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お茶の時間

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お茶室に、春

お茶室に、春

お茶の稽古。
朝早くお邪魔したら、まだほかの生徒さんがみえておらず、久しぶりに先生のお点前を拝見する幸運に恵まれました。
さくら色の着物に、若草色の帯を締めた先生が旅箪笥の前に座ると、お茶室の畳の上に、春の野原が広がっていくよう。

一切の無駄がなく、どこにも不自然な力が入っていない、流れるような所作にうっとり。
いつまでも、ずっと見つめていたくなります。
湯気の立つお茶碗が「どうぞ」と置かれるま

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六本木・秘密のお茶室を訪ねて〜サントリー美術館「織田有楽斎」から玄鳥庵、カフェ加賀麩不室屋へ

六本木・秘密のお茶室を訪ねて〜サントリー美術館「織田有楽斎」から玄鳥庵、カフェ加賀麩不室屋へ

「織田有楽斎展」開催中のサントリー美術館へ。

有楽斎は、織田信長の弟。武将として信長、秀吉、家康に仕えて戦乱の世を生き抜き、茶人としても知られている人物だそう。
ゆかりの茶道具や、お茶の仲間たちととやりとりした手紙を見て回りながら、人との縁を大切にした人だったのだろうなあと思いました。

展覧会の後は、秘密の隠れ家へ。
サントリー美術館の6階に、玄鳥庵というお茶室があって、展覧会開催中の指定日、

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初春のお茶会@目白庭園〜茶の湯の愉しみ

初春のお茶会@目白庭園〜茶の湯の愉しみ

初釜へ。
茶道の新年会のようなもので、私が通っている教室では、目白庭園のお茶室「赤鳥庵」を借りて行われます。

ふだんはこじんまりした茶室で数人ずつお稽古していて、通っている曜日が違うと、なかなか顔を合わせることもありません。
でも初釜では、たくさんいるお弟子さんが一堂に会して、「花月」や「数茶」など、チームワークが必要な、みんなで楽しむお点前をします。

お弟子さんたちは紋付きや付け下げ、袴に身

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その1杯を、美味しく飲んでほしいから〜お茶の稽古と、きもの散歩

その1杯を、美味しく飲んでほしいから〜お茶の稽古と、きもの散歩

お茶の稽古。
予定が詰まっていてなかなか来られなかったから、1ヶ月半ぶり。
ほかのお弟子さんが点ててくれた一服をいただいて、「あぁ、美味しい」と思わずため息が出ます。
いい香りで、熱くて、なめらかで、本当に美味しかったのです。

「それが一番大切なことなのよ」と先生。
道具の組み合わせも、一挙手一投足定められた手順もすべて、その一杯を美味しく飲んでもらうため。

先生のお茶室でいただく一服があまり

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茶道と「初心」〜秋の心尽くし

茶道と「初心」〜秋の心尽くし

お茶の稽古。

残暑きびしいけれど、床の間には秋海棠と数珠珊瑚の花。
目から涼を呼ぶ、先生の心尽くしです。
数珠珊瑚は、赤い実を数珠のようにたくさんつけることから名づけられたそう。
茶花は名前まで楽しい。

今日のお点前は、糸巻きの形に棚の一部をくり抜いた「糸巻棚」
一番下の棚板がはまっているときは水指を置いたまま、棚板がないときには水指を運び出して使います。

道具ひとつ違うだけでがらっとお点前

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お茶の稽古は、想像力の遊び(新宿御苑「あのん」へ)

お茶の稽古は、想像力の遊び(新宿御苑「あのん」へ)

お茶の稽古へ。
空手道場へ行く長男と共に、少し早起きして電車に乗り込みます。

余計なものが何も置かれていない静かな空間で、お湯が沸く音に耳を澄ませ、お茶の香りを吸い込む贅沢なひととき。
少しでも先生に近づきたくて、家でも教室と同じ銘柄の抹茶を使っているのですが、先生がお茶室で点ててくださるのと、私が自服のために家で点てるのとでは、まったく別の飲み物みたいに味が違うのです。

今日の掛け軸は「百花

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桃の花は、笑うようにひらく

桃の花は、笑うようにひらく

3月吉日、桃始笑(ももはじめてさく)。

「笑う」と書いて「さく」と読ませるいにしえの人の心意気よ。

そして桃の花は、ほんとうに赤ちゃんがほほ笑むようにふんわり咲くんだよなあ。

家族が時間をつくってくれて、お茶の先生のもとへ、引っ越し前のご挨拶に。

炭点前を教えていただいたあと、いつも通りお薄を点てる。

先生が私の襟元を見て「ほんとうに綺麗に着られてるわね」とおっしゃるので、不意をつかれて

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どんな道を通っても、人は結局同じ場所へたどり着くのかもしれない

