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読書感想文

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読んだ本について、考えたことを書きました。
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平成転向論 小峰ひずみ

平成転向論 小峰ひずみ

 いいこと書かなあかんプレッシャーを勝手にかけて、全然書けなかった。

 でも、今しか書けないことがある。

平成転向論(小峰ひずみ、2022)

 出版されてすぐ借りて読み、また今年に入って必要な気がして購入した本。

「転向」という言葉について、簡単に。

 平成転向論が取り上げているのは、SEALDsの転向だ。

 SEALDsが活動していた時、ちょうど僕も大学生だった。でも、今以上に社会の

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言葉を失ったあとで 信田さよ子・上間陽子

言葉を失ったあとで 信田さよ子・上間陽子

対談形式の本で、感想を書くのは難しい。
でも、とてもいい本だった。

だから、がんばって書き残す。

 数年前と比べて、「唯一絶対の正しさ」みたいなものとずいぶん距離を取れるようになった。

 言葉を探しながら迷いながら、綺麗な言葉じゃなく等身大の言葉で、自分の思いを話す力が身についてきたのだと思う。

 自分の思いを話すことについて、3年以上前に書いたメモを引用したい。言葉がとても堅苦しくて、論

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異なり記念日 齋藤陽道

異なり記念日 齋藤陽道

僕は聞こえる人。

聞こえない(聞こえにくい)人とは「異なる」

趣味とか好きな食べ物とか、共通点は見つけられるし、ほとんど「同じ」人間だと思う。

ただし、聞こえないことによって不便で孤独で辛い一面があることも事実だ。

そういう意味で僕と彼らは「異なる」し、実は彼らの中でも聞こえ方や育ちによって「異なり」がある。

「君は聞こえるし喋れる。(ろうの)私より幸せだ」

先日、初対面のろう者から言

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正欲 朝井リョウ

正欲 朝井リョウ

 他人が生きている世界を、できるだけ分かりたい。真の理解はできなくとも、理解しようとし続けたいと思って生きている。

 僕の視点は一つだけれど、その背後に僕の隣人(障害者)から見えた世界を意識して、彼らの目を持ってこの町を歩くことができる。まだまだ残る差別、置いてけぼりにされている人たちの権利について、気づくことができる。理解は暴力であり、完全ではないと自覚しながらも僕はある程度「理解できる」と言

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心はどこへ消えた? 東畑開人

心はどこへ消えた? 東畑開人

 ついつい僕は、大きくて抽象的で、血の通わない文章を書いてしまうなあ。

 東畑開人の「心はどこへ消えた?」は、そういう大きな話ではなく、具体的で個別の、カラフルなエピソードが詰め込まれたエッセイ集。

 臨床心理士の筆者が、これまで出会ってきたクライエント(カウンセリングに来た人)について、事実を一部変えたり、創作したりして作られたエッセイがたくさん載っている。

 しかし、あとがきにはこんなこ

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手話通訳者になろう 木村晴美・岡典栄

手話通訳者になろう 木村晴美・岡典栄

 手話に触れる機会が減って、でも何か繋がっておきたい気持ちがあって、買った本。

手話通訳ってどんな仕事?

 そんな素朴な疑問に丁寧に答えてくれるのが、今回の本「手話通訳者になろう 木村晴美・岡典栄(白水社)」

 著者の木村晴美氏は、ろうの世界では超有名人。実際の動画とかを見てほしいんだけど、ものすごく手話が上手い。上手いと評価するのもおこがましいぐらいの、丁寧で洗練された手話の人。

 前半

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「非モテ」からはじめる男性学 西井開

「非モテ」からはじめる男性学 西井開

男友だちにおすすめしたい本ランキングを作るなら、トップ3に入る本。

 とても読みやすく、丁寧。問題意識は、以前感想を書いた「さよなら、俺たち 桃山商事」とかなり近い。というか、本の帯文を桃山商事の清田隆之氏が書いている。

 今回の本は「『非モテ』からはじめる男性学」(集英社新書)。
「非モテ」って何?と思う方も多いかもしれない。それは、モテないこと。タイトル通り男性視点で書かれているので、「恋

