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『地に巣くう』(光文社 あさのあつこ)

『地に巣くう』(光文社 あさのあつこ)

○月○日

ラーメン「○○」が恋しい。

真っ黒のスープ、れんげを差し込めばふわっと浮き立つ湯気、口に含むと見た目とは裏腹にあっさりとした味わいだ。脳でラーメンを食し、現実で日の丸弁当。

あさのあつこ『地に巣くう』を読む。

文芸も担当していてよかった!お客様を差し置き一番乗りで購入!

暗く地を這うような情念は密に絡み合って、この世は正に地獄。業を焦れ求める者、背を向け続ける者。張り詰めた物語

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日本語の使い方が好きな作家

日本語の使い方が好きな作家

(某社のweb記事にて、「日本語の使い方が上手だ、きれいだと思う作家は?」という質問に答えて)

独特の美しい表現を使う作家さんだな、と思う小説家は道尾秀介さんです。比喩表現、文章の長短の使い方、おそらく構成も、表現のために吟味されつくしているように思います。

余計なものがない、そがれているな、と思う小説家は湯本香樹実さんです。シンプルであるとは思わないのですが、言葉に過不足がないと言いますか。

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『ザ・ロード』とのつづき(コーマック・マッカーシー ハヤカワepi文庫)

『ザ・ロード』とのつづき(コーマック・マッカーシー ハヤカワepi文庫)

『ザ・ロード』という小説があります。コーマック・マッカーシーというアメリカの作家がピュリッツァー賞をとった作品で、終末後の世界、廃墟と化した大地で、次第に人間性を失っていく生き残りの人々の中を旅する父子の物語です。

父は子を守ります。ひたすらに守ります。(地元)に帰ってきてから、ママはずっとその本をカバンに入れていました。子供を守らなくてはならない。生かさなければならない。そんな切迫感の中で、こ

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『終わらない歌』(宮下奈都 実業之日本社)

『終わらない歌』(宮下奈都 実業之日本社)

足元から震えがのぼってくる。
あぁ、気が狂いそう。やさしいうたが好きで。

この作品に込められた力強いエール。途切れず紡がれる勇気の歌。

大人になっていつの間にか、しょうがないんだ、これが大人なんだから、ここで頑張るしかないんだからとただ歯を食いしばるだけで、泣きそうになっても見ないふりしてやり過ごした。

なのに宮下奈都は、また聞かせてくれる。

人にやさしくしてもらえないんだねと。いつだって

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『かっこうの親もずの子ども』(椰月美智子 実業之日本社

『かっこうの親もずの子ども』(椰月美智子 実業之日本社

『かっこうの親もずの子ども』(椰月美智子・実業之日本社)読了。

ここにいるのは、私だ。

生々しく、まるで小説を読んだ気がしない。

子育て小説というよりは、子どもという命を取り巻く物語だと思った。

幼児誌の編集部で働くシングルマザーが主人公。彼女には不妊治療の末産んだ息子がいる。夫の希望もあって出産したが、離婚した。そんな親子。

一人として同じ思いを抱く親はいない。

みんなそれぞれの苦し

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『流れ星と遊んだころ』(連城三紀彦 双葉文庫)

『流れ星と遊んだころ』(連城三紀彦 双葉文庫)

『流れ星と遊んだころ』読了。

虚構に虚構が重なり合って入り乱れ、反転、また、反転、一体なにを信じればいいの、と思ったらすたっと終わる。連城三紀彦の築いたほろ苦い迷宮。

芸能マネージャー、彼が出会ったある男、その恋人の女、三人を軸に進む話なのだが、ストーリーを言うとネタバレだろうし面白くないだろうから、控える。

解説は千街晶之さん。『戻り川心中』の解説も千街さんだった。2013年に亡くなった連

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『銀二貫』(高田郁 幻冬舎文庫)

『銀二貫』(高田郁 幻冬舎文庫)

震災の日から読み直し、今年も読了。

『銀二貫』

「みをつくし」シリーズで人気の時代小説作家、高田郁さんの読み切り長編だ。

午後になって、突然問屋のシステムがダウンした。

原因もわからぬまま、検索システムが使えない状態で、忙殺された。

5時ごろから休憩に入り、ようやく誰かに、どこかで地震があったらしいと聞く。

お店の貴重なパソコンを、ニュース検索に使う時間はなくて、休憩時に携帯を見たスタ

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『ザ・ロード』(コーマック・マッカーシー ハヤカワepi文庫)

『ザ・ロード』(コーマック・マッカーシー ハヤカワepi文庫)

この本との関係を、一度清算するべき時がきた。

『ザ・ロード』 コーマック・マッカーシーが描いた終末後の世界。 廃墟と化した大地を、人間性を失っていくわずかな生き残りの中を、父子が旅していく。

父は子を守る。ひたすらに守る。それが、彼の保つ生へのよすがで、灯火なのだ。子は父を守る。守られるべき存在として共にあることで。

この本を、ずっと鞄に入れていた時期があった。

たぶん、辛かったのだ。苦し

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『ピエールとリュース』(ロマン・ロラン 鉄筆文庫)

『ピエールとリュース』(ロマン・ロラン 鉄筆文庫)

それは、甘い恋だった。

ピエールはパリに住むブルジョワ家庭の青年。18歳の彼は戦争への召集を受けており、6か月後には徴兵されることになっていた。戦争に対してよい感情を持てない彼は、重い心を抱えたままでいる。

1918年1月30日、偶然乗り込んだ地下鉄で、彼は運命の出会いを果たす。同じ車両に乗り合わせた女の子に目を惹きつけられた。その時、地上でドイツ軍機が鈍い爆裂の音を響かせ、トンネルの闇を走る

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