どんな道を通っても、人は結局同じ場所へたどり着くのかもしれない

人生で一度だけ、銀座でスカウトされたことがある。
就職して数年後、体調を崩して赴任先の港町から東京に戻っていたときのことだ。

体調のいい日は、外へ出て歩くようにしていた。
けれど、何しろ病み上がりでぼんやりしているので、新宿や渋谷など歩いていると、すぐ誰かにぶつかる。
だからその日、私は銀座を歩いていた。

人と同じ速さで歩けない人にも、銀座はやさしい。
ゆっくり歩いても誰にもぶつからないし、道

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雨宿り茶会へようこそ

雨宿り茶会へようこそ

お茶。雨の日のお稽古が、実はけっこう好き。

お茶室の中はとても静かだから、屋根や地面を打つ水の音がよく響く。

掃き出し窓から、冷んやりした雨の匂いが入ってくる。

雨の音を聴きながら、苦くて熱いお茶をのむ。

湿気でぼうっとなった身体がめざめて、意識がはっきりする。

 *

お菓子は、杏をのせたういろう。

ああ、もう水無月なのだとはっとする。

もうすぐ1年が半分終わる。半年のけがれを清め

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花のいのちに心を添わせる

花のいのちに心を添わせる

お花を習いはじめました。

もともと、野に咲く花はとても好きなのですが、今までは、生きている花を鉄の鋏で切って、剣山に刺していく勇気がどうしても出なかったのです。

でも、大好きな花の前で写真を撮ってもらったら、どうしても、花たちともっと仲良くなりたくなりました。

以前から通っている茶道教室の先生が、隣の部屋で華道も教えていることを知っていたので、「先生、お花も教えていただけますか?」と思い切っ

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「今、ここ」にすべてがある〜「吾唯足知(われ、ただ足ることを知る)」

「今、ここ」にすべてがある〜「吾唯足知(われ、ただ足ることを知る)」

花散らしの雨降る日曜日。

今日も今日とて、お茶の稽古に向かいます。

教えていただいたのは「炭手前」。

お茶を点てるお湯を沸かすため、茶室の真ん中には炉があって、そこにお釜がのせてあります。

お湯がよく沸くよう、いったんお釜を下ろし、灰をかき炭を入れるのが炭手前。

あたらしいことを教わるときには、毎回あやつり人形みたいになってしまう。

先生の横で、見よう見まねで手を動かしおぼえようとする

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たとえば1杯の、お茶を差し出すように。

たとえば1杯の、お茶を差し出すように。

息継ぎみたいだな、と思うことがある。

週末の、お茶の稽古。

ふだん、仕事に没頭し家族と向き合い、合間に大急ぎで最低限の家事をしていると、あっという間に1週間が過ぎていく。

特に、コロナ禍で家にいる時間が長くなってから、水族館のマグロみたいにぐるぐると、同じところを回り続けているような気がすることもある。

そんなときお茶の稽古に行くと、明るい水面に顔を出して、深く息を吸い込んだときみたいに、

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お茶室の「一期一会」

お茶室の「一期一会」

お茶の稽古。

この冬最後の筒茶碗。

筒茶碗は、ふつうの抹茶茶碗よりも縦に長くてお茶が冷めにくいので、寒い季節に使う。

茶碗を拭く「茶巾」の扱いが変わるので少し難しい。

 *

筒茶碗を見ると、思い出すお茶の先輩がいる。

お仕事柄、指が長く手先が器用な方で、筒茶碗のお点前がとても美しかった。

コロナ禍で会えなくなってしまったけれど、お元気かなあ。

また一緒にお茶が飲めるかな。

1杯の

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茶道でマインドフルネス

茶道でマインドフルネス

お茶の稽古。

今朝はベテランの先輩と、3人だけだった。

静かな茶室に、お釜の湯が沸く音(松風)と、衣擦れの音が響き、流れるようにお点前が進んでいく。

私も流れを滞らせないよう、集中して、雑念が入らないように手を動かす。

茶筅を振りながらふと、茶道はマインドフルネス、「今、ここ」に意識を集中することに似ているなと思った。

1杯のお茶を美味しく点てる。

そのことだけに意識を向けていると、ふ

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