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澤村伊智『邪教の子』 : 良くも悪くも〈エンタメ小説〉作家

書評:澤村伊智『邪教の子』(文藝春秋)

著者の本を読むのは3冊目だが、この作家の特徴は、ほば掴めたようだ。

著者・澤村伊智は、第22回日本ホラー小説大賞大賞作受賞である『ぼぎわんが、来る』(応募時のタイトル『ぼぎわん』)で作家デビューし、同作は『来る』のタイトルで映画化もなされている。また、長編『ずうのめ人形』で山本周五郎賞候補になり、短編「学校は死の匂い」では第72回日本推理作家協会賞(短編部門)受賞している。一一つまり「書ける」作家だというのは間違いないわけだ。

だが、結論から言えば、「うまいが、書くものは良くも悪くも型取りエンタメであり、その範疇での優等生タイプの作家」だと言えよう。つまり、「破格の傑作」とか「大化け作品」なんてものは書けない作家であろうということである。
だから、暇つぶしで読むのには手堅く便利な作家ではあるが、ホラーやミステリというジャンル小説ではあっても、何か「プラスアルファ」が欲しいという読者、「この作家でしか読めない何か」を求める読者向きではない。

例えば、私の前にAmazonにレビューを投稿している4人の感想は、おおむね肯定的(好意的)ではあるが、次のような感じである。

『テンポよくぐいぐい読めるので厚みの割に時間がかからない。エンタメ性が高く、数時間読書に没入したい時におすすめ。ラストはもう少し余韻があってもいいのでは、という気もした。』
 星4つ(Amazonカスタマー)

『ライトで読みやすいのに、どんでん返しもきっちり盛り込んで綺麗にまとめてあったというのはとても素晴らしいとは思うのですが。』
 星3つ(メープルラブ)

『決して面白くなくはない…のですが、』
 星4つ(まゆ)

『面白いのは、まちがいない』
 星3つ(グレ猫ちゃん)

ついでに、ホラー大賞選考委員であった綾辻行人の『ぼぎわんが、来る』評も引いておくと、

『文句なしに面白いホラーエンターテインメントである』

となっている。
一一つまり、すべての人の評価は、ほぼ一致しており、要は「うまいし、それなりに面白いのだが、それ以上のものはない」ということである。

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私はこの作家をホラー大賞の受賞者として知り、長らく気にはしていたが、長編を読むほどの興味までは持てなかったので、最初に読んだのが短編集『ひとんち』だった。だが、その際の印象も「うまいがイマイチ」だった。
それでも、長編『予言の島』を読むことにしたのは、この作品が「新本格ミステリ」へのオマージュ作品だと知ったからである。私は、もろに「新本格」世代だったからだ。一一しかしこれも、読んだ結果は「凝ってはいるが、イマイチ」というものだった。

そして、これまた、それでも今回『邪教の子』を読んだのは、私が自覚的に宗教批判を行っている「積極的無神論者」だからであり、「宗教」には一家言があったから「どのくらい書けているか」が気になったのと、本書のタイトル『邪教の子』が、芥川賞作家・今村夏子が、新興宗教の信者一家を「普通の家族」として描いた『星の子』(野間文芸新人賞受賞作。芦田愛菜の主演で映画化)を「裏返した作品ではないか」と推測したからだ。また、もしかすると、新海誠監督の長編アニメ『天気の子』を、どこかで意識した作品かも知れないとも考えた。

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結果としては、本作は『星の子』や『天気の子』との内容的な関係は無かった。つまり、私の「深読み」のしすぎであった。

無論、本作『邪教の子』でも、いろいろと工夫がなされており、エンタメとしてはそれなりに楽しめる。しかし、例によって、そこまでである。
「宗教」や「人間」についての見るべき洞察など無いし、ミステリの部分での工夫も、これといって新しいものがあるわけではない。つまり、それらしい素材を集めてくて、それらしく上手に組み上げられた「85点」の作品、といった感じの仕上がりだ。

結局、「なんでこの人は、こんなことをしたの?」という読者の疑問に、「それは狂気だからです」と答えて済ませられるような作品は、エンタメにはなり得ても、文学にはなり得ないということであろう。


初出:2021年9月14日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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