊園地、屋台があり、凄い人出であった。一方で、公園の北側、海に突き出した防波堤の横は静かで、人もあまり多くない。そこに小さなバーがある。

マニラに来て1ヶ月が過ぎようとしていた。初めの半月は隔離期間のために部屋から出られず、後の半月は忙しく会社とホテル(仮住まい)を往復するだけであった。

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「コインロッカー・ベイビーズ」 レビュー

「コインロッカー・ベイビーズ」 レビュー

二週間くらい前に村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」を読み終えた。

・村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」

自宅の本棚からこれを取り出して読み始める。

前に読んだのはいつ頃だろうか。おそらく、高校二年生くらいの時だったかと思う。

このところ、前に読んだ本を読み返すことが増えた。前までは読み返すのではなく、新しい別の本を。もっともっと新しいことを知らなくては、そう思っていた。だから本棚に目が

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「ロッジ赤石」にて秋が来たことを知る

「ロッジ赤石」にて秋が来たことを知る

ロッジ赤石の窓際の席に座り、たい焼き屋を見ている時にふと、秋が来たと実感した。

そこにある空気が透き通っていて、明かりは柔らかく、時間はゆっくり流れていた。小さく開いた入口のドアから少しだけの風が吹き込んで、長袖のシャツの裾を揺らした。
昨晩少し飲みすぎたために頭がまだぼんやりとしている。心持ち喉の奥も痛む。煙草を久しぶりに吸ったせいだろう。

読みかけの本を読もうとするが上手く文字が頭に入って

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感情のドライブ

感情のドライブ

オフィス、そこでは感情を出してはいけない。そんな風に感じている。自分を出してはいけない。

考えてみれば、それはオフィスだからではない。世間だからだ。ずっとそういう風に生きてきたから、世間の中に身を置くとき、感情を、自分を外に出してはいけないと思っている。

なぜか。それは、関わってもらいたくないから。自分の中に入ってきて欲しくないから、だと思う。
できるだけ透明にならなくてはいけない。煩わしい思

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それが去った今思うこと

それが去った今思うこと

夏が終わろうとしていた。9月の下旬、残暑が三日間続けてなんとか最後の力を振り絞った翌日。太陽の光には柔らかい白のフィルターがかかっていた。町はぼやっと照らされていた。影の色は薄くなり、輪郭は曖昧になった。

その日、我々はレンタカーで千葉県を東に向けて走っていた。その行きの車の中で(たしか高速道路の終点を降りてすぐのころだったかと思う)、我々は突然にそれがもうそこにいないことに気がついてしまった。

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「哀愁の町に霧が降るのだ」を読んで、東京の東の端で思ったこと

「哀愁の町に霧が降るのだ」を読んで、東京の東の端で思ったこと

土曜日、九月十一日に椎名誠「哀愁の町に霧が降るのだ」を読了した。青春の話であった。一番好きなのは以下の箇所。克美荘日記の木村晋介の書いた部分である。

70年代、当時の木村青年はおそらく22歳くらいだろうか。弁護士になるために、克美荘(という小岩の古いアパートの、狭い六畳部屋での男4人共同生活)に毎日こもって勉強をしていた。昼間、仲間が学校なり、仕事・アルバイトに出かけている間に勉強をして、夕方に

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