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現代仏教論

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季刊『サンガジャパン』に連載した「パーリ三蔵読破への道」(のちに加筆修正のうえ『日本「再仏教化」宣言!』として単行本化)バックナンバーをはじめ、商業誌に寄稿した仏教に関する記事を… もっと読む
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記事一覧

【主張】お寺でハロウィンを

【主張】お寺でハロウィンを

最近、商店街の秋の集客のために無理やり祝われてる感がありありのハロウィン。西洋かぶれだ、商業主義だと腐す気持ちもわかりますが、ここはひとつ、仏法興隆のために活用してみてはいかがでしょうか?
 
最近では、若者の迷惑行為と結びつけて語られることもあるハロゥイン。しかし、そもそも万霊節の祝祭自体、キリスト教文化で抑圧・迫害された土着宗教の神々の鬱憤ばらし・ガス抜きという側面があるわけです。
 
抑圧さ

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日本は「同性愛」に寛容だったのか? ジャニーズ問題の根源としての伝統仏教と少年性愛

日本は「同性愛」に寛容だったのか? ジャニーズ問題の根源としての伝統仏教と少年性愛

日本は伝統的に同性愛に寛容だったとよく言われるが、乃至政彦『戦国武将と男色』洋泉社,2013によれば、前近代の男色は実質「少年との性交」で、江戸時代には性具とされた少年たちの人権(という言葉はなかったが)に配慮すべきだとして各方面から批判にさらされ、度々禁令も出され、明治維新までにはかなり廃れていたそうだ。

世に遅れた仏教寺院ではずっと陋習として残り、町人の間にもそれなりに盛んだったようだが、建

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【書評】杉本良男著『仏教モダニズムの遺産 アナガーリカ・ダルマパーラとナショナリズム』佐藤哲朗(『近代仏教』第29号、2022年5月発行 日本近代仏教史研究会)

【書評】杉本良男著『仏教モダニズムの遺産 アナガーリカ・ダルマパーラとナショナリズム』佐藤哲朗(『近代仏教』第29号、2022年5月発行 日本近代仏教史研究会)


仏教モダニズムとは何か?

 スリランカを主なフィールドの一つとしてきた社会人類学者・南アジア研究者が上梓した本書は「仏教モダニズムが、スリランカにおいて、アナガーリカ・ダルマパーラの影響力のもとで、とくにナショナリズムとの関係において、現代に至るまでどのような展開をみせてきたのかについて総合的に考えようとする、人類学的、系譜学的研究」(はじめに)である。著者は一九八〇年代から同地で吹き荒れた宗

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新興宗教からマンガまでを貫く心性とその出離|仏陀再誕はあり得ない ②

新興宗教からマンガまでを貫く心性とその出離|仏陀再誕はあり得ない ②

仏陀再誕はあり得ない前編では、ブッダや仏教をかたるさまざまな新興宗教、カルト宗教のネタ元になっている弥勒下生の信仰についてパーリ経典に基づいて論じましたが、今回はズバリ「仏陀再誕」というフレーズについて考えてみたいと思います。以前筆者のブログ*1で断続的に掲載した記事をまとめ直しました。仏教の文脈でこのテーマを論じる上では、決定版になると思います。

再誕する者は仏陀にあらず

二〇〇九年の十月に

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弥勒(マイトレーヤ)を待ちわびて|仏陀再誕はあり得ない ①

弥勒(マイトレーヤ)を待ちわびて|仏陀再誕はあり得ない ①

弥勒(マイトレーヤ)とは何者か?

東日本大震災で大きなダメージを受けた日本国のみならず、世界中で政情不安や社会不安、金融不安などが渦巻いています。実際、社会の変革期に入っているなぁという感触を抱いている人は少なくないのではないでしょうか? 精神世界やスピリチュアル界隈では、二〇一二年にはアセンションが起こるなどと、よく分からない終末論もどきの言説が交わされていました。ノストラダムスの大予言から、

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増支部(アングッタラニカーヤ)の経典を読んでみる

増支部(アングッタラニカーヤ)の経典を読んでみる

男と女の心を占領するもの(一集)

このように私は聞きました。

世尊(お釈迦様)が舎衛城の祇園精舎に滞在されておられた時のことです。

そこで世尊は比丘(出家者)たちを「比丘たちよ」と呼びました。

彼ら比丘たちは「大徳よ」と世尊に応えました。

世尊はこのように説かれました。

比丘たちよ、私はこれほどに男の心を占領する体(色)は他に一つも見ない。比丘たちよ、即ち女の体である。比丘たちよ、女の

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初期仏教から見た震災と慰霊 日本仏教「再仏教化」への提言

初期仏教から見た震災と慰霊 日本仏教「再仏教化」への提言

去る二〇一二年七月一日、鶴見大学で開かれた日本印度学仏教学会の第六十三回学術大会パネル『震災と仏教』に出席しました。パネルの概要については、コーディネーターをされた師茂樹先生の「震災と仏教(仏教学は何をめざすのか、第63回学術大会パネル発表報告[*1])」をお読みいただければと存じます。昨年三月十一日から続く東日本大震災にまつわる、末木文美士先生と(主に)私とのネット上の論争[*2]を契機として実