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急に具合が悪くなる 宮野真生子・磯野真穂

急に具合が悪くなる 宮野真生子・磯野真穂

先日読んだ「ダイエット幻想」の中で触れた「急に具合が悪くなる」
前の感想でダイエット幻想の後半部は宮野氏の影響で議論が薄まったんじゃないかと書いた。イメージで批判するのはよくないから、実際に読んでみた。宮野氏とのやり取りの影響はあるけれど、考え自体は磯野氏スタートのものだったと思う。議論の失速感は、どちらかというと紙面の問題だったのかなと。ダイエット幻想後半の部分を、本書では丁寧に扱っていた。

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「差別はいけない」とみんな言うけれど 綿野恵太(3)

「差別はいけない」とみんな言うけれど 綿野恵太(3)

前々回、前回に引き続き、「『差別はいけない』とみんないうけれど。」の紹介をしていこう。

 改めてこの本の目的を大筋を確認すると、現代において多くの人は「差別はいけない」と思っているけれど、なかなか差別は無くならない。むしろ、差別を無くそうと活動している人に対して何となくモヤモヤしたり、反発感を覚えたりすることもある。そこには差別されている少数の弱者が優遇され、大多数の人たちが割りを食っているよう

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「差別はいけない」とみんな言うけれど。 綿野恵太(2)

「差別はいけない」とみんな言うけれど。 綿野恵太(2)

前回の「差別はいけない」とみんないうけれど。の紹介の続き。

 まず前回の振り返りから。本書のテーマは、「『差別をなくそうとする人』に反対する考え方を理解すること」だった。
 その際のポイントは、ほとんどの人が「差別は良くない」と思っているのに、差別を無くそうとする人たちにモヤモヤすることがあること。そして、「差別をなくそうとする人=反差別の人」に反対するのは、このモヤモヤが大きくなった「お前たち

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「差別はいけない」とみんないうけれど。 綿野恵太

「差別はいけない」とみんないうけれど。 綿野恵太

 準備運動が必要な本がある。綿野恵太による「『差別はいけない』とみんないうけれど。」が出版されたのは2019年の夏。当時ちょっと目を通したけれど、しっくりこなくて読むのをやめてしまった。

 あれから2年、何だか読めそうな気がして、手に取った。内容はだいたい飲み込めたと思う。きっと準備運動が済んでいたから。

 この本は、色んな人の理論(ピース)を並び替えて整理している。だからピース自体を知ってい

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お砂糖とスパイスと爆発的な何か 北村紗衣

お砂糖とスパイスと爆発的な何か 北村紗衣

 僕はいつも映画を観た後、感想を書いている。そのとき、気をつけていることが1つ。それは、他の人の感想を目にしないということ。
 ついつい気になって検索したい気持ちを抑えて、まず自分の言葉で映画の感想を残す。それからネットで調べて、面白い考察を探す旅に出る。全然気づかなかった伏線や新しい解釈に、偶然出会えるかもしれないから。

 映画や小説をもっと楽しむ方法、それが批評だ。別に専門用語を使わなくても

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ダイエット幻想ーやせること、愛されること 磯野真穂

ダイエット幻想ーやせること、愛されること 磯野真穂

 痩せている方がかわいい、かっこいい。いつからそう感じるようになったんだろう。

 磯野真穂の「ダイエット幻想 やせること、愛されること」(ちくまプリマー新書)は、周囲からの評価に囚われて、ダイエットする人たちの話だ。

 この本では、ダイエットの前に「自分らしさ」には他人が必要という矛盾から話が始まる。「他人のことを気にせずに自分の道を進んでます」という顔をしながらも、「他人に評価される能力や特

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リベラルとは何か−17世紀の自由主義から現代日本まで− 田中拓道

リベラルとは何か−17世紀の自由主義から現代日本まで− 田中拓道

 高校生のとき、政治経済の授業を取っていたけれど、政府の経済政策も、国際問題のニュースも、いまいちよく分からない。選挙になると、どうやら投票率を上げた方がいいらしいので、投票所に行く。でも、政治と僕の距離は、遠く離れた親戚の叔父さんぐらいある。どうやって関わったらいいのか分からない。分からないことだらけで、気づけば衆議院議員の被選挙権まで得てしまった。これが、僕の政治経済の知識の限界だ。

 これ

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