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『掴めない死を掴み取る』さだまらないオバケ

人の死は物悲しい。
紛うことなき一つの事実だと思う。


生きていた人間が、そっくりそのままいなくなる。
「旅立った」と表現しても、その人は決して帰ってこない。
一人の人間がいた空間は、他の何かで完全に埋めることはできない。
死から立ち直るためには前へ進んでいくしかないのだ。

それでも、死から湧いてくるのは本当に悲しみだけなのだろうか?

死んだその人と触れ合った日々の記憶、学び取った生き様。
眩しく輝く思い出まで葬り去るべきではない。
丁寧に拾い、礎にする。
そうすれば、悲しみもいくらか和らぐだろう。

現代の日本ではタブー視されている、死についての話題。
同調の中で封印してしまった感情を引き出し、吐き出していく。
人が死に向き合える社会を目指して、『さだまらないオバケ』プロジェクトは奮闘する。


死は「語られない」ものである。

デザイナー育成機関である東京デザインプレックス研究所、その企画の一つであるフューチャーデザインラボにて『さだまらないオバケ』プロジェクトは発足。
未来の社会課題をデザインで解決するという課題設定の中、プロジェクトメンバーが着目したのが「死」についての問題だった。

「ラボの先生がお母さんを亡くして、遺品整理で困っていたんです。『残しておくほどではないけど捨てられないものがある』って。そこから遺品整理について調べたら、遺品を捨てられない悩みを抱えている人がたくさんいて。これは遺品をどうするというより、亡くなった事実に向き合いきれてなくて、心の整理が上手くできていないことが問題なんじゃないかと」

掘り下げていくと、自分たちも同じ問題を抱えていたことに気づく。
いままで、自分たちはそれを問題だとも思っていなかった。
そこに社会課題が隠れていた、とメンバーたちは悟っていく。

「亡くなった事実そのものが悲しすぎて、触れられないままになっていると思うんです。けど、ずっと思い出さないでいることが本当にいいのか? 思い出さないより発散した方が近道になるんじゃないか? と考えています。無関心すぎることにも問題があると思っていて、何かきっかけがあれば思い出して、自分にとって大きな存在だったと気づけるかもしれません」

誰かが死に、その人とのつながりは終わる。
現代社会の価値観では、死は隔絶を生じさせるものとして固定されている。

そこで提唱するのが「死のリデザイン」。
プロダクトやイベントを通じて「死」へのネガティブなイメージを塗り替え、いつでも語り合える社会にすること。
『さだまらないオバケ』は、死を慰めることだけが目的ではないのである。

故人への想いを引き出し、いまを生きる希望を引き出す。
プロダクトでの体験を通して押し殺していた気持ちを認識してもらい、その人の死に対する印象を転換させる。
死は前に進んでいくための材料も隠されていると、メンバーたちは確信している。

「自分の家族が親しい人の死別を経験してから、そのあと身の回りの幸せに目を向けられなくなったんです。悲しみから抜け出せなくて、自分の気持ちに向き合わないでやりすごしてしまった。環境として孤独ではないのに、心の中で孤独という状態があったんです。しっかり死別と向き合えば、だんだん視野も広がっていく。その人が生きていた事実や楽しかった思い出にフォーカスを当てたら、『生きていた証を引き継ごう』と自分の人生の希望にも変えられると思っています」

遺された自分たちにはただ生きていくことしかできない。
ならばせめて、生きている自分たちの糧にする。
何度でも暖かい気持ちで思い出し、忘れないように。

誰かの死を語る。
それはまだまだ命の続く自分の人生に、活力を与える行いでもある。


『さだまらないオバケ』ロゴ。
人の死をどう解釈するか。正解はなく、さだまらない。
多様な死生観を肯定する不定形な雲に、不安定な顔のパーツを入れた。

デザインで死に興味を持たせる。

「ひきだしプロジェクト」を中心に、『さだまらないオバケ』は各方面で「死のリデザイン」を実践中。
その功績は世間から徐々に認められつつあり、「死への向き合い方をリデザインする活動」としてグッドデザイン賞2023を受賞している。
製作したプロダクトには「ソラがハレるまで」と「ひきだしノート」がある。

「ソラがハレるまで」はもやもやした気持ちを晴らすためのカードゲーム。

プレイヤーはお題に対して故人を想定して回答していき、最も「あの人(故人)らしい!」となった回答が全員の投票で選ばれる。選ばれたプレイヤーは雲を取ってポイントを獲得できるので、「あの人(故人)らしい!」回答を出せるかが鍵となる。
思い出を語って盛り上がるツールとして、お盆や法事の集まりに役立ててほしい。

「ひきだしノート」は書くことで気持ちを整理するワークノート。

前半は故人のことを思い出すワークに、後半はその思い出を踏まえ、自分がどう生きていくかを考えるワークに取り組んでいく。
「自分のこれから」を着地点に、その支えとなる故人の存在を思い出す、という構成だ。

死をキーワードに、葬儀業界とのコラボレーションも。
葬祭用品メーカー三和物産株式会社とのコラボによって誕生したのが「雲もなか」だ。

お供え物として定番のもなかに、ちょっとした遊びをトッピング。
故人に対する想いを色で表現し、専用の粉で白あんにその色を付ける。
雲のかたちのもなかにはさみ、色にまつわるエピソードを共有して最後はいただく。
色を起点に幅広い世代が故人への想いを語り合える、暖かな場づくりを目指したという。

この他、お酒を飲みながら死生観を語れる「デススナック」、葬儀の実体験を特集した「葬儀の心のこり展」の共催など、イベントの開催にも力を注いでいる。
この先も葬儀業界で死をリデザインしていくようだが、「いつかは生きることや命の始まりにも携わっていきたい」と語ってくれた。

死という重いテーマを扱っているにもかかわらず、『さだまらないオバケ』のデザインはどこかポップな印象だ。
使われている色もカラフルで、死から想起する白黒のイメージからはかけ離れている。

プロジェクトが想定しているのはメンバーと同世代、20代から30代の若い世代。
自分たちが親しみを持ちやすいポップさで、まだまだ死に疎い同世代にも死に向き合ってもらいたい。
死に気軽に触れ、死を自分ごととして体験する。
その体験を届けていきたいという。

死に触れたとき、人の心は揺れ動く。
さだまらない、それでいい。
揺れ動いた心の底で何かを一つ、見出しさえすれば。
それはきっと、今後も自分の心で生きてくれるはずだ。

プロジェクト情報

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・公式ネットショップ

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執筆者:廣瀬慎

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