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震災は「天罰」なのか? 『大般涅槃経』から読み解く初期仏教の「地震」論

震災は「天罰」なのか? 『大般涅槃経』から読み解く初期仏教の「地震」論

地震は天罰なのか? 二〇一一年三月十一日の大地震に始まった東日本大震災の後で、これを「日本国民への『天罰』である」ととらえる言説があちこちで聞かれました。
 代表的な例は東京都知事(当時)の石原慎太郎氏が三月十四日に「日本人のアイデンティティは我欲になった。政治もポピュリズムでやっている。津波をうまく利用してだね、我欲を一回洗い落とす必要があるね。積年たまった日本人の心のアカをね。これはやっぱり天

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菩薩、それは空洞 テーラワーダ仏教の「ほつれ目」②

菩薩、それは空洞 テーラワーダ仏教の「ほつれ目」②

パーリ三蔵読破への道 連載第九回
佐藤哲朗

菩薩はただの呼び名 ここで、ジャータカの主人公たる「菩薩」について、もう一度考えてみたいと思います。大胆なことを言いますと、パーリ経蔵のうち、小部に最終的に入った三つを除くパーリ経蔵の古い文献では、「菩薩」という言葉はただの呼び名にすぎないのです。ジャータカの菩薩も、註釈書部分で補足されている物語を通さなければ、(1)釈尊がまだ正覚を得てない時のことを

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ジャータカ物語を読んでみる テーラワーダ仏教の「ほつれ目」①

ジャータカ物語を読んでみる テーラワーダ仏教の「ほつれ目」①

パーリ三蔵読破への道 連載第五回
佐藤哲朗

ジャータカ(本生)の世界 今回は、小部(クッダカ・ニカーヤ)のジャータカ(本生)を読んでみたいと思います。前章で詳述したように、パーリ三蔵の中でも経蔵の小部は成立が遅かったので、のちに大乗仏教に至るような仏教の変容過程を考察する上で興味深いセクションになっています。
 ジャータカとは、釈尊の前生での活躍を記録したとされる説話文学です。ジャータカというと

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律蔵に描かれたブッダのサクセスストーリー 知られざる律蔵の世界②

律蔵に描かれたブッダのサクセスストーリー 知られざる律蔵の世界②

パーリ三蔵読破への道 連載第三回
佐藤哲朗

「犍度」ってなんのこっちゃ?
 パーリ三蔵中の律蔵について、今回は犍度(khandhaka,カンダカ)、南伝大蔵経(以下「南伝」)の律蔵三巻と四巻にあたる箇所を読んでみましょう。
 犍度とは耳慣れない言葉ですが、片山一良先生の解説を引けば「僧団全体の行事運営に関わる規則とその成立の因縁話を集成した」テキストであり、「犍度とは『集まり』であり、僧団として

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ブッダの義母ゴータミー長老尼の死をうたいあげたアパダーナ(譬喩)経典

ブッダの義母ゴータミー長老尼の死をうたいあげたアパダーナ(譬喩)経典

パーリ三蔵読破への道 連載第四回
佐藤哲朗

マハーパジャーパティーゴータミー長老尼の物語
 釈尊の養母であるマハ―パジャーパティーゴータミー長老尼(以下、ゴータミー尼)は、最初の比丘尼となり、初期の比丘尼サンガを指導した女性として知られています。彼女は、釈尊に先立って涅槃に入られました。その様子が、パーリ三蔵中の小部(クッダカ・ニカーヤ)の十三番目に収録された「アパダーナ(譬喩)」という長編詩集

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仏教とジレンマ|仏教における倫理とは何か?

仏教とジレンマ|仏教における倫理とは何か?

 よろしくお願いします。今日はスマナサーラ長老の講演に先立って、ちょっとお話しさせてもらいます。「ジレンマ」という切り口で仏教と倫理の問題を見るとき、どんな論点が浮かび上がってくるか、皆さんと考えてみたいと思います。
 スライドに「議論をかき混ぜるための覚え書き」とタイプしました。講演のあとで「いい話だった」と思って満足した途端に内容が膝から落ちることのないように、皆さんが「えっ? この人何言って

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テーラワーダ仏教(『日本宗教史のキーワード』より)

テーラワーダ仏教(『日本宗教史のキーワード』より)

佐藤哲朗

布教伝道の現場から近現代の日本で断続的に試みられてきたテーラワーダ仏教(上座仏教)受容の歴史は井上ウィマラ[井上 二〇一六]、藤本晃[藤本 二〇一六]、青野貴芳[青野 二〇一四]に詳しい。本稿では、布教伝道にたずさわる当事者の視点から所見を述べたい。学生や研究者の皆さんが考えるヒントにしてもらえれば幸いである。筆者は二〇〇三年の春から宗教法人 日本テーラワーダ仏教協会(一九九四年設立。

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