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【短編小説】あこがれのほうき
わたしは学校の掃除時間、ほうきを使ったことがありませんでした。ずっとずっと、ぞうきん係でした。べつにそれが嫌ってわけではなかったんです。でもやっぱり、ほうきはぞうきんと違ってあまり手が汚れないから、いいなあと思っていました。
小学校では、どの掃除用具を使えるかは早い者勝ちで決まりました。五時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ると、クラスのみんなは教室の隅っこにある掃除用具入れに勢いよく群がりま
【詩】たすけないでください
僕に優しくしないでください
何もお返しすることができません
僕を褒めないでください
誰でもできることをやっただけです
僕を認めないでください
何の役にも立てていません
僕を許さないでください
僕に授けられた罪と罰を
どうか奪わないでくれませんか
僕を慰めないでください
僕を愛さないでください
足りない僕が悪いのに
いつも誰かを妬んでは
いつも誰かを裏切って
いつかあなたを傷つけます
だ
【詩】魚かもしれない
私は魚かもしれない
魚でないというのなら
どうしてこんなにも地上は息苦しい
魚でないというのなら
どうしてこんなにも人の話がわからない
魚でないというのなら
どうしてこんなにも奇異の目で見られる
私はたぶん魚なのだ
ひれやうろこはないけれど
自分のことを人間だと思い込んでいただけの魚だったのだ
ここは私のいるべき場所ではない
早く帰らなければ
あの青く澄んだ、自由の海に
私は魚なのだから
【短編小説】おしゃべりの時間
「私カオリ。あなたはどうして、そんなところにぶら下がっているの?」
「それはね、揺れるのが好きだからさ」
「あなたはどうして、そんなにもしわしわなの?」
「それはね、たくさんの苦労を経験したからさ」
「あなたはどうして、そんなにも毛むくじゃらなの?」
「うーん、素顔を見せるのが少し恥ずかしいからなのかもしれないね」
「ふーん。あなたはどうして、そんなにも強いにおいを放っているの?」
「それは
【短編小説】大いなる意志
この作品内において、犬・猫が負傷および絶命する描写は含まれておりません。安心してお読みください。
その夜、浅倉五郎はサバイバルナイフを中年の女の締まりがない肉体に何度も繰り返し突き刺した。どくどくと溢れ出る血が、ゆっくりと路肩の溝に吸い込まれていく。女はすでに絶命していたが、それでもなお子犬をつないだリードを握りしめていた。人っ子一人いない、切れかけの街灯がパチパチとさえずる夜道にひとり残さ