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小説「ヘブンズトリップ」_25話 完
翌日の放課後、帰りのホームルームが終わったらすぐに二階へ降りて、史彦のクラスへ向かった。楠木と川田が職員用のトイレに必ず来るとは限らないので一度、確認する必要がある。
実際にタバコを吸っている生徒なんてもっとたくさんいる。学校の中でも吸うというのも一つのステータスなのだろう。最初は何のことかわからなかったが、ヤニなんて読んでるやつも知っている。まあ、知っていても暗黙のルールというやつでうまい具
小説「ヘブンズトリップ」_24話
太一には、警察のやっかいになったことを省いて、今回のことを話してやった。
すっかりストーリーテラーになった俺は声を低くして、心霊番組の語り口調で、暗い山道を車で走ったことなどを大げさに話した。
話を聞き終えた太一は、「思い出したら今日寝られないかも」とずいぶん怖がっていた。
その後、
若い小児科の先生が俺たちの側に来た。
「太一君、お母さんも来たみたいだから、診察室でお話しよう」
「は
小説「ヘブンズトリップ」_23話
病院の待合室にはほとんど人がいなく、黒の学生服を着た俺はずいぶん目立つ。
スタスタと通路を抜け、入院患者が多く利用する休憩スペースまで、やってきた。
史彦は自販機近くのテーブルでパソコンを開いていたので、すぐにわかった。向かいに太一も紙パックのジュースを手にしながら、おとなしく座っていた。
すぐに駆け寄ると太一は俺の登場に大きく反応した。
「お兄ちゃん!」
太一に後ろめたさを感じていた
小説「ヘブンズトリップ」_22話
俺を後部座席に乗せた警察官の男性は、不愛想で無口だった。
流れる朝方の景色をただ、一点に眺めていたら、昨日の夜に俺たちが見た遊園地が鉄作の向こうに見えたので、俺はあわてて質問した。
「あっ、あの・・・」
「あっ、なんだ?」
バックミラー越しに返事をした警察官は意外といい声をしていた。
「あそこの遊園地って?」
俺が曖昧な質問をしてるうちに遊園地はすでに過ぎ去っていった。一瞬、俺の目
小説「ヘブンズトリップ」_21話
話の続きだ。
史彦が「大変だ」と言ったのは、これから受ける事情聴取についてだった。
警察はまず、彼らは三人を確保することと、俺たちの身の安全を最優先にして、特に何も聞いてこなかったらしい。
ということは・・・・。
史彦と同じようにしゃがみこんだ時き、さっき俺が、目覚めたパトカーの運転席からドアを開けた。
「寒いから中で話をしよう。早く入りな」
優しそうな警察官のお兄さんがとほほえみな
小説「ヘブンズトリップ」_20話
俺はすっかり気を失ってしまったみたいだった。心地よく眠っていたようでスッキリと目を覚ました。よかった。とりあえず、生きてる。
隣に史彦がいると思って目を向けるが、そこはどこだかわからない、覚えのない場所だった。
俺が眠っていたのは車の中ではあったが、助手席ではなく、後部座席。
史彦の姿が見えない。そしてこの車はマークⅡではない。
窓の外を見て確認しようと状態を起こしたら、バックミラーを通し
小説「ヘブンズトリップ」_19話
七、八メートルくらいあるこの高さから落ちたら、どうなるかわからない。
でも、もう他に道はない。
「呪縛からの開放」
再び、あの男たちの声が聞こえて、俺たちは凍りついた。
こっちに向かってきている。早くしなきゃ。
「俺がダメになっても、お前だけ逃げろよ」
史彦はその言葉を残して、あっさり飛びおりていった。
粒のように小さくなって、木々の間に落下していった史彦は不思議な音を立てて森の中
小説「ヘブンズトリップ」_18話
わずか数秒。
めざし帽をかぶって顔を隠した男性が何かを振りおろす瞬間に俺らは遭遇した。
瞬間的に振りおろされた木の棒のようなものが自分の眼球に向かってくるのを見逃さなかった。
おどろいている暇などなかった。
「また、あの時みたいになるわけにはいかない」と感情が先に危険を脳に伝えて、動かした。
顔面に直撃すると認識した隙に俺は顔をそらした。木の棒のささくれ立った部分がすさまじい勢いで右の
小説「ヘブンズトリップ」_17話
「おい」
聞こえないくらいの声で史彦はつぶやく。小さなつぶやきでも前に進む意思が感じ取れた。
生い茂る草の中にほっそりと一本の道が階段状に続いている。先は見えない。
一歩、また一歩と進むにつれて、高さをつけた植物が、葉を伝って雨水を顔に飛ばしてくる。
早足の史彦に置いていかれないように俺も歩幅を大きくして右足を踏み出す。
おかしくて不可解な光景。自分の目を疑い、声を失った・・・。
小説「ヘブンズトリップ」_15話
「ここで休むか?」
「眠くなってきた」
今度は仮眠を取っていない俺のほうが眠くなっていた。
二人とも車のシートを後ろに下げて、フロントガラスから空を眺めた。ずいぶん近い空にはポツポツと星が浮かんでいる。
俺は一日の疲れを吐き出すように長い溜息をついた。
「病院で太一と話したのか?」
「ああ、史彦もあいつのこと知っていたとは思わなかった」
「あいつ、ずいぶん長く入院してるからな」
小説「ヘブンズトリップ」_14話
冷えあがった心臓は通常の温度の取り戻した。
走り進んでいくと道路の幅は狭くなり、フロントガラスから目につくガードレールの数も少なくなっている。
車内のデジタル表示の時刻は十一時を示している。
一旦、路肩に車を寄せてエンジンを切り、地図を二人で確認することにした。車内灯を点けないとさすがに何も見えない。
「この辺だ」
目的地には山を切り開いた道を通らなければならない。現在地の場所から指で
小説「ヘブンズトリップ」_13話
俺らよりも怪しいのはお前らだろう。
そんなことは口に出すわけにはいかなかった。
誠司と名乗った同じ年の青年は地元の高校生で、一緒にいた連中はバンドメンバーだと説明してくれた。全員年上で一番上は二十二歳の大学生だと教えてくれた。外見はひどいけどみんな優しくいい人たちだと言う。
「大学生も高校生もそんなに変わんないよ」
「どこで知り合ったの?」
「ライブハウスで」
俺はライブハウスなんて
小説「ヘブンズトリップ」_12話
車は山あいの道を走っていた。一度はネオンの光が眩しい繁華街に出たのだが、どこにも用がないということで再び、国道の道を走っていた。
遅く食べた昼食のせいで、夕食の時間が過ぎてもまったく空腹にはならなかった。
「ちょっと休憩がてら・・・」
と言って道路脇にひっそりと佇むコンビニの駐車場に車を停車させた。
「疲れたか?」
「うん」
史彦は鼻から息を吐いた。
「ちょっと休ませて」という史彦